第8話 お姫様の策略

 「本日より、先輩たちと共に私たち一年生はこの学校で精進することを誓います」

 

 最後にレイアの挨拶で閉めて、新入生代表の挨拶が終わった。

 二人が降壇する後ろを二人の従者が付き従っていった。


 挨拶が終わると四人は体育館の脇に戻る。


 「レイア姫。お久しぶりであります」

 「ええ。リオル様もお元気そうで」

 「はい。いつ以来でしょうか。三年前のお誕生日会でしょうか」

 「・・・ええ、おそらくはその頃にお会いしていたでしょう」

 「そうですよね。当時もお美しくあられましたが、今は更にお綺麗ですね」

 「ありがとうございます」


 と天上人二人の会話が繰り広げられている中で、従者側はというと。


 「・・・・」

 「・・・・」


 二人とも黙っていた。

 こういう場面での対応が分からないのでソーマはあまり話さぬようにしていて、ミルフィはソーマが気に入らないので話しかけなかった。

 その理由は、自分は実力でリオル様の従者になったというのに、こいつは運で従者になった男だと勝手に決めつけていたからだ。

 二級貴族ニルスタン出身の彼女は、親からも自分自身でも、自分に追い込みかけて成長させて四聖貴族に見初められた。

 努力の末にリオルの部下として仲間入りを果たした苦労人なのだ。

 それなのに、この男はなにも苦労もせず、自分が仕えている方よりも上の立場のお姫様の従者になるなど言語道断だとしている。

 しかもこの男の素性を調べてみると、どこの馬の骨とも分からぬ男であり、貴族でも平民でもない。

 どこにも情報がなかったのだ。

 それらがますます彼女の苛立ちに繋がる。

 だから、こんな奴を従者するなど信じられないと、レイア姫にも冷たい視線を送っていた。


 しかし、そんな視線も気にしないのがソーマである。

 ボケッとしている表情だけど、内心は焦っている。

 なぜなら・・・・・。


 今日の分の日課がこなせない!


 いつもやっていることが出来ずにそわそわしていた。


 (式典って思ったよりも長いんですね。もう少し短いのかと思ってました。ははははは)


 主の会話と従の無言が、入学式が終わるまで続いたのだった。

 最後は、校長の挨拶が入学式の締めとなった。


 ◇


 この日の学校は入学式のみ。

 ソーマとレイアは一時お城へと戻り、ビビアンが用意してくれた料理を食べている間は、本校の学生たちは寮の案内を受けている頃だろう。

 彼らとタイミングがずれる理由はレイアが王族だから、彼女には特別な場所が用意されているために、三人は待機であったのだ。

 皆の寮案内が終わり、レイアとソーマ。そしてビビアンが遅れて寮案内を受けた。

 一通りの施設を紹介された後、施設管理人から鍵と地図をもらったので三人で寮の部屋に行く。

 寮五階、最上階の右端の部屋。


 「広い場所ですね……景色もいいですね」


 ソーマが部屋の窓を開けて、外を眺めた。


 「ええ。そうです。ソーマさん、ここから始まりますよ。頑張りましょう」


 レイアが話した。


 「ここは設備としては一人暮らしの家と同じくらいでしょうか。やや狭いですね」


 ビビアンが他の寮の部屋にはない簡易のキッチンをチェックしている。 


 「そうなんですか。僕のいた家よりもずっと広くて快適ですよ。お二人が過ごすには十分じゃないですか」 

 「お二人?」


 ソーマの言葉にレイアが首を傾げた。


 「お二人じゃないんですか? レイアさんと、ビビさんで・・・あれ?」

 「ソーマさん。あなたも一緒ですよ」


 真顔でビビアンが答えた。


 「・・・へ?・・・一緒?」

 「ええ。レイア様の付き添いとしてソーマさんが。この部屋の管理をメイドとして私が。一緒に暮らすことになってます」

 「・・・・・え?・・・ぼ、僕。男ですよ」

 「はい。そうですね」

 「一緒に暮らせるわけないじゃないですか。どこかの部屋が空いてますよね」

 「いいえ。私たちはここで暮さないといけません。いつ何時、レイア様は襲われるかわかりませんから」

 「いやいや。ありえないでしょ。男女で同じ屋根の下に暮らすのは! 結婚もしてないし、お付き合いもしてませんし。そんなことはしてはいけないって先生も言ってましたしって・・あれ、そういえば・・・」


 ソーマは当たり前の意見をしたが、よく考えたら気付いた。

 お師匠様もまた女性であった気がしたのだ。

 小さく可愛らしい少女のような姿で顔は美人。

 だけど胸もない。は失礼だった!

 ちょっと露出多めの魔法使いの格好をした女性なのがエマで、青い帽子に赤と黄色の二色の斜線が映える独特の帽子を被っている。


 「ソーマさん。それは無理ですね。私たちだけではこの世界を生きていけないのですよ。強さが足りませんから」

 「・・・じゃあ、この隣の部屋とかは駄目なんですか。何かあったら駆け付けますから」

 「駄目です。あちらはお姉さまの部屋ですし、この階の他の部屋も四聖貴族の方たちの部屋ですから」

 「そ、そんな・・・」

 

 これは罠だ。

 悪い予感と悪寒がする。

 最近は結婚してくださいって言って来なかったことが油断に繋がっていたのだ。

 まだ彼女は諦めていなかった戦々恐々とするソーマであった。


 「私と一緒に暮らしてもらいますよ! 生きるためにはあなたが必要なんです!」


 そうレイアから言われたら断れない。

 

 「そうです。私も一生懸命。ソーマさんが好きな物を作ってあげますから。お願いします!!」


 ビビアンからそれを言わられたらもっと断れない。


 「・・・わかりました。覚悟を決めましょう!!! 僕がお守りします」


 ここは了承するしかないソーマであった。

 どっしり構えて、仁王立ちで答えた。


 「ただし! 僕はあそこの隅にいさせてもらいますよ。お二人はそちらのベッドで寝てください」


 ソーマは部屋の隅を指差して、出窓の下を住処とした。


 「え? 一緒に眠っても大丈夫でしょ。前にもあんなことがあったんだから!」

 「なにもありませんでしたよ!!! 僕はここを部屋とします!!!」


 女には気をつけないといけない。

 それがソーマの人生のテーマである。

 師匠であるエマの言葉を大切にする剣士なのだ。

 



 

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