第12話
あれから3ヶ月の月日が流れた。
毎日休まず、依頼をこなし続け、俺の冒険者ランクも銅等級に…ランクアップする事はなく、今も鉄等級のままだった。
領主の規則は、今も顕在。
依頼で向かうウルフの森には、ゴブリンやウルフ系の魔物の他に、オークなども生息していた。
良い食糧にもなるので、ダイスと2人で片っ端から討伐していく。
オークは豚肉に似ていて、とても美味しかった!
1度だけ、討伐した証拠としてギルドにオークの角を提出した事があった。
しかし、依頼外の魔物なのでまともに取り扱ってもらえず、他の冒険者から窃盗をしたのでは?と疑われた。
挙句に果てには、鑑定職員の男が無償で引き取ろうとしていたので、目の前で握り潰し、粉々にして帰った。
それ以外は、特に変化する事がない日々を送っていた。
…いや、違う。
1番変化した事あったわ。それは…、
◼️
「アブルさん。焼けましたよ!」
「あぁ、ありがとう」
キッチンにいるダイスが、眩しい笑顔でオーク肉のステーキを渡してくる。
ボサボサだった髪は、少し艶のあるサラッとした黒髪に。
身長は伸びなかったが、細すぎた身体は、筋肉のあるほどよく均整の取れた身体になっている。
顔は中性的で、たまに「あれ?ダイスって女の子だったけ?」と思う程だ。
肌の血色も良い。そして、何より瞳だ。
生気のない暗闇を現していた瞳には光が戻り、見違える程、美しい少年へと成長していた。
窓から見える空模様は、既に夕暮れ。
今日も今日とて依頼を達成し、ダイスの自宅に戻っていた。
「いただきます」と2人の声が重なる。
ダイスは、意外に大食漢だった。
その日に狩ってきた魔物を、全てペロリと平らげてしまう。
なので、依頼の時間より、その日の食糧調達の時間の方が長い。
まぁ、ゴブリンよりも強い魔物だし、ちょっとした訓練にもなるのでちょうど良かった。
「「ご馳走様でした」」
「ありがとう、ダイス。美味しかったよ」
数十分の時間が流れて、食事を終える。
ダイスは照れ笑いを浮かべ、食器を片付け始めた。
今日の当番は、ダイスの日。
手際良く皿を洗い始めたダイスの後ろ姿を見てふと思う。
この街に来て、3ヶ月。
ダイスとも仲良くなれたし、貯金も少しだけ出来た。
そろそろ頃合いか…。
俺はまだ、自分の状況をダイスには話していなかった。
親交を深めてからという理由ともう一つの理由。
それは、ダイスの体力の問題。
身体能力や戦闘能力は申し分ない。
だが、栄養不足の身体で長い距離を移動する旅は、難しいと考えていた。
皿洗いが終わり、相向かいの椅子に座るダイスの身体をチラリと見る。
この身体ならきっと大丈夫だろうと判断しる。
重苦しい雰囲気は、ダイスにとっても嫌だろう。
軽く世間話をして、本題に入ろう。
「ダイスはさ、この街の隣に、テスタっていう辺境の村があるの知ってる?」
「はいっ、有名なので知ってます!光属性持ちの勇者が現れた事は、この街で知らない人はいないと思います」
知らなかった情報だ。
やはり、勇者の誕生というのは影響力がデカいみたいだ。
その割には、誰も観光客とか来なかったな。
まぁ、わざわざ辺境の何もない村に来る物好きなんかいないかと思う。
「ははっ、そうなんだ。そんなに有名だったのか。知らなかったなぁ。実は俺、そこの村出身なんだ」
「へー!そうなんですねっ。あれ?それじゃあ、アブルさんは、勇者様とお知り合いなんですか?」
「そうそう。俺の妹が、勇者なんだ」
「へー!アブルさん、妹さんがいたんですね!…え?妹?…妹が勇者ぁぁぁああああ⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎」
あっけらかんと答えると、暫くしてダイスの叫び声が家の中に響き渡る。
今まで何度もダイスの驚いた顔を見てきたが、今日がNo. 1のリアクションだ。
驚愕していたダイスから、興奮気味に質問が飛んでくる。
「えっ⁉︎本当なんですかっ⁉︎妹さんが勇者って⁉︎」
「ホントホント。でも、血が繋がってるかどうかはわからない。両親と俺は茶髪だったけど、妹は金髪だったからね。ずっと一緒に住んでいたから妹だと思ってるって感じかな」
そういえば、母さん達に聞くのを忘れていた。
実際、本当に妹なんだろうか?
たぶん、妹がこの世界の主人公だろうし。
何か、王家とか先代勇者の血が流れてそう。
「…そうなんですか。ってか、妹さんって事は!勇者様は女性だったんですか⁉︎てっきり、大人の男性だと勘違いしてました…」
「ん?そういう情報は流れてないのか?ルチナは当時8歳の子供だったし、ダイスと同い年だ」
「…妹さんは、ルチナさんって言うんですね。しかも、僕と同い年…。…こんな事言っては失礼になってしまいますけど、そんな小さな子供に、人類の未来を託すのはどうなんでしょうね?僕が仮に8歳で選ばれたとしたら、その重荷に耐えられないと思います」
その言葉を聞いてハッとする。
妹の気持ちなんて考えた事がなかった。
茫然自失だったし、自分の事しか頭になかった。
創作物の世界だと思ってるし、自分が何もしなくてもストーリーは勝手に進むからと、他人事で突き離していた。
もしかしたら、現在も妹は相当なプレッシャーの中、人類のために戦っているのかもしれない。
突如、脳内に溢れ出したのは、離れたくないと泣き叫んでいる幼い妹の姿だった。
…おいおい、何てクソ兄貴なんだっ、俺は!!
「ふんっ!!」バキッ
椅子から立ち上がり、右手で自分の右頬を思いっきり殴り付けた。
口の中に血の味が広がる。
間髪入れずに左手で同様に殴る。
「ふんっ!!」バキッ
「…えっ!!アブルさんっ⁉︎急にどうしちゃったんですかっ⁉︎」
目を点にして、あたふたと心配そうに近寄るダイス。
そんな、彼の両肩を掴む。
「ありがとう、ダイス。おかげで目が覚めたよ」
「え、あ、はい。どういたしまして?」
ダイスは意味がわからずポカンとした顔だ。
そんな彼をよそに、俺はある事を決意する。
別に良いじゃないか、主人公じゃなくたって。
この世界は、創作物であって創作物じゃない。
ちゃんと皆んな生きているし、ちゃんと皆んな死ぬ。
現にロジーは死んだ。
何だ!思えば既に何かしらのフラグは折っているじゃないか。
あとは頼もしい仲間を集めるだけ。
まず最初の1人は君だ。
「ダイス!俺はこれから世界中を旅して魔王討伐パーティーを作る。お前の力を俺に貸してくれ!!」
その日の夜、1人の少年の絶叫が大通りまで聞こえたとかなんとか。
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