第3話めぐる


カン カン カン カン カン カン カン


「おいそら、木の棒柵に当てるやつやめろよもういい年なんだから」

「んー、そうだな ほれっと」

「投げてすてるなよ…」

「別にセイジンヲ迎エタ者木ノ棒デアソビソレヲホウリナゲルトコ禁ズなんて法律ないわ」

「はぁ…そんなことよりお前なんでハナの前で急にあんなこと言い始めた?」

「ダメだったぁ?」

「ダメに決まっているだろう!お前がハナの何がわかるんだ!一回会っただけの彼女にあんな事を言う資格があると思ったのか?」

「いつ一回会った?」

「は?」

「三人で会った時の話してるんでしょ?いつの事?何月何日?」

「…七月の…二十一だったか?」

「正解、なんで三人で集まったの?」

「…カフェだったよな、俺はアイスコーヒーとシフォンケーキを頼んだ」

「ん…まぁいいや」

「なぁそら」

「なぁーに」

「あの頃、ハナは錯乱状態でさ」

「へぇ」

「何かキッカケがあったのか実は何か悩んでいたのかはわからないが、とにかく彼女が変わってしまったのは丁度あの頃なんだよ錯乱状態が始まったのは十九日頃」

「…そう」

「そして、混乱状態が良くなって、でも彼女は元には戻らず、魂が抜けたような、人が変わったような今の彼女になった」

「おー」

「僕の記憶違いでなければ、彼女が今のようになったのは七月二十一だ」

「……」

「お前、なにか関わっているんじゃないか?彼女がああなった理由を知っているんじゃないか?」

「……なんか私一周回って面白くなってきたわ」

「なにをふざけている?!」

「…ふざけてない、さっきみたいにならないように言葉を選んでる、選んでる最中のつなぎの言葉を選ぶことはできなかったけど」

「もういい、お前がハナに悪い影響を与えたのはわかってる、具体的なことはお前が言わないからわからないがな」

「はぁ、」

「……お前さ…恨んでいるのか?」

「ん…?私が誰を?」

「俺をだよ…」

「なんで?」

「俺が、そらの兄さんを殺した事だよ」

「別にあんたが殺したんじゃないっていったい何回言わせるの?包丁を持ってヤーって襲いかかってグッさグッさと刺したなら別だけどさ」

「俺があの時あっちに走っていったから兄貴は死んだ」

「キャンプだったもん、子どもが楽しくならない訳が無い」

「俺が川に気づいていれば兄貴は死ななかった」

「子どもにはどうしようもない流れだったけど、大人であれば跨げるような小さな川だった。昨晩の雨がなければうちらも遊んで終わりだったかもしれない。子ども三人でほっぽりだした親の監督責任じゃない?実際、そうまとまりあんたも私も気遣いをされど叱られることなんてなかった」

「俺を助けるために飛び込んだから兄貴は死んだんだ」

「兄ちゃんからしたら血も繋がってないのに兄貴兄貴って慕ってくれる加瀬が可愛くて仕方が無かったのよ、兄貴ズラしきれなかったことを悔やめどあんたを助けたことを後悔なんてしないわ」

「……でも」

「あんたは本当に縛られてばっかり、いなくなった人はいなくなったの。戻ってはこない!お兄ちゃんは死んだ」


無性に川を見つめて動けないことがある。

石、草、川の流れ、たまに流木や人工物が流れてきたりして。


「……ッでも!」 


「そしてあんたの彼女は他の男と腕を組んでどっかに行った!あの女からしたら加瀬はニコニコ世話してくれて他の男と遊んでも気付かない都合のいい男ってだけ!錯乱?ええ、そりゃあんたの引き止めは一線をこえてもはや監禁だった!錯乱するに決まってるでしょう」

「………え?」

手が震える。


「何言って」

口が震える、しゃべれない。


「あ、ああ…」

いやだ、思い出したくない。


「ハナ…ハ ハ ハナぁ…」

涙が出る、嫌だ、認めたみたいで嫌だ。


「そらちゃん、畳み掛けすぎだよ」

「…ハナ追ってきてたの」

「……うん、いないとダメな時が来るかなって」

ハナ?が、近づいてくる。

「ごめんね、加瀬さん。お姉ちゃんがあんな人で、そして、私も上手く伝えられなくて」

「あなたは…だれ、ですか…」

「花草りつ。あなたが長く付き合っていた花草まゆの妹です」

「………いもう…と?」

「あんたはこっぴどく振られて5年のひたむきな交際の全てを否定され、限界の精神状態の時、私と遊んでるりつちゃんを見つけて、まゆだと、彼女だと思い込んだのよ」

「……そ、そんなこと………」

「普通ならすぐさま警察よ、私が警察を呼ぼうとするとりつはそれを止めて落ち着かせたもんだから、保留にしたの。でも流石に三ヶ月は異常、それで私が無理にでも止めに来た」

「最近は思い込みも弱ってきていいタイミングかなと強くはとめませんでした。私も困ってるし」

「…………………………」

「ねぇ、加瀬さん、お姉ちゃんのせいで、本当にごめんね。あの人が酷いだけでね、あなたは別に苦しむべき人じゃないの、思いやりがあって、ちいさな事に目をやれて、幸せになるべき人なの」

「…」

「だから、忘れろってのがムリなのはわかってる、でも、前を向いて今や未来を考えて動いてほしい」

「未練がましいのは魂にこびりついてる性分なのはわかるけどさ、いつまでもこうしちゃいられないだろ」


「……………すみませんりつさん、ずいぶんと縛り付けちゃったみたいで」

「いえ、気にしないでください縛り付けられたなんて思ってないです!」

「え、」

「私、お姉ちゃんのかわりにはなれないですけど、私としてなら、お友達になりますよ。

私は花より猫の置き物を置きたいし、外で遊ぶより家でぼーっとしたり読書したりが好きなんです」

「……そうだったんですね」

「お、受け止められてる!」

「……すみません、ちょっと、一人になりたい」


「そうか、わかった」

「家の私の荷物、そんなにないですから持って帰りますね。いただいた鍵、玄関のわかりやすい所においておきます」

「…わかりました」

「お、お前やっとちょっと笑った!あはは!」

「…んじゃ、バイバイ」

「おー!いつでも連絡しろよー!」


…………

……………………

…………………………………

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