第17話 能ある店長は爪を隠しきれない。
「へぇ〜お前ほんとに何でも出来るのな…。」
自転車を前にしゃがみ込む俺の後ろから声がかかる。
「…ハル、お前暇なの?最近来る時間だんだん早くなってねぇ…?」
俺は声のする方にゆっくりと振り返り、その男を見上げる。やっぱこいつだったか…。
「ばっか、大忙しだわ。今日は
ハルは「呆れた」とでも言いそうなくちぶりで、腕組みをしてこちらを見る。
「え、なんで知ってんの?」
「お前こないだ自分で言ってたし、ほのかも今日店休みだって言うし、てことは俺の出番かなって。」
「ハル…お前…。」
こいつはほんとにこういうとこがある。
自分1人で持てるっちゃ持てるけど、重たいっちゃ重たい…みたいな時に、颯爽とその荷物を半分攫って歩き出す。
なんなの、女の子だったら惚れちゃうんじゃないの?こういうの。俺は惚れないけど。
「お前…なんていい奴なんだ…。」
「おぅ、惚れてもいいぞ!」
「いや、惚れはしない。」
にかっと笑うハルに、即答できっぱりと返す。
「なんだよ!惚れろよ!」
「嫌だわ、それとこれとは別問題だ。」
「どの辺が別問題なんだよ〜。」
言わずもがな…だろう。ハルも当然わかっててやってるわけだけど…。
「ところで、なんでチャリの修理とかしてんの?お前こんなの持ってたっけ?だいぶ年季入ってんな…。」
「あぁ、修理ってほど難しいことしてねぇよ。派手にぶつかったし、ぱっと見た感じ、ハンドルいかれたかなって思ったけど、汚れとって、よく調べて見たらなんか大丈夫そうだし、でもまぁ、パンクだけはしてたから、それだけ直してるとこ。あと、これ俺んじゃないけどな。」
「誰のだよ?」
首を傾げてこちらを見るハルに、一瞬迷ったが、自転車の持ち主を明かす。
「…カノくん。」
「カノって、あの…カノハルミチ!?」
心底驚いたって顔してこちらを見て、すごい不満げな表情を見せる。
「フルネームで呼び捨てすんな。そして勝手に敵対心を持つな。いい奴だったぞ?」
「…ミチ…お前って奴は…。」
なんか言いたそうなハルを尻目にパンクの修理を終えた俺は、自転車を眺める。
「よし、いいだろ。これで大丈夫…。」
「お、直ったのか?え、てことは近々これを取りにカノくんが来るってことか…?」
…この勘の良さ…気配りができて…察しもいいこの男…だのになぜもてないのか…。
「まぁ、そういうことだ。だから、お前は帰れ。余計なことを口走りそうだ。」
しっしっ…と手で追い払う素振りを見せる。
「何言ってんだ、ミチ!こんなチャンスに俺が帰るわけ無いだろう!それに、業者まだ来てない!」
…人手が無くなるのは確かに惜しい…。
かと言って、ほのかの大事な学校の先輩に余計なことを口走ってほのかが困るようなことになるのも、避けたい。
「…自転車取りに来るだけなんだよ。だから…。」
「自転車取りに来るだけなんだろ?じゃあ俺いたっていいじゃん。」
食い気味に、食い下がられる。
こうなったら、ハルはまず言うことを聞かない。
「じゃあ、隠れてみてろ。」
「なんでだよ!」
「なんか…よくわかんないけど、お前はなんかやらかしそうな気がする。」
「なんかってなぁんだよー。」
…子供か。まぁ、こいつが初対面の相手に突然失礼なことをしでかすようなやつではないことは、よく知ってるんだけど…。
ほのかが、絡むとなんとも…。
「あの…こんにちは。」
…遅かった…。来ちまった…。
「…カノくん、こんにちは。」
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