第5話
転生してから5年の月日が流れ、年齢は10歳を迎えていた。
そして、運命の時を迎える。
とある日の朝、いつも通り家族全員で朝食を食べていると珍しくドアがノックされる。
対応したルチナがドアを開けると、そこにはロウ師匠が立っていた。
「おじ様!兄さんにご用ですか?」 「師匠?なぜ家に?」
ルチナはロウにとても懐いていた。遊び相手が増えた事が嬉しかったのかな?
師匠も妹を孫の様に可愛がっていた。弟子の俺の事は、毎日ボコボコにしていたのに…。でも最近は、実力が拮抗する様になって来た。魔法はまだ使えないが、日々強くなっているのを感じると嬉しくなる。
あと余談だが、ルチナにも変化が訪れた。美しく成長する外見とともに、淑女らしい口調に変わってしまった。
お兄ちゃんではなく、兄さん。出来ればお兄ちゃんに戻してほしい…。(願望)
そんな美少女になったルチナを一瞥もせず、真剣な表情を師匠は見せていた。
「山頂から王都の騎士がこの村に向かって来るのが見えての。もしかしたら、何か重大な事があるのかもしれん。村長に伝えて村人を集めておいてほしいのじゃ」
ロウの言葉を聞いて、両親は慌てて外へ出て行った。
「さて、アブル。コイツをお主にやろう」
「…これは、グローブ?」
ロウから手渡された物は、黒色の大きい指ぬきグローブだった。
手の甲の部分には、銀の硬い石の様な物が付いている。
「そうじゃ。それは、ワシが冒険者時代に使っていた武器じゃ。熱や水に強い特殊な革で加工され、手の甲にはダイヤモンドという鉱石が嵌め込まれており、剣を簡単に弾く事が出来る。今はまだ大きくて使えないと思うが、成長すれば手に馴染んでくるじゃろう」
「なぜこれを俺に…?」
「…騎士達が来た理由は、何となくわかる。まだもっと先の話だと思っていたが、これでワシもお役御免じゃ。ワシの人生最後の弟子に選別を渡しておきたかったのじゃよ」
ロウは優しく微笑んだ。
あぁ、そうか。師匠も薄々わかっていたのか、俺がこの世界の主人公だという事に。
まだ10歳。たしかに少し早い気がするが、こればっかりはしょうがない。この5年間、辛かった事も多かったが、それ以上にとても楽しかった!
脳内で修行の日々が、走馬灯の様にフラッシュバックする。
涙が出そうになるのをグッと堪え、深く頭を下げた。
「…有り難く頂戴致します」
「…兄さん」
隣にいた妹のルチナが服の袖を掴んでくる。
その手は微かに震えていた。
妹は聡い子だ、師匠との会話で察してしまったのだろう。掴む力が徐々に強くなる。
ごめんね、お兄ちゃんとは今日でお別れだ。いつ帰って来れるかわからないけどまた必ず会いに来るからね。
という気持ちを込めて、彼女の頭を優しく撫で続けた。
◼️
村の広場には、村人全員が集まっていた。
皆んなどこか不安げな表情をしている。…って、あれ?師匠がいない。どこ行ったんだ?あの人
目と鼻の先に、一台の豪華な馬車とそれを守る様の数人の騎士が護衛として配置されている姿が見えた。
先頭を歩いている男だけ鎧が違う。そして強者のオーラを纏っていた。
「私は、ミラー王国の騎士団長を務めているカイル・エドワーズである!!ここにいる者達は、テスタ村の住人全員で合っているだろうか?」
力強い獣の様な声が、村の隅々にまで響き渡り、何とも言えないプレッシャーに包まれる。
あまりの恐怖に小さい子供は泣き出してしまった。
おいおい…。騎士団長としての威厳があるからそうやってるのかもしれないけど、いきなりそれはちょっとどうかと思うよ?ほら、ほとんどの人は、ビビって声出せなくなってんじゃん。金魚みたいに口パクパクさせてんじゃん。もう、しょうがない…。
「はい、王国騎士団長様。ここにいる者、全員で全てでございます。あと、出来ればその強者の雰囲気をおさめてもらえるとありがたいです。皆んな、騎士団長様に萎縮してしまっている」
「む、そうか。いや、すまない。そんなつもりはなかったのだが…」
「いえ、わかって頂けたのなら幸いです」
騎士団長の雰囲気が少し柔らかくなる。
妹の隣に戻ると、安心した様に右腕に抱きついてきた。ふふ、うい奴め。
「これから話す事は、紛れもない真実である!もう一度言う。これから話す事は、紛れもなく真実である!テスタ村の諸君は、どうか落ち着いて聞いてほしい」
騎士団長は一息おいて言い放った。
「ミラー王国にいる聖女、ソフィア様が魔王の復活を予言した。近い未来、魔族の侵攻がまた始まろうとしている」
静寂に包まれていた小さな村が阿鼻叫喚と化していた。
泣き出す人や逃げようと計画を立てる人、様々な反応を見せていた。
まぁ、無理もないだろう。前世で例えるなら他国がいきなり日本に侵攻して来るのと同じだ。地獄どころの騒ぎじゃないな。
「…鎮まれっ!!!!」
騎士団長の一喝で、再び静寂に包まれるテスタ村。
さすが、騎士団長様。場慣れしてらっしゃる。
「落ち着いてくれ、話はまだ終わっていない。魔王復活に予言の後、聖女様はもう一つ我々に予言をしてくださったのだ。魔王に対抗出来る光属性の子供が現れていると。そして、その子供は!この辺境の村!テスタ村に存在すると予言してくださったのだ!!」
「「「!!」」」
はい、来ました。俺ですね!
有りがちな主人公イベントどうもありがとうございます!
周りが騒然としている中、内心ほくそ笑む。
良かった!やっぱり俺、主人公だわ。修行頑張ってよかったぁ!!
「よって今から、この村の子供全員に、神託の儀を行ってもらう!!」
神託の儀
神託の儀とは、自身の魔法属性を知る事が出来る儀式だ。
水晶に手を翳すと、火属性は赤く、水属性は青くと属性によって、水晶が光り輝くという。
属性の複数持ちは、それぞれの色が順番に光るらしい。
貴族の子供達は、10歳になると協会で行われる信託の儀に無償で参加出来る。平民も、それなりの金を出せば受ける事が出来る様だ。腐ってんな、この世界も…。
属性は、火・水・土・風・雷・光の6種類に分かれる。
光属性は、魔族にとても有効らしく勇者の力と呼ばれているそうだ。
そして、魔族は闇属性という唯一の属性を持つらしい…、全て師匠に聞いた話だった。
騎士団長は声高にに宣言する。
豪華な馬車から、魔術師の様な老人が水晶を持って降りて来た。
護衛の騎士が簡易的な台座を作り、その上に水晶を置く。
魔術師が何かを唱えると、水晶が淡く光り始めた。
「準備は整った。子供達は、順番に並んでほしい」
騎士団長と目が合った。
お前が1番最初に来いという、メッセージ性が込められた瞳だ。
「ちょっと行って来るね」と言い、優しく妹の腕を外す。
ゆっくりと歩き、水晶の前に立つ。
選ばれるのは、自分だと分かっているがちょっと緊張する。
「さぁ、少年よ。この水晶に手を翳すのだ!」
魔術師に促され、静かに右手を水晶の前に翳す。
すると水晶の光が神々しく輝きだすのかと思いきや、一瞬で淡い光が消えた。
「「は?」」
騎士団長と魔術師の声が重なる。
だが、俺もびっくりしている。何これ?故障?
慌てた魔術師がもう一度、水晶に光を灯す。
「も、もう一度いいかな?少年。何か手違いが起きたみたいだ」
で、ですよねー。まさか、そんな事ないですよねー…。
恐る恐る手を翳すと、再度綺麗に水晶の光が消えた。
「な、何故だっ、ありえんっ!水晶の光が消えるなど聞いた事がない!!他だ、他の者を調べさせてくれっ!!」
魔術師は取り乱し始めた。
隣にいる騎士団長や後ろの騎士達も唖然としている。もちろん、俺自身も。
次に呼ばれたのは、妹のルチナだった。
ルチナも恐る恐る右手を翳すと、村全体が眩い白い光で溢れかえった。
…は?
「おぉっ!この白い光…、間違いありませんっ!彼女こそが光属性の使い手っ!魔王を討ち倒す勇者の力の持ち主ですっ!!!!」
いやいやいやいや、ちょっと待って。
ねぇ、ちょっと待って。
え、妹⁉︎
…確かに、思い返せばたまにキラキラ光ってる時、合ったわ。
よく考えると、両親共に茶髪で、俺も茶髪。でも、ルチナは輝かしいほどの金髪だった…。
呆然としながら周りを見渡すと、全員驚いた顔をしていた。
あっ、いつのまにか師匠もいる。この5年間で見た事のない顔をしていた。
…ははは、マジかよ…。ごめん、師匠…、時間を無駄にさせちゃった。
俺、この世界の主人公じゃなかったわ…
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます