第2話 全力で店長を務める。
「あっ久しぶり〜♪」
「ほんと、でも全然変わってない〜!」
「最後いつだっけ?すっごい会ってない気がする!」
皆が口々に再会を懐かしむ。
今日は真理ちゃんもとい、店長と、お兄ちゃんが高校時代に同じクラスだった時のクラス会で、バーは貸し切りだ。
私は普段からカフェからバーに転換する間の2時間、掃除や準備、仕込み(と言ってもバーだから、あんまりないけど)とかそんな開店準備のお手伝いをアルバイトでしている。
今日はお兄ちゃん達の貸し切りだから、ちょっとだけ残業。軽いおつまみ程度の料理も作る。
「おす、ミチ! ありがとうな、場所貸してくれて。」
「おぅ、ハル。貸切料、しっかりいただきますよ、幹事さん。」
「やっぱそうなるか。さすが経営者。うちの妹がお世話になってます、店長。」
「えぇ、お世話してます。」
厨房側にいても聞こえてくる、お兄ちゃんの声。
真理ちゃんは真理(まさみち)で、お兄ちゃんは真治(まさはる)、最初の二文字がかぶると、呼ばれる時に地味にめんどくさい。途中までどっちが呼ばれてるかわかんない、一人呼ぶと二人振り返る、なんて理由でクラスの友達からは「ミチとハル」で呼ばれているらしい。
それにしても、こうして聞いてるとほんと男子高校生の友達同士だ。いつもの真理ちゃんみたら、お兄ちゃんは卒倒するかもしれない。その時は、真理ちゃんの唯一の味方は私だ。しっかりフォローしなくては…。
「おーい、聞いてるか?もうほとんど料理あがってるから帰って良いぞ?」
「へっ?」
「店長の声が聞こえないほどぼーっとしてるとか、時給下げられちゃうぞ?ほのか。」
「お、お兄様から許可が出たから時給下げるか。」
「えっ、やっ、はい!じゃないっ…やだっ!時給下げないでください!」
いつもの調子と違う声で話を振られて、まさか厨房にいる自分がこの2人のやりとりに巻き込まれるなんて思ってもいなかった。いつの間にか2人は私の後ろで、作っていた料理を覗き込んでいた。
「何作ってた?」
「えっと、これはあの…試作品で…。」
覗き込む店長から隠すように皿を背中に回す。
「試作品?」
反対側からその皿を受け取るかのごとく、見事な流れで皿を手にする兄。何してくれんの、兄!
「えと、教えてくれないなら、技を盗もうかと…。」
皿の上にはちょっと不格好なたまごサンドが載っている。
「うちのたまごサンド?確かに教えたことないけど…。」
「おい、ミチ。教えてくれないってなんだ、店長いじわるか?」
「いや、待て、昼のカフェメニューなんてバーの開店準備には教える業務内容じゃねぇ…いじわるなんてしてない、してないぞ!」
「さっき、開店前に教えてほしいことがって言ったけど、イヤって言って…。」
「店長?どういうことかな?うちの可愛い妹にいじわるかな?」
「いや、待て待て待て…教えてほしいって、たまごサンドの作り方のことだとは知らなかったんだ!それなら早く言えよ…。」
「教えてくれますか?店長!」
「教えてくれますな?店長!」
「その頼み方はだめだろ…。てか、ハル、お前までなんなんだよ…。」
兄妹のおねだりに、真理ちゃんがおでこに手を当てて天を仰ぐ。たぶん、お兄ちゃんのおねだりなんて貴重なご褒美シチュなのだろう。良かったね、真理ちゃん。そして、私はどさくさに紛れて、とっても美味しいたまごサンドのレシピを手に入れたのだった。
や、まだこれからだけど。
「どっちみち、今からは教えらんねーから、明日、いや、店休日だから、明後日か、そん時な。もう、いーから帰れ。残業ごくろーさんでした。」
しっしっと追い払うような仕草で、私を追い立てる。真理ちゃんはいつもそう、遅くならないようにとバーの開店と同時に私を帰らせる。
「こっからはオトナの時間。いい子は帰んなさい。」
いつもそう言って子ども扱いする。
まぁ、お兄ちゃんともお母さんともそう決めてアルバイトさせてもらってるから、そこは帰るしかないのだけれど。
いつか、もうちょっと長くお店にいられるのかな…?
二十歳にならないとお酒飲めないから、そこまで無理かな?なんかきっと未成年の働いちゃいけないなんかがあるんだよね、確か。真理ちゃんが捕まっちゃうのは困るな。
「はーい。わかりましたぁ。あ、残業代は弾んでくれてもいいですよ?店長。楽しみにしてます♪」
「そんなもん、たまごサンドの講習費でとんとんだな。」
「えーひどい!」
「ひどくない、いーから帰れ。時給下げんぞ。」
「お疲れ様でしたー!」
「お世話になってます、店長。」
「くっ…ニヤニヤしやがって、ハルてめぇ…。」
「いや、ほのかがあんなに楽しそうなの、嬉しくてさ。おまえのおかげだな。」
「急なデレやめてもらえませんか、お兄さん。」
「まだお義兄さんとは呼ばせられないなぁ…。」
「なんでだよ?」
「ほのかちゃん未成年だから。」
「くっ…。ソウデスネ。ほのかさんのお兄さん。」
「まぁ、焦んな焦んな。」
「焦ってなんか…ねぇよ。」
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