第2話今日

手提げのエコバッグを二つぶら下げて帰路につく。

季節は秋。

秋は好きだ、気候が丁度いいし、嫌いな夏が終わったことを告げる冷たい風はついあたっていたくなる。

橋の真ん中にきて、思わず足をとめる。

川。

無性に川を見つめて動けないことがある。

石、草、川の流れ、たまに流木や人工物が流れてきたりして。

…………

………………帰ろう、肉を冷蔵庫に入れなくては。


エコバッグをたたんでいると電話が鳴った。

大森そら

幼馴染だ。

「もしもし?」

「もしもし、どうした」

「ああ、ちょっと加瀬の家寄って良い?」

「なんで?いきなりだな」

「何日前予約をご希望です?」

「ああいや、良いよ、買い物から帰ってきた所だし」

「あざまーす、じゃあ二十分位で行くねー!」

「ああ、わかった、はーい」


「はぁ…軽口は変わらないな」

「誰と電話していたの?」

「…ハナ」

僕の電話相手を気にするような性格になったのか。

「幼馴染のそらって人…いや、女の子だけどもちろんそう言うんじゃないから!」

「……三人で会ったことある」

「え?…ああ、そうだったな」

「…私、そらのこと知らないと思ったの?」

「え?あー、いやぁ…」

「……」

「会ったの一回だけだしさ、その時ハナはとょっとしんどそうだったから、覚えてないかなって思っただけだよ」 

「…そう」

「あっ

彼女は表情を暗くして踵を返す。

言わないほうが良かったか…?


ピンポーン

「はーい」

玄関の鍵を開けるとこちらが扉を開く前に向こうから入ってくる。

「やっほー」

茶色がかったショートボブと男勝りなスカジャン。

「はい、おみあげ シュークリーム」

「おおありがとう」

「お邪魔しまーす」

玄関で靴を脱ぐ前に渡されたおみあげ、ハコに油性ペンでヘビやトカゲやネコのイタズラ書きがしてある。

「相変わらずだなぁ…」


「加瀬ーここ座っていーい?」

「いいよー」

「あざまーす」

シュークリームを小皿にうつしてコーヒーを淹れる準備をする。

「…ハナちゃんどこ?」

「ああ、部屋にいると思う…お、言ってたら来たよ」


「…ひさしぶり、そらちゃん」

「ハナ…」

「どうしたの?そらちゃん」

「もう三ヶ月になる」 

「ん?」

「もう、三ヶ月になるわ、終わらせるべきよ、これ以上は始末がつかない」


「…おい、何の話してるんだ?」

不穏な空気と会話に驚きキッチンから飛び出す。

そらは斜めの方向を見上げ吐き捨てるように言った。

「本当にこんなんで良いと思っているの?!」

「はぁ?」

「そうやって精神を病んだようなことしてないでとっとと踏ん切りをつけるべきよ!相手に甘ったれてないで!今のあんたは誰にとっても害だわ」


あまりに酷く激しい言葉に思わず肩に掴みかかる。

「ッ!

「お前…それは…」

「…それはぁ?!」

何故か声色を上げたそらの問に真っ直ぐ答える。

「そんな事をハナに言うな、病んだようなことするな?人生、誰に何が起きるかわからないだろう!お前がそうならない保証なんかない!」

「……」

「甘ったれるな?別に僕は迷惑じゃない、そらにも迷惑はかけていない!誰にも害になっていない!ハナは家で仕事もしてくれている!突然そんなこと言い出すなら二度と来るな!」

掴んでいた肩を突き飛ばす。

「ッ………ああ、そう…」

「あっ、そっそらちゃん!」

「いい、ハナ、気にしないでいい、すぐに帰らすから部屋に戻っていてくれ」

「で、でも!」

「別に私は気にしなくていいよ、ハナ」

「え」


ふらふらと立ち上がったそらは大きく息を吐いてこう言い放った。

「もう二度と来るなっていうならさぁ、幼稚園から始まったうちらの友情はここで切れるわけだ、私の兄ちゃんも含めてさ」

「…別にそんな意味で言ったんじゃない」

「あっ、そーお?なら口に気をつけなよぉー私なんかに言われちゃオシマイだね」

「そうだな」

「散歩に行こうよ」

「え?」

「幼稚園からの縁が切れる瞬間なんてなかなかないだろ?一緒に登下校の時そうしてたように、ただ意味も目的地もなく歩こうって提案」

「…だから別に絶縁みたいな意味で言ったんじゃない!」

「じゃあこの一時的にヒビ割れた仲をなだらかにするためにクールダウンと行こうよ、ハナ うちら二人で外でていいだろ?」

「…どこにいくの?」

「戻しにいく、これ以上ならないために」

「…わかった いってらっしゃい。連絡見ておくわ」

「え?ハナ?」

「おら、行くぞ加瀬!」

「おい、わかった、いや引っ張るなし、ハナ、いってくるな」


二人は靴を引っ掛けてバタバタと外に出ていった。

ハナは部屋から持ってきたパーカーを1枚はおり、二人の後を追った。

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