第13話 誰が為を想う、その役割にとらわれず。

「…それで?2人を一緒に帰らせたんだ?」


一見にこやかに見える親友から、並々ならぬ圧を感じるが、努めて普段通りに答える。


「あぁ。そうだよ?」


「くぅぁ〜俺も見たかった、カノハルミチ…。」


カウンターに突っ伏して悔しがる親友ハルは、カランカランとグラスの氷をまわす。


「いいヤツだったぞ…。ほのかが美人っていってたのもわかるし、動物に懐かれて、面倒も見れて、ましてや知り合いのおばあちゃんに頼まれて、いきなり予定を変えられる優しさ…。礼儀も正しいし、なによりほのかが、緊張してなかった…。」


「ミチ…お前…。」


「背もまぁまぁ高かったかな…あと、食べ方もキレイだったし…。なにより、ほのかと1つ違いだ…。」


「ミチ……。」


「申し分ない感じだな、うん。」


「だぁっ…ミチ!とりあえず俺にしゃべらせろ!!いいか?その情報はありがた〜く受け取っておく。だけどな、言ってる事とつらが一致してないんだよ!」


ハルは一気にまくしたてる。


「お前だって…背は高いし、イケメンだし、優しいし、面倒見がいいし、ほのかだって緊張してない!年は…まぁ、あれだ…ちょっと離れてるくらいがちょうどいいんだ!」


「ハル…。」


はぁはぁ…と息を切らしながらまくし立てた親友は、俺のことをまっすぐ見る。


「25と17だと確かに離れてる気がするけど、48と40になっちゃえば、大した違いじゃないんだよ!」


「凄い例えだな…。」


ハルの剣幕に圧倒され、納得しかける。


でも、俺は、「今」の話をしてる。


「…確かにそうなんだけどさ。そんな理屈で、ほのかから8年も奪えないよな…って思っちゃったんだよ。カノくんなら、一緒に学校生活も過ごせるし、ほとんど同じペースで生活の基盤が変わっていく。卒業して、入学して、仕事について…年相応の楽しみ方ってあるじゃん…?2人並んでるとこ見たらさ、眩しくなっちゃってさ。」


「ミチ…。」


悲しそうな、寂しそうな顔がこちらを見ている。なんでお前が泣きそうなんだよ…?


「そんなこと言ったら、ほのかを好きなまま過ごし続けてるお前の方だって何年も奪われてるんじゃないのか?」


お前、何サイドよ?妹サイドにいてやんなさいよ…。


「んー、奪われたとかそういう実感はないんだよな。好きでやってることだから。」


嘘偽りない俺の感想。秘めたままそばにいることを、辛く感じたことは最近まで無かった。


「おっまえ…なんていいやつなんだ!もっと欲張れよ!」


グラスの氷がカラン…と音を立てる。


「さっきからありがたいけどさ、兄としてのお前の感覚ってどうなのよ…。」


「…俺か?そりゃあ、ぽっと出の奴よりもう何年も陰ながら大事にしてくれてる奴の方を選ぶよ。なかなか出来ることじゃねぇよ?兄としても、親友としても、お前一択だ。」


「…お、おぅ…。」


あまりにまっすぐな言葉をぶつけられると、それが褒め言葉なら尚更、人は、言葉が出てこなくなるらしい…。こいつは、ほんとに昔からそうだ。


「ま、とにかく、だ。お前はもう少しほのかのことじゃなく自分のことを考えていいはずだ。」


ハルは力を込めて断言する。お前なんなのよ?男前過ぎない…?


「いや、別にほのかのことだけ考えてるわけじゃない。なんかさ、今まで結局、騙してたようなもんだろ?それを今更どう切り出していいのかも、正直わかんなくて…。それに、兄貴の親友って立ち位置も悪くないかなって…。」



「ミチ…。」


「だってお前とは一生親友だろ?」


「ぐぅっ…おま、そういう…なっ…んだよ…!!」


「何キレてんだよ…?」


「キッレてねぇよっ…!お前の、そういうとこ!もっと有効活用しろ!俺を萌え殺してどうする気だ!」


「はぁ?」


突然、褒められ、キレられ…対応がジェットコースターだ。


「とにかく!あぁ、もうわかった!俺もカノハルミチに会う!会ってから考える!」


「はぁ?」


「お前をそんな風にしたカノハルミチがどんなやつか確かめる!」


「はぁ?何言ってんだよ?そもそも連絡のしようがないのに。」


「なんとかなる!いや、する!」


…今日のハルはおかしい…。いや、わりといつもおかしいけど、普段なら、ほのかが心配でカノくんに会うっていうはずだ、それはそれでシスコンいい加減にしろと止めるところだけど…俺のため…?…俺そんな心配されることしたか…?


止めれば止めるほどエスカレートして、それこそカノくんとほのかを呼び戻しかねない。

とりあえず、新しい酒をグラスに注ぎ、ハルの前に置く。


「…まぁ、落ち着いて…。な、これでも飲んで…。」


「お、サンキュ。…美味いな、これ。」


…なんとか、誤魔化せそうか…?


…誤魔化せるわけがないことを、俺はこのあと思い知ることになる。


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