第4話
「今日からよろしくお願いしますっ!師匠!!」
ボロ小屋を開けると同時に、師匠に挨拶をする。
ロウ師匠に弟子と認めてもらった翌日、手伝いなどを全て終わらせ、山頂に来ていた。
今日も快晴で、気温も過ごしやすい。絶好の修行日和だ。
師匠は、読んでいた本をパタンと閉じて、ゆっくりと椅子から立ち上がる。
「…やる気があるのは充分じゃが、もう少し静かに開けんか。ドアが壊れる」
「す、すみません…」
早速、怒られてしまった。でも気持ちはわかってほしい。昨日の夜は、ワクワクし過ぎて余り眠れなかった。前世では、存在しない魔法や所持しているだけで違反となる剣。やはり、男ならどちらも憧れてしまうものだろう。
ロウ師匠は、そのままドアを開けて外に出た。
俺も後を追う様に小屋から出る。
「アブルよ、まずはお主の中で、強いというものを教えてくれ。何、難しく考えなくて良い、思いついた事を教えてくれ」
「えっと…、大軍を制圧出来る魔法とか、剣の達人とかですかね」
すぐに修行に入るかと思ったら、いきなり質問をされ少し戸惑う。
何となく最初に思いついた事を正直に答える。
「…そうじゃな。確かにそういう事が出来れば強いな。ただ魔力が無くなったり、その技を無効化されたらどうする?」
「!」
「弱い相手ならまだ良い、ポーションを飲んで魔力を回復出来るからの。しかし、強者は違う。ワシも何度か経験があるが強者は、その隙を絶対に見逃さない。確実にこちらの息の根を止めにくる。剣でも同様な事が言える。絶対に折れない剣もこの世に存在するが、それはほんの一握りじゃ。剣が折れた後、何も出来ずに魔物に殺された冒険者は多かった」
ロウは悲しみに満ちた表情で語る。
これは、彼の経験談なのだろう。昔は今と違い、平和ではなかった事が伺えた。しかし、その時代を生き延びた師匠は、歴戦の冒険者だったのだろうと再確認出来た。
「つまり、まずは素手の修行という事ですか?」
「いや、それは2番目じゃ」
「それでは、まず何を…」
疑問を問いかけると、ロウは右手の人差し指を上にピンと指す。
「まずは体力作りじゃ!」
「…体力作りぃ⁉︎えぇ…、やだ」
正直、それは必要ないんじゃと思う。この身体は、全く疲れを感じないのだ。今日も山頂まで走ってきたが、息切れもしていない。
地味過ぎる修行に嫌そうな反応をしてしまうと、ロウは顔を赤くし、怒り出した。
「お主は、先程の話を聞いておったのか⁉︎…はぁ、良いか?アブル、体力はとても大切なんじゃ。どんな状況でもまず、命を大事に考えなさい。敵前逃亡はカッコ悪いと思うかもしれんが、上手く逃げられれば何回もその敵と戦う事が出来る。逃げる体力がなければ、そこで呆気なく死ぬだけなんじゃ。お主だって、何も出来ずに死にたくはないじゃろう?」
とても説得力のある言葉だった。
俺は、転生を少し楽観的に見過ぎていたのかもしれない。ゲームや漫画の様な世界だが、ここでも人間の命は一つだ。例え自分が主人公だったとしても、死ねば終わりなんだ…。
一瞬、冷や水を浴びせられた感覚になるが、心はとても冷静になれた。
「…わかりました。ご指導よろしくお願いします」
主人公だからというふわふわした理由が、覚悟に変わっていた。
◼️
それから一年間、ずっと山の中を走っていた。
ある日から、重りを増やされ。
またある時から、師匠が攻撃を仕掛ける様になって来た。
木の枝の上のみを進めという、色々な体力作りをしていた。
2年目
修行の2年目に入ると、素手での戦闘訓練に入った。
師匠の専門は、主に体術らしく、毎日の様に模擬戦を行い、ボコボコにされていた。
傷と泥だらけで帰る日々に、とうとう家族にバレてしまった。
誤魔化す事が出来ずに師匠に家まで来てもらい、説得する事に成功した。
家族に何も言ってなかった事に対して、師匠に怒られてしまった。
そして、その次の日から妹が一緒に着いて来る事になった。
修行中はじっと座って見ているだけの妹。
お兄ちゃんがボコボコにされているところを見るのは、果たして面白いのだろうか?
山頂までの行き帰りは、妹をおんぶしている。
成長を続ける妹は、ちょうど良いトレーニングになっていた。
3年目
とうとうこの日が来た。
街に待っていた魔法の修行が3年目から始まっていた。
師匠は、あまり多くの魔力を保有していないとの事だった。
属性魔法を教えるのは、やはり専門の人間じゃないと難しいらしい。
そこで、教わったのが身体強化などの基本的な魔法。
よくある丹田辺りから感じる魔力を全身に広げて、オーラの様に纏うという修行だった。
師匠にオーラを見せて貰うが、全くわからない。
身体から魔力が全く感じられず、修行は難航していた。
妹が見様見真似で身体強化をすると、一瞬で習得してしまう。
えっ…?何で?師匠もびっくりした顔をしている。しかも妹ちゃんもオーラ、何かキラキラ光ってない?気のせい?師匠と違う気がするんですけど…。
「アブル…お主。母親の腹の中に魔力を置いて来たんじゃないか?」
う、うるさいやい!見てろよ、師匠!絶対にものにしてやるからなっ!!
こうして修行の日々は続いていった。
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