アルモフトラズに潜入せよ2

 人間と獣人の恋も否定はしない。

 ただやっぱり目の前でイチャつかれるのは気になる。


 実はクロウルからミカオがレオと変なことにならないように監視してくれと頼まれてもいた。

 だがルービは思う。


 もう手遅れ。


「あー……これはその必要なことなんです」


「必要?」


 朝夜イチャつくことが必要なはずあるものかとルービは眉間にしわを寄せた。

 レオは自分の力を使うためにはケモッ娘をモフって力を回復させておく必要があることを説明した。


「…………」


「本当なんです……」


 ルービはドン引きしている。

 しかし仮にウソだとしたらとんでもなくくだらないウソである。


 ただ信じがたくもある。

 獣人と触れ合うことで力を得られる能力など聞いたことも見たこともない。


「……まあそういうことなら」


 ただ力を得られているかどうかはレオしか分からない。

 理由があってイチャついているのなら仕方ないかとひとまずルービは自分を納得させた。


 ミカオもフーニャも嫌がっている様子はなく3人それぞれ合意の下に行われているのだからルービも文句はつけられない。

 むしろ問題なのは自分も一瞬撫でてもらえないだろうかなどと思ってしまうことがあることだった。


 なぜなのか幸せそうに撫でられているミカオやフーニャを見てると胸のどこかがウズウズとしてしまうことがあるのだ。

 それは獣人としての本能とレオのケモッ娘キラーとしての能力が故であるのだけどルービは湧き起こる感情に困惑も感じていた。


 だが獣人の成人男性が人間の成人男性に撫でられている光景を想像すると撫でてくれなど口が裂けてもいうことができない。


「世の中には摩訶不思議な能力を持つ人もいる。そうした能力の持ち主なのかもしれないな」


 まさしくその通り。

 レオは神様から力を与えられた獣人のための勇者のようなものである。


「当人が納得しているなら俺はもう何も言わない」


 必要だから、という感情以上に3人とも喜んでやっている。

 だが日々の楽しみがあることは決して悪いことではない。


「町が見えてきたな」


 歩いていると遠くに町が見えてきた。


「あれがアルモフトラズ……」


「そうだ。まあ、まだ見えているのは町だがな」


 ーーーーー


 アルモフトラズ。

 このケシタニモという国の端の方に位置している町の名前である。


 町そのものはなんの特徴もない中堅程度の町なのだが町の外にアルモフトラズ最大の特徴がある。


「あれがアルモフトラズ刑務所……」


 レオは窓の外の景色を見た。

 奴隷を連れたお金持ちを演出するために宿の最上階を貸し切った。


 宿の最上階の窓から見えるのは大きな壁。

 それはアルモフトラズの町の外には巨大な壁で囲まれた陸の孤島であるアルモフトラズ刑務所というものなのである。


 国内のみならず近隣国からも犯罪者が収容される世界的にも大きな刑務所で、今回レオたちの目的となっている場所だった。


「あれに獣人が囚われているんですか?」


「その通りだ」


 バーミットから得られたハンビトガイの計画の中には収容された獣人の抹殺計画があった。

 過激派組織のハンビトガイに囚われれば命がないような獣人であるけれどそれ以外に囚われた時には獣人もむやみやたらに殺されることはない。


 人間よりも重罪になりやすく、捕まれば最後釈放されるようなことはまずないが、過激派以外は命まで奪わず獣人は刑務所に収容される。

 中には解放軍の戦士として戦っていて捕まった人もいる。


 過激派組織は囚われた解放軍の獣人たちを抹殺する計画を立てていたのだ。

 たまたま対象となっていた獣人の中に解放軍が探していた獣人がいた。


 抹殺計画を防ぎ、囚われた獣人を解放する。

 これが解放軍が今回の目的としていることであった。


「……思っていたよりすごいところだな」


 巨大な刑務所と聞いて想像していたものはあった。

 しかし見えているアルモフトラズ刑務所の規模はレオの想像をはるかに越えている。


「あんなところに入れるんですか?」


「……分からない。だがハンビトガイがどうにかして中の獣人に手をかけようとしている。中に入るような方法があるのかもしれない」


 どうやって抹殺するのかまでは書かれていなかった。

 バーミットは抹殺計画の担当者ではなく計画の内容そのものまでは知らなかったらしい。


 レオの役割はハンビトガイの計画やアルモフトラズを調べたりして情報を集めることにある。


「最終的には解放軍の力を合わせて脱獄させるつもりだ」


 穏便に助け出せる方法があるのならそれが一番であるができないのなら無理にでも助け出す。

 逃げ場もない刑務所の中で仲間たちを虐殺させるようなマネを解放軍は許さない。


「そのために何か少しでも情報があればありがたい」


「……分かりました」


「だが無理はしなくてもいい。疑われて向こうに勘付かれても厄介だからな」


 ーーーーー


「苦しくないか?」


「にゃん、大丈夫」


 レオはアルモフトラズの町中を歩いていた。

 片手には鎖。


 繋がっている先はフーニャの首につけられた金属製の首輪である。

 偽装工作のためにフーニャが完全に奴隷に見えるようにしているのだ。

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