第5話 兄の親友は…務めているわけじゃない。
「聞いてくれよ~ミチ〜。」
「何だよ、ハル。来て早々、どうしたんだよ?」
カウンターに座る親友に、ひとまず冷たい水を入れたグラスを出す。
カフェの営業も終わりに差し掛かる頃、こんな時間に珍しく顔を出す親友は、浮かない顔をしている。今日は仕事休みなのか…?
大学卒業まで、ほとんどの日々を同じように過ごした俺達は、社会人という立場になって初めて、何が合ったんだ?と聞かないと知り得ない情報を持ち寄り、共有することで自分の芯を確認する時がたまにある。こいつが思うなら、そうなんだろう。よかった、俺がおかしいのかと思った。大丈夫だよな?と納得し、安堵する。
心地いい。
言い表すなら、それが最もしっくりくるのかもしれない。
別に親同士の付き合いの延長というわけでもなく、たぶん、最初はただの同級生。
なんか、よいご縁だったんだろうな。たぶん。
俺を可愛がってくれていたばあちゃんが、よく言ってた。良いご縁はなにも赤い糸のご縁だけじゃないのよ、と。
「なぁ、聞いてる?」
親友は、未だご機嫌ななめのようだ。
「聞いてるよ。ほのかのサンドイッチ食べたんだろ?」
そろそろカフェは閉店時間だ。目の前で冷たい水をちびちびと飲みながらぶつぶついってるこいつ以外の客はもう誰もいない。
注文もせず、水だけ飲んでるこれを、客と呼ぶのが適切かどうかはわからないが、話くらいは聞いてやろう。
「そうなんだよ、それでな~。」
「ちょっと待ってろ、札下げてくる。」
話を制し、入口の札を『close』にかけかえる。
「…で? 美味かったろ?」
「…美味かった。美味かったんだけどさ…。」
俺が教えたんだから当然。…けどってなんだよ。
「なんかあったのか。」
「ほのかがあれをどこに持ってくために作ってたか、お前知ってた?」
「なんか、委員会の集まりとかってやつだろ?」
「そう!でさ、そこからが問題なんだよ。お前かの先輩って知ってる?」
「あぁ、美人とか言ってた。あれ、苗字のかのだったのか…?」
「そう、しかもお前、フルネームで
「どうよ…って。」
聞いてたじゃん?って知らねぇけど…とも思ったがそこは省こう。心中お察しします、お兄さん…俺も今ちょっと動揺。てか、ハルミチって…なんか、こう…いや、関係ないんだけど、たまたまなんだけど、よりによってハルミチって…。
似たような名前が周囲に集まる妙な感覚。まぎらわしいったらねぇな…。
「男が苦手だったほのかがさ、目をキラキラさせて言うわけよ。鹿野先輩がね、ってさ。俺の気持ち、わかる?」
お前さっきからメンヘラ女子みたいになってんぞ…。お察しします、お察ししますけどもね…。
「ついにこの日が来ちまった。と思ってさ。」
しょんぼりする親友は、もはや娘を嫁にだす父親の勢いだ。
「ちょっと札下げてくるわ。」
再度、冷たい水をついだグラスをハルの前に置き、店の入口に向かう。
「…? さっき、下げたろ?」
俺の姿を追うように、身体の向きを変え入口を見るハルの目にも映るように、『本日貸し切り』の札を下げる。
「その話、詳しく。」
「ミチ〜!もう、朝まで語り明かそう!」
「貸し切り料、いただきますけどね?」
「はっ…お前っ…ひどくないか?!」
「こんな時間にそんな話を持ってくるお前が悪い。手短に済ます気だったのか?どうやったって無理だろ。」
「ぐっ…そんなこというならな~水だけじゃなくて、もっとなんかいいもの食わせろ!」
「へいへい、ちょっと待っとけ。」
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