修仙勇者異聞錄

第8話：太陽の雨

「あと何日であの狐の嫁入りが来るのだ？」

「本当に退屈だ。」

角の生えた鬼が歯を磨きながら、両腕に狐耳の少女二人を抱えていた。供え物の食事を食べ終わったかのように見えた鬼は、二人の少女を地面に投げ捨て、骨棒のような武器で侍者を吹き飛ばして立ち上がった。

「結婚したらお前たちの新しい大王だ。民を大切にするのは当然だろう？」

「大人様、命をお助けいただき感謝いたします。」

「しかし、長老に顔を立てて姫を一人だけ娶るのだ。」

「だから余計なことはするなよ。」

「は、はい…」

「それからお前たちの族の男狐を数人呼んで来い。俺と戦わせろ！」

「すぐに手配いたします。」

この横暴な妖怪は鬼族から追放されたもので、数日前にこの地にやって来て山を占拠していた。しかし、あまりやり過ぎないように気をつけていて、少し利益を得てから他の場所に移るつもりだった。狐族には強力な妖怪もいるからだ。

その鬼は今、狐族の侍者が連れて来た数人の若い男たちと戦う楽しみを味わっていた。骨棒を振り回し、笑い声が谷にこだましていた。狐族の騒動にはまったく気づいていなかった。

······

······

「何？お嬢様がいなくなっただと？」

烏帽子を被った大きな狐が、他の狐たちに怒鳴りつけた。

「とにかく、早く探せ！」

「まずはあいつを引き留めろ……」

「おい、起きろ。」

寝ていた李飛星が誰かに起こされ、もぞもぞと目をこすった。何かが胸に当たっているのを感じた。

それが弥子だと気づき、男女の間には礼儀があることを思い出して慌てて彼女を押しのけた。

「痛いじゃないか。」

「ごめん、ちょっと焦っちゃって。」

「お腹が空いた。」

李飛星も心臓がドキドキしていた。確かに弥子を草席に寝かせたはずだが、狐耳の少女は少し怒っているように見えた。

「君って本当に厄介だな。」

「ご飯を食べたいけど、僕の包みにはもうあまり残ってないよ。これをあげるよ。」

「君はどうするの？」

「僕はあとで村に戻って食べるよ。」

李飛星は立ち上がって体をはたき、残っている年糕を取り出して弥子に渡した。

小狐はそれを見つめ、少し考え込んだ。

「人間も悪い人ばかりじゃないんだね。」

李飛星は肩をすくめ、弥子が聞こえないと思って自分に言い聞かせた。

「でも、用心するに越したことはないよ。」

「君は可愛いからね。」

「可愛いって何？」

李飛星は年糕を食べる狐の少女を見て、「ここの妖怪たちは本当に純朴だな」と思った。

突然、弥子の耳が動き、匂いを嗅ぎ取って李飛星の手を引いて走り出した。

「？？？」

「どうしたの？」

「嫌な奴らが来た。」

「待って、嫌な奴らって誰？」

突然の出来事に驚いた李飛星は走りながら弥子に問いかけ、彼女からもっと情報を得ようとした。

弥子は振り返らず、さらに速度を上げた。

「族の者たち。」

李飛星の心が緊張し、弥子の口ぶりから彼らが追ってきていることがわかった。

二人は全速力で走り続け、弥子は李飛星を小さな洞窟に連れて行った。李飛星は自分の心臓の音を聞き、弥子の微かに震える体を感じた。

狐の嗅覚は非常に鋭く、弥子の匂いを追跡するのは難しくなかった。既に洞窟を囲んでいる若い狐たちは警戒心でいっぱいだった。

「お嬢様がこの人間と一緒にいるなんて？」

「お嬢様を連れ戻して、この人間から引き離せ！」

一人の狐族の若者が怒り狂い、草叉を持って洞窟に入ろうとした。もう一人の族人も同調し、腰の武器に手をかけた。その時、年長の狐が彼らを止めた。

「長老、これは一体？」

「その人間の服装を見たことがある。修行者のようだ。武人とは違う。」

「助けを求めるべきでしょうか？」

「焦るな。まずは彼を試してみよう。」

狐たちは李飛星の一挙一動を陰から観察し、洞窟内の様子を慎重に見守っていた。

「私は大妖怪と結婚させられそうになって、逃げ出してきたの。」

弥子は肩を抱きしめて座り、無力そうに見えた。李飛星は静かに彼女の話を聞いていた。

「そんなことがあったのか。許せない。君の族の者に話をしてくるよ。」

李飛星は立ち上がり、剣を持って外に出ようとした。

「バカ、人間は狐が嫌いなんだよ。」

「聞いたことはあるけど、君はとても友好的じゃないか。」

弥子は突然の一言に少年を困惑させた。

弥子はさらに頭を低くした。

追ってきた狐たちはその様子を見て、婚約のことを考えていた。

「お嬢様は人間に心を奪われてしまったのか？」

李飛星は弥子が何も言わないのを見てため息をつき、狐の巫女の手を握った。

「何をするの？」

弥子は驚いて跳び上がった。

「女の子がこんな目に遭ったら、助けないわけにはいかないだろう！」李飛星は彼女の頬を軽くつまんで笑いながら言った。「僕がいるから、安心して。」

若い狐たちは怒りに燃え、騒ぎを起こした。

李飛星はすぐに警戒の姿勢を取り、若い狐たちも次々と出てきた。その後に続くのは年長の狐だった。

「弥子が無理やり妖怪と結婚させられるなんて、族の者がすることか！」

「人間よ、これは我々の族の問題だ。」

「お前には関係ない。」

「早く弥子お嬢様から離れろ！」

「どけ、どけ！」

「彼を傷つけないで、この人間は私に優しくしてくれたの。」

李飛星は剣を持って目の前の狐たちを指差し、弥子が彼の前に立ちはだかった。

若い狐たちは武器を振りかざし、その光景に狐たちは顔を見合わせた。年長の狐がため息をついて前に出た。

「お嬢様、どうか我慢してください。今の族の状況を考えてください。」

老狐の口調は少し柔らかくなり、雰囲気は和らいだ。

「ええと、狐は人間が嫌いって聞いたけど、なんだか話が複雑そうだな？」

「詳しく話してくれないか？もしかしたら僕が手助けできるかも。」

「いいだろう。」

李飛星は頭を掻きながら、老狐を見て苦笑した。

「しかし、私は君を傷つけるつもりはない。まずはこの若者たちと戦ってみてからだ。」

李飛星は言葉に詰まり、呆然とした。「この老狐、本当に狡猾だな。こんな時でも試すのか。」

それでも、長年の修行のおかげで若い狐たちを相手にするのは大したことではなかった。

彼は剣をひらひらと回し、リラックスした様子で構えた。

「さあ、試してみるか？」

狐たちはこの人間が弥子お嬢様に触れるのを見て、すでに不快感を抱いていた。今や長老が彼らにチャンスを与えたので、彼らはその機会を逃すことなく立ち向かった。

草叉と剣がぶつかり合い、李飛星はかろうじて勝利し、息を切らしていた。老狐はその様子を見て首を振った。

「若者よ、君は我々を助けることはできない。さあ、戻りなさい。」

その言葉に、少年と少女は失望の表情を浮かべた。

「老前輩、何があったのか教えてくれませんか？」

「よかろう。」

老狐は李飛星に侵入してきた鬼の話をした。

「しかし、僕も手助けできるんじゃないか？」

「君はまだ若いが、感謝するよ。」

「お嬢様、族のために戻ってください。」

李飛星は諦めず、老狐は首を振って小さな少女を引き上げた。続いて皆が沈黙し、弥子は婚礼の準備のために連れ戻された。

これでは我慢できない。李飛星はこっそり狐たちの後をつけ、村にたどり着いた。

「はあ。」

「帰れ。」

狐たちは鋭い嗅覚で李飛星の匂いを感じ取っており、彼の印象が少し変わったようだ。狐たちは振り返って李飛星に立ち去るよう合図を送った。

運悪く、李飛星は帰る途中で先ほど狐を脅していた鬼に出くわし、怒りに任せて剣を抜いて立ち向かった。

神州大陸には数え切れないほどの種族がいる。鬼族の例を挙げれば、その筋骨は強靭で、戦闘好きであり、戦いにおいては非常に才能がある。たとえ追放された鬼であっても、練気三層の修行者である李飛星にとっては手強い相手だった。

鬼は驚いて胸に一撃を受けたが、李飛星も打撃を受けて吐血しそうになった。

「消えろ。」

遠くで狐たちはこの戦いを見ていて、鬼が無傷であることを知り、この人間を彼らの助っ人だと誤解されないように急いで李飛星に退散するよう促した。

妖怪を殺せないのを見て、李飛星は狐たちの困惑した表情を見て戦意を失い、引き下がった。

······

······

狐が人間を嫌うと言っても、人間との交流を担当する狐もいる。彼らは飛雲湖に最も近い安防隊に助けを求めた。それは幽蘭が守護している場所だった。

間もなくして、幽蘭は隊員を引き連れて飛雲湖に向かった。

······

······

「へー、それは面白いね。分かった。この悪ガキを切り刻んでやる。」

その知らせを聞いた後、線香が焚かれた座敷で紫の着物を着た艶やかな女性は、壁に映る黒髪が生き生きとしているようで、人々を震撼させた。

オスのキツネはとても怖がって体が震えました。

「どうして、私はそんなに怖いのですか？」

「まだ数日晴れたり雨が降ったりするので、下山しましょう。」

雄キツネが素早く首を振ると、赤い瞳をした女の真っ赤な唇がわずかに吊り上がって、人々を震え上がらせた。