アルモフトラズに潜入せよ1
ドーケの町で暴れた奴隷の獣人とその主人の人間がシマダの町で目撃されたという情報がまことしやかにささやかされた。
国を抜け出そうとしていて焦っているなんて噂もあるけれどそれは解放軍が流した噂であった。
噂だけでなく似たような背格好の怪しい人物も実際に付近をうろつかせるという徹底ぶり。
肝心の本物のレオの方はというとシマダの町とは真逆の方に来ていた。
「やっぱり俺も……」
「いいって。これも偽装だからな」
レオとミカオとフーニャ、それに加えて道案内役として犬の獣人のルービが帯同していた。
垂れたミミをしていて眉間からマズルにかけて白く、目の当たりから頭にかけて褐色の毛色をしている。
がっしりとした体格の獣人男性であった。
そう、男性なのだ。
本当ならケモッ娘がいいですと言いたいところであったのだけどここで女の子がいいですとワガママは言えない。
ルービは今レオの分の荷物まで背負ってくれている。
申し訳なさを感じずにはいられないのだけど奴隷の獣人がいて荷物を平等に持っているというのも周りから見て違和感があるらしい。
だからいくつかの貴重品をレオが持って大きな荷物はルービが持つというのが周りに違和感を持たれない偽装となるのだ。
「それにしても魔物って意外と出てこないんだな」
「基本的に人が通る道に魔物は寄り付かない。向こうも馬鹿ではないのでわざわざ人の領域に入ってくることの方が少ないんだ」
「へぇ」
「ただ馬鹿もいるから全くないというわけではないがな」
「まあ、今出て来られると困るけどね。腕がプルプルするよ」
「ふん、あれぐらいで音を上げるとは情けないな」
ルービはただの案内人ではない。
解放軍におけるルービの役割は戦闘教官というものである。
戦闘教官とは解放軍の中で戦うことを望む獣人に戦い方を教える先生となる役職のことで、本人も戦いに長けた人なのだ。
だからルービは案内人兼護衛という役割も担っている。
さらにはレオを始めとしてミカオとフーニャにも戦いを教えてくれていた。
レオは戦いのど素人である。
ミカオはいくらか戦えるけれどまだまだ未熟で、フーニャも実はちゃんと戦い方を習ってはいなかったのである。
獣人は人間に比べても身体能力が高いことが多い。
本能的なものも強く戦いにおいても持ち前の能力で戦えてしまうことも少なくない。
だがやはりちゃんとした戦い方を学んだのとでは雲泥の差がある。
ルービは戦闘教官で教えることにも長けているのでレオたちは移動をしながら戦い方を習っているのだ。
前日には基礎的な素振りを行った。
それだけでもレオは腕がかなり筋肉痛になっている。
「ミカオも鍛錬サボっていたな」
「うぅ……だってぇ」
「言い訳無用だ」
「フーニャは平気そうだな」
「まだまだイケる」
フーニャは能力が高いのか素振りをしてもケロッとしているがミカオはレオと同じようなものだった。
ルービは実はミカオの教官も務めていた。
しばらく奴隷として自由のなかったミカオはすっかり体がなまってしまっている。
レオを逃げている時も自己鍛錬を行なっている様子はなかったし、ルービはミカオが日々の鍛錬を怠っていたことを見抜いた。
「1日や2日で人は強くならない。日々の積み重ね、しっかりと鍛錬していく強くなれるのだ」
「はぁい……」
「それにレオは魔法使いだと聞いていたが?」
奴隷の首輪を外すことができるほどの力を持った魔法使いであるとルービはレオのことを聞いていた。
「魔法も使えるけど……」
レオは自分の適性がどこにあるのかあまり分かっていない。
魔法で戦った方が強いかもしれないことは重々承知だ。
しかし魔法で戦うためにはモフポイントが必要なのであり、そのためにはケモッ娘をモフらねばならない。
つまり究極的にはケモッ娘が必要でモフポイントも日頃から溜めておかねばならないのである。
いつでもどこでも魔法が使えると考えるのは危険極まりない。
モフポイントがなくなっても自分の力で戦えるようにしておくのは大事なことであるとレオは考えていた。
いかなる時でもケモッ娘たちを守れるように戦えるようにならねばならないのである。
そう、全てはケモッ娘のため。
常にミカオとフーニャに守られているだけではダメなのだ。
「まあ魔法使いというのは魔法に頼ってばかりの貧弱者も多い。その点からするとレオは立派なものだ」
「ありがとうございます、ルービさん」
「ただ指導の手は抜かないからな」
「もちろんです!」
ケモッ娘には劣るものの、獣人も好きなレオ。
偏見もなく対等に付き合うのでケモッ娘ほどではないしても好感度は高くなりやすい。
真面目に鍛錬に取り組んでいるところもルービからしてみると好ましく映る要因だった。
「それにしてもだ……その、男女のことに口をつもりはないんだが……朝と夜に触れ合うのはいかがなものかと」
モフポイントのために朝と夜ミカオとフーニャをモフっている。
当人が納得して触れ合っているのはいいのだけどルービという第三者の目もある中でそんなことをするのはどうなのかと思っていた。
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