彼女の願い
@AOIHOSITOSIRUKU3251
第1話 木村加瀬
家に飾ってある花瓶4つを集める。
水を入れ替え、茎の先を落とす。
花瓶を丁寧に拭き、元の場所にもどす。
日にあたってきれいだ。
…僕の仕事じゃなかったんだけどね。
今日の朝ご飯は昨日の残り物と惣菜。
炊飯器のタイマーは十三を表示してある。
そろそろ彼女を起こそう。
扉を三回叩く。
「ハナ、おはよう」
カーテンから光が入って彼女はベッドに腰掛けていた。
「…おはよう」
「おきてたんだね」
「うん」
細身でかわいらしい彼女の沈んだ目を見る。
ほんの数ヶ月前まではアクティブでのんびりもしないような性格だった。
気も強く、おおらかな人だった。
だか、数ヶ月前大きく錯乱し、気がついたら人が変わったような今の状態。
違和感はもちろん拭えない。
僕との記憶が消えたような態度も嫌なものが走る。
だがそれでも彼女は彼女。
見慣れないとか記憶と合致しないなんてどうでもいいんだ。
本当に。
「…寝れたかい?」
「ええ、寝れたよ」
「…あと十分くらいでご飯が炊けるよ、おかずは昨日の残りだけど」
「昨日のきのこ炒めは美味しかったからうれしい」
「…よかった、えっと、今日は予定とかはないのか?」
「予定って?」
「…出かけたりしないのか?」
「行きたい所はとくにないかなぁ」
「いきたい、ところがあるとかないとか、君はそう言うんじゃなかったじゃないか…」
考え無しの失言をしてしまったことに気づいて、彼女を見ても全くの揺らぎが感じられない。静かに微笑んでいる。
「私、そう言うんじゃないの?」
「いや、ちがうっ!……そう言う、君もいいと思う、ただ、君の中で何があったのか聞きたいんだ」
揺らがない、泳がない、態度、目、仕草何一つ。
こっちが聞いてるのに彼女の全身が、オーラが逆にこちらに語りかけてくる様に感じる、微笑んでいるのに、こちらが後ずさる。
「聞いても今のままじゃ拒絶するわ」
「…え?」
「…顔洗ってくるね」
こっちに歩いてくるけど、その目に僕はいない。
同じ家の中ですれ違うだけなのに途方もなく遠く感じる。
元の彼女に戻ってなんて願わない、でも、今の彼女と一緒にいるのはつらい。
それとも僕が彼女を苦しめているのか?
あの錯乱は何があったんだ?
それとも僕が気付かないだけで、彼女の中でずっと何かがあったのか?
…とりあえず考えるのはやめよう。
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