第24話 バイト女子は、抜け出したいけど、抜け出さない。
ザーッ…。カチャカチャ…。
2人分の食器と料理道具を洗い終え、ふきんで拭いて元の位置に戻す。
「いいわよ、食洗機に突っ込んでいて…。ゆっくりしてなさい。」
ミチさんはそう言ったけど、普段してることをしないのは、なんとなく落ち着かなくて、自分からやりたいと言って今に至る。
ミチさんは、お風呂を入れてくると行ったきり、まだ帰ってこない。
「なんか…なんにもなかったみたい…。」
独り言…と思ったけど…はるちゃんがこちらをみてた。
…猫だから、いっか。内緒にしておいてね。
ここに来るまで悩んで悩んで、行きたくないなとすら思ったのが嘘みたい。
どう話したらいいかとか、忘れるべきかとか色々思っていたこと、恐れていた居たたまれない空気は、この大雨の中、子猫と一緒に預けられるというハプニングで、どこかに消えていってしまった。
同時に、謝るタイミングというか、なんかあの時の気持ちを、確かめるような、そんなタイミングは完全に逃してしまったみたいだ。
「それにしても、美味しかったなぁ。」
ブランマンジェが入っていた器を布巾で丁寧に、拭きながら思い出す。
思いがけず、取り付けた約束に胸の奥の方が音を立てる。
成人したら…そんな未来の中にも当然のようにミチさんがいることが、どんなに嬉しいか、きっと知らずに言っているんだろう。
でも、それでもいい。
その当然の未来が訪れるなら、もう、このままでも、いいとすら思えてしまう。
お兄ちゃんがいて、ミチさんもいる。
そのために、ミチさんがお兄ちゃんに想いを告げることはないんだと言う。
でも、ほんとにこのままでいいの?ミチさんはずっと苦しくないの…?
…危ない目にあって、ミチさんに助けてもらって…つり橋効果…なんて言われるかもだけど、私は、ミチさんに恋をした。
それと同時に、ミチさんは心が女性で、お兄ちゃんが好きと聞いてしまった。
初恋は実らない…でも、そう割り切れるほどの距離を置くこともできないまま、今になった。
高校生になって、親友の妹として、アルバイトとしてミチさんのそばにいる。
望んだ形かどうかは、よくわかんないけど、嫌じゃないとも、思う。ずっとこのままだって保証があるなら…。
…そんな保証…どこにもない…けど。
考えてもわからないことだらけだ。
今は、成人して初めに飲むお酒がミチさんの作ってくれたカクテルになることを信じて、楽しみにしよう…。
食器は片付いてしまった。
はるちゃんは、小さな身体をめいっぱい伸ばしたあと、また丸くなった。
「ミチさん、帰ってこないなぁ…。」
私がミチさんにしてあげられることって、ないのかな…?
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