第8話 てるてる坊主は任務を遂行する。
「へぇ、だからこいつが逆さまで、しかも予報が外れて雨降ってんのか。」
にやにやと笑う親友は、グラスの氷をからからと回しながら窓の方を見る。
窓にはてるてる坊主が、さながらお仕置きされてるかのようにぐったりとぶら下がっている。
ここは、店の奥。いわゆる事務所スペースだ。客前でてるてる坊主は下げられるわけもなく、こんなところでひっそりと微かに揺れている。
逆さ吊りは可哀想だから、ほんの少し下向きにするはずが、頭の重さで結構なお仕置き度合いになってしまった。
「そんなわけねぇだろ…てるてる坊主にどんだけの力があるんだよ。全く効果なしだ。」
バーの営業も終わり、あとは帰るだけ、って頃に来た親友は、このあと家に泊まり、朝まで飲み明かす用意をしてやってきた。
…今飲んでいるのはただの麦茶だけど。
「効果なしとか言うなよ。てるてるだって頑張って逆さ吊りにされてんだから。可哀想だろ。」
「なんだよ誰だよてるてるって。名前つけんな勝手に。」
細々と片付けながら、グラスの麦茶をちびちびと飲むこいつの話にツッコミを入れていく。
「で、来たのか?」
「来たっちゃ、来たし、来ないっちゃ来ない。」
「どっちだよ。」
がくっ…と肘をテーブルから外すようなベタな動きで、煮えきらない答えにツッコミ返す親友にカフェ営業時間内の出来事を話す。
「ほのかと、同級生とか後輩とか、同級生の彼氏(委員長)とかは来た。んで、たまごサンド食べてったよ。」
「つまり
「来なかった。」
「なんだよ~。」
ハルはまた、がくっと肘を外す。
「ほんとは来る予定だったけど、直前でだめになったんだってさ。雨降ってきたことでなんか用事ができたらしい。」
「へぇ…じゃぁ、てるてるのミッションは達成じゃんか。」
「てるてる言うな。まぁ、雨降ったら皆来るのやめて、とりあえずなんとなくカフェにくるのは先延ばしでうやむやに…なんて思ってたんだけどな。雨は降ったけど、結果的に皆は来て、1番気になる奴は現れなかったっていう、なんか釈然としない結果だな。」
「そっか。俺もみたかったな~カノハルミチ。」
「いや、だから俺も見てないって。」
「そっか〜。残念、ご苦労だったな、てるてる…。」
誰目線なんだよ、とツッコミを入れつつあらかた片付けを終える。
「ほら、帰るぞ。鍵閉めるから先に出ろ。」
扉近くにいる親友を追い立てる。
立ち上がって慣れた手つきでドアノブに手をかける。
「あいよっ…と、え…?」
扉を開けたハルが足元を見て固まっている。
「何してんだよ?…え…?」
その光景に、俺自身も一瞬固まった。
動けなくなったハルの足元にはずぶ濡れの子猫がこちらを見上げていた…。
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