修仙勇者異聞錄

第10話：赤豆餅のスープ

「飛星お兄ちゃん。」

「飛星お兄ちゃん。」

夢の中の李飛星は不思議な感覚に襲われた。この声を聞くと、宗門に戻ったような気がして、幼い頃に師妹の桜吹雪を世話していた時のことを思い出した……不本意ながら目を開けると、キツネの耳が目の前にあった。弥子が彼を起こしているのだった。

「またお腹が空いたのか？」

「ちょっと待って、目が覚めたら一緒にご飯を食べに行こう。」

階下に降りると、李飛星は目をこすりながら、帽子をかぶった弥子が跳ねるように後をついてきた。二人は下で饅頭を食べた。李飛星は彼女が箸を使えないかもしれないと思ったのだ。

「さて、どうしてここまでついてきたんだ？」

「家出してきたの！」

「それが自慢なのか？」

李飛星は無言で豆乳を弥子に差し出し、目の前で誇らしげな表情を浮かべる少女に少し困惑した。

「ふざけるな、食べ終わったら送って帰るぞ。」

「いやだ、大長老たちが許可したの。」

弥子の声が急に大きくなり、李飛星は慌てて彼女を抱きしめて口をふさぎ、さらに怪しくなった。

李飛星は朝からため息をついた。

「どうやって彼らに許可をもらったのか教えてくれ。」

「泣いたの～」弥子は楽しそうに笑った。

「…それはいい方法だな。」李飛星は苦笑した。「でも、飛星お兄ちゃんって呼ぶのはどうしてだ？前はずっと人間って呼んでたじゃないか？」

「大長老が教えてくれたの。そうすればお兄ちゃんが私に手を出さなくなるって？」弥子も少し疑問そうにした。「最初に会った大長老がそう言ったんだよ。」

「この老狐、確かに賢いな…」

李飛星は少し諦めたように考え、この小さな狐が彼についてくることを受け入れた。持っている金を数えて、「平安京」に戻ることに決めた。剣を背負った少年と狐耳の巫女が、京都のかつての宿に戻った。

残った金で数ヶ月はここに滞在できるだろう。しかし、生活費を稼ぐ必要がある。以前はここで講談を語り、小説を書きながら情報を売って生計を立てていた。だが今は幼い狐を連れている……彼女と一緒に観客を楽しませるために笑い話をするのも悪くないか？

最近の日々はそんな感じだ。李飛星は外で講談を語り、弥子に読み書きを教えたりもしている。

「弥子、一緒に街を歩こうか。」

「うん！人間の食べ物も美味しい！」

村は自然に囲まれており、青々とした植物が夏の昼に涼しさをもたらしていた。木造の建物は灰色の瓦で覆われ、人々がその間の小道を行き交っている。村人や町の住人であろう。小道はまだ舗装されておらず、自然な状態を保っている。市場は賑やかで、商人や露天商の呼び声が響き、通行する男女は浴衣を着て夏の平和を楽しんでいた。李飛星と巫女服を着た弥子が一緒に歩いていると、周囲の人々がちらちらと見ていた。

李飛星はこの状況が少し耐え難く感じた。

「弥子、服屋に行こうか。」

「どうして？」

「うーん…弥子が浴衣を着ると可愛いと思うんだ。」

「飛星お兄ちゃん、エッチ！」

「でも、ありがとう！」

「さあ行こう！」

李飛星は頬を撫でながら、弥子を見ずに話した。小狐は喜んで服屋に入った。

「いらっしゃいませ…」

「いらっしゃい。」

女性店員たちは李飛星の宗門の制服を見て、少し困惑した表情を浮かべた。

「仙人が凡品を買いに来るなんて？」

「こんにちは、この子に服を買いたいのです。この女の子に合う服を選んでください。」

「お世話になります！」

「わあ、可愛い小狐さん。」

小狐は背後から出てきて、女性店員の甘泉凉が弥子の肩を抱いて匂いを嗅いだ。

「それではお任せください！」

「お客様、こちらへどうぞ！」

「飛…飛星お兄ちゃん、大丈夫かな？」

李飛星は顔を掻きながら分からないと示した。

「可愛い狐耳だね。」

「触らないでよ。」

数人の大人の女性が小狐を取り囲み、興味津々に見ていたので、弥子は少し恥ずかしそうだった。

揉みくちゃにされた後、女性たちは満足し、冷静に小狐にいくつかの服を試着させた。伝統的な浴衣や黒船貿易で持ち込まれた新しいスタイルの服装など、ようやく女性たちは満足した。

店員たちは新しい服を着た弥子を連れてきた。

「お客様、この子に黒いロングドレスと白いフリルエプロンを合わせ、黒い靴を履かせました。」

李飛星の目に映ったのは、弥子の上衣の襟元にある黒いリボンで、蝶のようだった。

「この服、見たことないな。」

「お客様、これは黒船貿易で学んだ外国風の服装で、女性に非常に人気があるのです！」

「なるほど…では、値段は？」

「高くはありません、わずか一両金です。」

「霊石での支払いも可能です。等価ですから。」

女性店員たちは李飛星が修行者であることを思い出し、ここは京都で最大の服屋「錦綺華織館」だということを理解した。

李飛星は驚いたが、自分が玄天聖宗天剣峰の弟子であることを思い出し、一両金が高すぎるとは言えない立場にあった。顔の平静を保つよう努めた。

「確かに高くないな。」

女性店員たちは喜びの表情を見せた。

「しかし、私は伝統的なものが好きなので、この服は新しすぎる。弥子はまだ子供だからな。」

「靴が少し窮屈だと思う。」弥子は足を動かして言った。

「分かりました、それではこの子にもう一度試してもらいます。」

弥子は再び服を試着した。大手の店はさすがに大手だ。小狐は水色の浴衣に着替え、ゆったりとしたデザインで少女のゆったりした雰囲気を引き出し、長袖と襟が重なり合って服の層を増やしていた。腰には細い帯が飾られ、15歳の彼女に一層の優雅さを加えた。

「この服、どう思う？」

弥子は店員と一緒に出てきた。李飛星は心が高鳴った。彼が一番好きなのは白い毛皮と赤い瞳ではないはずだが、それでも心に触れるものがあった。

「とても可愛い…」

「弥子はどう思う？」

「これは伝統的な民族衣装だけど、素材は神州からの楼蘭綿で作られているの。もちろん、靴下も同じ素材よ。その合わせている木屐は蘭陵の桐木で作られているの。」

胸元を押さえると、李飛星はちょっと気分が悪そうにしながら、弥子の手を引いた。小狐狸は李飛星の袖を引っ張りながら言った。

「私、これがいい！」

「それなら、価格はいくらですか？」

「これの場合、伝統的な衣装なので、60両銀です。」

「助かった…」

李飛星はようやく気が抜けて、ほっと一息ついて、レジに向かった！

「この二人、カップルじゃないの？」

「小さすぎるんじゃないかな」数人の女店員が少年と少女について議論していた。

「飛星哥哥。あっちにも店があるよ！」

小狐狸は李飛星を引っ張って「三色月影」という団子屋に入って行った。

その時、李飛星は家計として2両銀しか残っていなかった。

京都の古い街、室外の茶道、本式の赤い野点傘の下で、剣を背負った少年の隣に浴衣を着た小狐狸が座っていた。

店の中で、弥子はあずきで煮たもち汁を頼み、李飛星は醤油をつけた団子を食べ、ひと口抹茶を飲み、午後の静けさを楽しんでいた。

「あ〜ん、飛星哥哥は醤油団子が好き？」

小狐狸は甘いあずきもち汁を楽しんで、浴衣の外の尾がふりふりと揺れて、そして李飛星の手にある団子をじっと見つめた。

「おいしいんじゃないかな…」

「一口食べてもいい？」

「え？」李飛星は静けさからようやく気が付いて、「いいよ。」

弥子に差し出す。

「ん、あ〜ん」

「こんなにおいしいんだね…」

弥子は一つの団子をかじり、楽しそうに食べている。李飛星は少し疑問に思いながら、「女の子ってこんなこと好きなのかな？」と心の中で考えた。

「私のも食べてみて。」

「え？」

弥子はスプーンで鉢から一杯の汁をすくい、李飛星の口元に差し出した。

「あ〜ん」

「ん…」

李飛星は赤面し、ちょっとひくくなった。

「口を開けて。」

汁を飲み込んで、顔の赤さを隠した。

「どうだ、もちもちした団子、おいしいでしょ？」

李飛星は団子をかみ砕き、周囲の人々がこの光景に気付いているかを観察した。

「なかなかいいな…」

「前は深い森で育って、初めてここに来て、たくさんの人間を見て、びっくりしたんだ。」

「そうなの？でも、あなたは他の人とコミュニケーションが上手だよね。」

「妖怪たちも街路があるんだ、いくらかは行ったことがある。だから、時々人間が間違えて入ってきて、時々何人か見かける。」

「でも、飛星哥哥がいるから、人間とコミュニケーションをするのを努力したんだ。」

「面白そうだね、機会があれば行ってみよう。」

「え？」

「今日は遊んでくれてありがとう。」

李飛星は突然気づき、弥子を見て、顔に笑顔を浮かべた。

心の中で：「団子はもう食べられないみたいね。」

「気にしないで、楽しんでくれればいいよ…」

「じゃあね！」

「やっぱりあなたが一番好きだよ。」