獣人解放軍のお仲間です1

 ミカオとフーニャにお世話されつつレオは体の回復に努めた。

 脅かされることのない環境とケモッ娘にお世話してもらえるという天国的状況にレオの回復も早かった。


 なぜなのかお世話してもらっている間も旅のモフポイント回復ルールが適応されていて朝はフーニャ、夜はミカオを撫でさせもらえた。

 そのほかにもお世話による接触などラッキーモフリなんかでモフポイントが回復して52モフポイントもいつの間にか溜まっていた。


「うん、良い感じだ」


 レオの顔の腫れも引いた。

 別に美男子ではないけれど腫れている時よりいくらかマシな顔にはなった。


 一番酷かったのが顔の腫れなので顔が治れば全身も治ったようなものである。

 軽く体を動かしてみたり力を入れてみても痛みは走らない。


 ここ数日周りから監視されているような気持ち悪さがあった。

 ミカオとフーニャは甲斐甲斐しく世話を焼いてくれるけれど他の獣人たちは部屋の前を通る時にチラリとレオを見ていくぐらいで声すらかけてこない。


 明らかに敬遠されている。

 人間だからという理由で獣人たちがレオを警戒するのは当然なので気持ちは察することができる。


「もう体は良さそうだな」


 獣人たちの中でレオを避けない人が1人いた。

 ミカオの兄のクロウルである。


 ミカオと同じオオカミの獣人のクロウルは時々来ては軽く挨拶をして部屋を去っていく。

 特に会話をするでもなく道端ですれ違ったぐらいの挨拶程度でいまだに謎の多い人物だった。


「少し話があるんだがいいか?」


 今日もまた挨拶だけで去っていくのかと思ったら話があるという。


「ああ、なんだ?」


「お前が持ってきてくれたアレについて」


「アレ?」


「バーミットのところから持ってきたやつだ」


「バー……」


「ハゲだ」


「ああ」


 ここまで名前も気にしなかったけれどスキンヘッドの男はバーミットというらしい。

 ハゲと言われてようやくレオも誰のことなのか理解した。


「あれはこちらにとっても重要なものだった」


 レオがバーミットの金庫から持ち出したのはお金だけではない。

 金庫の中には3冊の冊子があった。


 1冊ぱらっとみた感じでは帳簿のように見えた。

 金庫に入れているのなら大切な物のはずだと思ったのでお金と一緒に盗み出していたのである。


 奴隷の売買記録があればケモッ娘たちを救うこともできるかもしれないと思った。


「獣人の奴隷の売買記録、取引した奴隷商人の情報だけでなく過激派組織ハンビトガイの情報もあったんだ」


「過激派組織ってなんですか?」


 レオは首を傾げた。

 過激派組織ハンビトガイとは初めて聞いた。


「俺たち獣人は虐げられた存在だ。だがそれでも根絶されるような対象にはなっていない。だが人間の中には獣人を滅ぼすべきだと主張する奴もいる」


「そんな人が……」


「そうした奴らが集まって獣人の根絶を狙っているヤバい奴らがハンビトガイってわけさ。俺たち解放軍は獣人の解放と自由のために戦っているが、こうしたヤバい連中の動きを事前に止めたりすることも俺たちの役目なんだ」


 奴隷となっている獣人の解放だけでなく、獣人そのものを消そうとしている過激派組織ハンビトガイの活動を事前に止めたり攻撃したりすることも解放軍はやっている。


「バーミットは過激派に近い思想の持ち主で危険視していた。だがお前が持ってきてくれた資料によるとバーミットは近いどころじゃなくハンビトガイの幹部級メンバーだった」


 バーミットは奴隷商人なので解放軍でも注目していた。

 過激派とも繋がりのある可能性は考えていたが繋がりどころか幹部であった。


 そのためにバーミットが金庫に隠していた冊子のうちの1冊はハンビトガイに関することが書かれたものであったのだ。

 支部や他のメンバーの情報、金の流れや今後の計画についても書かれていた。


「あの冊子の情報を元にしてこちらから行動を起こすこともできる。情報を持ってきてくれて感謝する」


「獣人のためになれたのならよかったよ」


 レオはニコリと笑う。

 過激派なんて滅べばいいと思うレオの笑顔にはクロウルも獣人を思う心を感じずにはいられない。


「それで……これからどうするんだ?」


 クロウルは椅子に腰掛けてレオのことを見上げる。

 よく見るとミカオとクロウルの顔は違うのだけど、意識もせずにパッと何気なく顔を見ると間違えてしまいそうになる。


「うちの妹も……それが気になってるみたいだ」


 ミカオの元気がないとクロウルは薄々感じていた。

 レオの怪我が治って喜んでいたのにおかしい。


 レオの病室での会話からミカオがレオがこの先のことについて話すのを避けているように感じ、レオの選択について気にかけているが故に避けているのだと察した。


「どこかいく当てはあるのか? 何かやることや目的でもあるのか?」


 クロウルはレオが異世界人なことを知らない。

 けれどレオが獣人のために戦おうとしていると言うことはミカオから聞いていた。


 人間が獣人のために戦うということは容易ではない。

 他に助けもなさそうだし知り合いもいなさそうなことはクロウルも気がついているのでレオがどうするのかは気になっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る