獣人解放軍のお仲間です2

「俺の使命はケモ……獣人を助けることだ。出来るなら解放軍を手助けしたい。ダメなら……個人的にでもどうにかするよ」


「……一つ聞きたい」


「なに?」


「なんでこんなに獣人のために何かしてくれようとするんだ?」


 人間なら人間の中で暮らしていればいい。

 獣人のことなんか気にしないで人間として平和に暮らしていけば獣人を助けるなんて茨の道よりも楽に生きている。


 ありがたい。だけど理解はし難い。


「……俺は獣人に救われたことがあるんだ。だから獣人を助けたい」


 絵だけど。

 それでも救われたものは救われた。


 今のところ出会った人の中で人間よりも獣人の方が良い人だった。

 善人そうだったと言えるのはビキニアーマーの店主ぐらいかなと思う。


「変わり者だな」


「それは自覚してる」


「ふっ、だが嫌いじゃない。ほらよ」


「これは?」


 クロウルは懐から何かを取り出して指で弾く。

 レオがそれをキャッチして見てみるとコインだった。


 やや大きめのコインは不思議な模様をしている。


「尻尾……翼……牙?」


 コインは色々なものがかたどられている。


「解放軍の証だ。無くすなよ」


「クロウル……」


「俺たちのために戦いたいと言ってくれてるんだ。妹も助けてくれたし、もうハンビトガイと敵対してるならこっちについた方が安全だろう」


「ありがとう」


 なんとなく認められたような気がしてレオは嬉しかった。


「それと支部長がお前と話したいらしい」


「支部長? クロウルじゃなかったのか?」


 クロウルがこの辺りの解放軍をまとめていると聞いていたレオは首を傾げた。


「俺も支部長だが地域の支部長なんだ。俺が今言ってる支部長ってのはこの国全体の解放軍を統括してる支部長なんだ」


「なるほどね」


 言うなればクロウルの上司という立場の人ということになる。


「問題なければ今から話したいがいいか?」


「ああ、いいぞ」


 支部長とはどんな人だろうかと期待する。

 つよつよケモッ娘ならいいなと思いながらクロウルの後をついていく。


「失礼します、クロウルです」


 クロウルがドアをノックして部屋の中に入っていく。


「ああ、ご苦労だったな」


「例の人間連れてきました」


 窓際に外を向いて立つ1人の獣人がいた。

 声からして男性。


 そして服の上からでもわかるような筋肉質な体をしている。

 尻尾やミミが見えるので犬などのケモノ系の獣人のようである。


「連れてきた……ということは認めたのだな?」


「はい、レオは俺たちの仲間にふさわしい人間です」


「そうか。ならば私はお前を信じよう。はじめまして、レオ殿。私は解放軍ケシタニモ国支部長のトブルだ」


 トブルと名乗った獣人が振り返った。

 犬系の獣人だとレオにはすぐに分かった。


 鼻ぺちゃ系とまで言わないがマズルはやや短めで太く、アーモンド型の鋭い目をしている。

 ブラウンカラーの体毛は短く艶やかでミミは半立ちて真ん中ほどから折れて垂れている。


 回帰前の世界で闘犬であった犬種をレオは思い出していた。

 体格的にもレオより頭ひとつ分ほど高くて筋肉質で圧倒感がある。


「君を解放軍に歓迎しよう」


 トブルはゆったりとレオの前まで歩いてきて手を差し出した。

 フーニャと同じく人の手に肉球がついたタイプの手である。


「あ、はい。よろしくお願いします」


 レオは握手に応じる。

 しっかりとした手で肉球も硬くて丈夫だった。


「ふふふ……」


「な、なんですか?」


「獣人に手を差し出されて平然と応じるとはな。噂に聞いていた通りの人物だ」


 トブルは笑った。

 しかし顔が怖いので笑ってもちょっと怖い。


 ただ少しだけ頭を撫でてみたいと思うレオは確実に変人なのであった。


「君を呼んでもらったのは歓迎の意を示すだけではない。頼みたいことがあったからだ」


「なんでしょうか? 俺に出来ることならなんでもやります」


「君にも尖った牙があるようだな」


 尖った牙があるというのはこちらの世界における獣人の慣用句のようなもので男気があるというような意味である。

 逆に腑抜けた人には丸い牙とか牙無しなんて言葉があるのだ。


「君が持ってきてくれたハンビトガイの資料のおかげでいろいろなことが分かった。その中に我々の仲間が囚われている場所が見つかったのだ。助け出すためにも色々調査をしたいのだが人間の助けが必要なのだ」


 バーミットは奴隷商人として活躍し、ハンビトガイのお金を担当しているせいか色々な流れを把握していた。

 情報を精査してみたところ解放軍の仲間たちの中で生きたまま囚われている人がいることが判明したのである。


「ケシタニモ支部においては人間の協力者は少ない。しかし獣人ではどうしても調べることに限界があるのだ。そこで君に手伝ってほしいと思っている」


 遠くから観察するぐらいはできるし獣人同士なら解放軍でも話を聞くことはできる。

 しかし人間相手となるとそうもいかない。


 獣人が話しかけてマトモに会話が成立することもないし人の町で情報を集めるのは困難を極める。

 ドーケの町のように奴隷の獣人が多く町中を歩いていれば目立たず潜伏もできるけれど、そうではない町は町中を歩くだけでも目立ってしまう。


 それに比べてレオは人間だ。

 悪目立ちする容姿はしていない上にここまで逃げてきた経緯を聞くに町中でも上手くやっていたことがうかがえる。

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