君が笑うなら僕はなんにでもなれる、と思う。

ふらり

第1話 そう、とにかくなんかになろうとする。

「ねぇ、真理ちゃん。」

「ん?」

「教えて欲しいことがあるんだけど…。」

「…いやよ。」

「そんな事言わないでよ〜真理ちゃあ〜んっ」


私は瑞田ほのか。高校2年生。

今、とても悩んでる。

そして、目の前でグラスを磨いてるこの人は真理ちゃん。本名は柚木真理(ゆぎまさみち)。通称真理ちゃん。


「あんたがそのふざけた呼び方をやめない限り、何も教えてなんかあげないわ。」

「なんでよ~。真理ちゃんは真理ちゃんでしょ〜?」

「ちがうわよ、アタシはゆぎまさみち!…まりじゃないの!」

そう、この目の前にいるイケメン。このカフェ&バーの店主柚木真理はいわゆるオネエさまなのだ。


高身長、イケメン、カフェ&バー経営、25歳。想い人は、私のお兄ちゃん。でも、オネエさまであることは私以外には内緒。もちろんお兄ちゃんも知らない。擬態は完璧、言い寄る女の人が、後を絶たない。


お兄ちゃんの親友として、真理ちゃんと知り合ったのはもうだいぶ前。いつの間にか、高校生から大学生になって、そして、おばあちゃんがやってたお店を引き継いでカフェにして、いつの間にかバーも経営してる。その時は、お兄ちゃん、だったのだけど…。


「さっさとエプロンして働きなさいよ。時給下げるわよ?」

「えっ、もうそんな時間?!」

カフェからバーに転換する間際、この店は2時間閉店する。


私はエプロンをしにロッカーに向かった。


「…まったく、なんだろうな…。」

自分でとっさに選んだ道とはいえ、険しすぎる。

あの時は、とにかく、そう、とにかくなんかにならなきゃいけなかった。


「これからなんになっていくんだろうな。」

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