第22話 器用貧乏男子は、預かりものに翻弄される。その2
「ほのか、アンタをはると一緒に今晩預かることになったわ。」
「えぇっ…えぇ…。」
ミチさんは、真剣な顔で説明してくれた。
お兄ちゃんは、少し遠くに外出していたお母さんのために車で迎えにでたらしい。
でも、遠いから、たぶん今晩は帰れなくて、今私が家に帰ったとしても1人ぼっち。
もう高校生だから、普段なら平気だけど、こんな災害級の雨だと何が起きるかわかんないから、兄としては一人にしてはおきたくない。で、ミチさんと今カフェにいるなら安心だってことになって、迎えに行くこともできないし、送ってもらっても結局1人だから、それならそのまま一晩預かって?っていう話だったらしい。
「はるのこともカノっちから預かってんだろ?ついでに頼む!」っていうひどい言い草とともに、私の今夜の過ごし方はついでに決められてしまった…お兄ちゃん、帰ったら覚えててね…?
「年頃の女の子を男の家に、泊めるって…それも猫の子同然に扱うとか…一度話し合う必要がありそうね?」
ミチさん、怖い…穏やかに、怖い…。きれいな顔立ちの人が真面目な顔すると迫力が…違う。
…ていうか、猫の子同然に扱うってとこに怒ってるの…?…怒るのそこじゃないと思うけど…。
「ミチさん、お兄ちゃんが…ごめんね?私なら大丈夫だから、ちゃんと帰れるよ?」
…バイトの時間も過ぎてしまって、そもそも開店準備の仕事は、開店しないのだから無いのだ。親友の妹とはいえ、送ったり、泊めたりなんて、そこまで甘えてしまっては申し訳ない…。
「あぁ、ごめんね。そうじゃなくて…ハルはともかくアンタに怒ってんじゃないの。確かにこんな酷い雨でこのまま帰すのは心配だし、1人で家にって言うんなら、なおさら誰かと一緒にいる方がまだいいとは思うし…だけど、アンタが困ると思って…。知らないとこじゃないだろうけど、ハルみたいに泊まったことはないでしょ?」
気遣うような顔で、少しかがんで私の顔を覗き込むその仕草に心臓が跳ねる。
「わっ…たしは、えと、大丈夫…その…うん、なんにも泊まる準備とかないから、ちょっとそういう意味では困ることもあるかもだけど…明日の朝には雨も止むみたいだし…。」
「あぁ、そうね…。着替えとか、なんにも無いわよね…。アタシのじゃ…さすがに、大きいだろうし…。」
「あ、学校のジャージ!持って帰ってきた!それならある…けど…だめだ、今日汚しちゃったんだった。」
この際、多少汚れてても…とも思ったけど、今日は外掃除だったから、泥で汚れたんだった、部屋着には、できそうにない。
「あ、ハルの服なら平気?その辺に忘れてったのがあったかも…って、あらら、だめみたいね…。」
ミチさんの見る方に視線を移すと、見たことあるパーカーに、灰色のふわふわ。はるちゃんが、しっかり陣取っていた。
「なんでよりによって、このパーカーの上で寝るのかしら…今さら抱っこしてどかしても毛だらけよね…?」
「うん、たぶん。…ふっ…くしゅんっ…。」
思いがけず、くしゃみが出てしまう。
雨の中を歩いてきて、傘はあったけど少し濡れてしまった。だんだん、気温も下がってきた気がする。
「大丈夫…?…もう、しょうがないわ。大きくても少し我慢してこれ着てて。」
ミチさんはハンガーにかけてたパーカーを取ってきてくれた。
「…洗濯は、してあるから。」
「ありがとう。お借りします。」
大きいけど、あったかい。奪われてた体温が少しずつ戻ってくる。
「…ぶかぶかね…。ま、一晩我慢して…。」
目を逸らして、口元を押さえてるミチさん…少し震えてる…?
「ミチさん、もしかして笑ってる…?」
「笑って…なんかないわ…。」
「…そう…?」
てっきりからかわれるかと思ったのに、そうじゃなかったみたい。
「そうだ、ねぇお腹すいたでしょ?夕飯作ろっか。何がいい?」
「えっ…じゃあ私手伝う!オムライスがいい!」
そうして、私とミチさんとはるちゃんと…ふたりと一匹の雨宿りの夜が始まったのだった。
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