第14話 所長(準備中)は、親友の未来を愁い、願う。

あいつは、いつも誰かのために演じている。


たぶん、生まれ持っての性格もあるんだろうけど、家庭環境も影響しているんだろう。


俺の親友、柚木真理ゆぎまさみちは周りの求める役回りを察することに長けている。そして、それを体現することにもまた、長けている。

長けていることは、もちろん長所なんだろうけど、俺は短所でもあると思っている。


「お前はどうしたいの?」


そう聞いたとしても、無意識に誰かを優先した回答が返ってくることが多いのだ。


優しくて、そして、器用。

けど、世の中には器用貧乏っていう言葉がある。俺は、あいつがそれだと思っている。


もっと、自分のために生きていいのに…。


ミチと出会ったのは多分…小学校に上がったあたりだった。

名前順の出席番号が前後だった、とかそんな感じだ。

瑞田みずた柚木ゆぎ…俺たちの間に溝口みぞぐちとか、武藤むとうとか、目黒めぐろとか、望月もちづきとか、居ても良さそうなもんだけど、いなかった。

なんなら、山田やまだとか、八木やぎとかでもいいんだけど、いなかった。

だから、俺たちにはそれなりの縁があったんじゃないかと思ってる。あんまり言うとキモがられるけど…。


とにかく、そこからもうそろそろ20年位の付き合いだ。


ミチはあの頃からもう、優しかった。とにかく、優しかった。


あれは、俺たちが、10か11歳くらいの時だった。

普段遊ぶ公園がなんか遊具の工事だかで使えない日があって、俺たちは久々に俺の家で遊ぶことにした。


家に招き、自分の部屋に通して俺がおやつとか色々準備している間に、ミチはほのかと出会う。

友達の妹…それも3歳とかどう接していいのか困るだろうに、ミチはその3歳児に泣かれることもなく、求められるままに相手をし続けてくれたのだ。

絵本を読み、おままごとをして、ボール投げにまで付き合う。嫌な顔ひとつせずに、ただ求められる相手役をこなし、俺が戻ってくるまでの時間ずっと相手をしてくれていた。


…友達を呼んでおきながら、なんでそんなに放置してたかって…?全部は忘れたけど、最初はジュースとか注いで、こぼれて…掃除して…母親から、ほのかがいないと聞いて、家の中を探して…とかだった気がする。

探し回って、さすがにミチが待ちくたびれてる!と思って部屋に戻ったら、そこにほのかもいて驚いた…とかそんなオチだったはず。


それでも、俺が遅いことに怒るでもなく、ほのかの相手をして待っていてくれたのだ。


…ミチはほんとに、優しい。


念の為、言っておくけど、ミチがほのかに対して今みたいな気持ちになっていくのは、まただいぶあとの話だ。この時はたぶん、友達の年の離れた妹が、ちっちゃくて可愛い、とかそんな印象だと思う。


だから、当然あいつにも人並みに恋愛遍歴…いや、遍歴ってほど遊び回るやつ、じゃないけどそういう経験はある。なにより見目よく、優しく、まぁまぁ成績も運動もそつなくこなす奴を女子がほっとくはずがない。


それでも、たいてい長続きしなかったのは、


「優しすぎる、真理くんはどうしたいのかわかんない。」


奇しくも同じような理由で振られるのだ。


どいつもこいつも…わかってない。

ほんとに、わかってない。


まぁ、さすがの俺もミチがほのかを落ち着かせるために心は女だと嘘をついたと聞いた時には、ちょっとなんて言っていいか分からなかった。

そこまでほのかのために動いてくれたことには、ほんとに、ほんとに感謝している。おかげで今のほのかは笑顔の似合う花の女子高生だ。

あの時ミチが居なかったら、と思うとほのかを追いかけ回した男たちを俺がどうしていたかわからない。


とにかく感謝して…それでいて心配している。


あいつはこれからどうしたいんだろう?


…いや、これじゃミチと変わらないのかもしれない。相手の事を考えるのは大事だけど、俺が親友としてあいつに何をしてやりたい?


どうすれば、あいつは自分の気持ちに蓋をせず幸せになる?俺はそうなって欲しい。


「…さぁな?お前が彼女紹介とかしてきて、俺が暗黙のうちに振られる日までじゃない?!」


ミチが言ってた言葉がふとよぎる。


「彼女…かぁ…。」


今まで全く居なかったわけじゃないけど、俺もあんまり長続きしなかったからなぁ…特に勤め始めてからは、忙しすぎて、すぐ振られるし、家族にもミチにも紹介することもなかったよなぁ…。


「…長…所長!…聞こえてます?」


「へっ!?あっ…俺のことか!」


長いこと考え事をしていたと、今になって気づく。そうだ、事務所の立ち上げ準備に来たんだっけ。


「他に誰がいるんです?瑞田所長…。」


「うわぁ…なんだろ、実感わかないわ。」


「まったく…しっかりしてくださいね。」


「はぁい、先輩。」


「もう先輩じゃありません。私はあなたに雇用されてるんですから。」


この人は、俺と一緒に事務所を立ち上げてくれる前の職場の先輩。俺がヘッドハンティングした。なんでそうなったかとかは、また今度。


「でも、先輩。事務所はまだ開いてないから、それまでは所長じゃないし、敬語やめません?…てか、それからも敬語やめません…?雇用主とかじゃなくて、俺はビジネスパートナーのつもりで誘ったんですよ…?」


「…瑞田くん。まだ開いてなくても私たちは開くための準備をするためにここにいるんでしょう…?これから、所長になるんだから、しっかりけじめはつけないと。私はまだビジネスパートナーと呼んでもらえるほど、ここで、何にもできてないの。」


「…先輩のそういうとこ、ほんとカッコいいですね。」


「…からかわないで。」


…そう、俺もミチのことはとやかく言えない。

でも、願いをこめて、とやかく言いたくもある。お互い頑張ろうぜ?親友。


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