もう、ちょっとだけ大切な人3

 助けられたとはいうけれどそれはレオも同じなのであった。

 お互い様なのである。

 

 ゆっくりと親指を動かして小さく頬を撫でてやるとミカオはくすぐったそうに目を細めた。


「ミカオのおかげであそこから抜け出せたのさ。そしてちゃんとフーニャにも感謝してるよ」


 ちょっとだけレオをぎゅっとする力が強くなった。

 女性の心の機微には疎いレオであるがここはしっかり察知してフォローを入れておく。


「2人ともありがとう」


「うん、こっちも何度でも言うよ。ありがとう、レオ」


「私も感謝してる」


 ミカオとフーニャもレオを人間としてじゃなく仲間として見てくれる。

 レオはポーションの効果というだけでなくなんとなく胸が熱くなるような気がした。


「それで……今更聞くのもなんだけどあの後ってどうなったんだ?」


 気絶後どころか気絶前も少し記憶が曖昧になっている。

 無事に切り抜けたということや助けがきたということはほんのりと覚えている。


 そこから先がわからないのである。


「とりあえずここは解放軍の拠点。やっぱりドーケの町の中を移ってたみたい」


「じゃあ町中ではあるんだな」


「うん。あの時掲示板のメッセージを見た解放軍が助けに来てくれたんだ。そしてアイツらを倒して一部の人が囮になって注目を集めてる間に私たちは拠点に逃げ込んだんだ」


「なるほど……結局アイツらって何者なんだ?」


「あれ? 言ってなかったっけ?」


「そういえば聞いてなかった」


 逃げ始めた時はそんな余裕なかった。

 とりあえず世界に順応して色々と準備をしながらひたすら逃げてきたのだし、多少余裕が出てくれば今度は追いかけられていることなど忘れてしまっていた。


 危ないやつ、ということだけ分かっていればよかったのである。

 しかしこうして安全な場所に来て改めて考えた時にこんなところまで追いかけてきたグレーシオたちが何者なのか気になった。


「アイツらは奴隷商人だよ」


「奴隷商人だと?」


「しかもただの奴隷商人じゃなくて獣人専門でその上仕入れ専門なんだ」


「獣人専門で、仕入れ専門?」


「獣人をさらってきて他の奴隷商人に売るんだ」


 あのスキンヘッド正真正銘のクズだったんだなとレオは渋い顔をした。


「ミカオもさらわれたのか?」


 なんとなく失敗しちゃって捕まったとぼやかされたことはあった。

 ついでなので聞いてみる。


「う……えと、奴隷商人だったから解放軍で奴隷を解放させようと襲撃したんだ。その時に私……捕まっちゃって」


「なるほどね」


 だからこそミカオは捕まったまま売られもせずに奴隷とされていたのである。

 スキンヘッドの男は解放軍の仲間なら助けに来るだろうと踏んでいた。


 その時にやってきたのが獣人を助ける怪しい男レオだった。

 だからこそミカオはレオに若干の負い目もあった。


 レオの行動も怪しいものだったが疑われるのにはミカオという存在もあったのだ。

 レオとミカオを合わせたのも何か動きがあるかもしれないと考えたから。


 その前に解放軍に別の動きがあってスキンヘッドの男が動くことになったのも実は偶然とは言い切れなかった。

 ミカオを助け出そうとスキンヘッドの男の別拠点を襲撃したもので関わりがあったとも言えるのだ。


「私たちにとっても敵になる奴らだから倒した方がよかったぐらい」


「そっか……ならよかったよ」


「ただ……」


「ただ?」


「レオと殴り合ってたグレーシオって人、戦いのどさくさに紛れて逃げちゃったみたい」


 もう動けないだろうと思われて後回しにされていたグレーシオは周りが戦っている間に逃げていた。

 スキンヘッドの男にとっての右腕なので早めに倒しておけばよかったとクロウルは後悔していた。


「でもここまできたら安全なんだな?」


「うん。レオも味方だって分かってくれてるしもう安全だよ!」


「とりあえずご主人様もゆっくり休む」


「……そうだな。そうさせてもらおう」


 ポーションが効いてきている感じはあるもののまだ全身が痛い。


「横になりたいから手伝ってくれるか?」


「うん」


 フーニャがレオの後ろから移動してレオをそっと寝かせる。


「フーニャ!」


「にゃん! ……痛い」


「何してるのよ!」


 レオを寝かせたフーニャはそのままレオの横に寝始めた。

 ミカオは膨れた顔をしてフーニャを引っ張った。

 フーニャはベッドから落ちて背中をぶつけて不満そうな声を出す。


「それじゃあレオが休めないでしょ!」


「にゃーん……」


「にゃーんじゃない!」


 フーニャはミカオに引き摺られるように連れて行かれた。


「ふぅ」


 レオは2人を見送ると体の力を抜いて天井を見上げる。

 ここに来るまで激動だった。


 ケモッ娘のためと動き続けて異世界に転生したことなど気にとめるような暇もなかった。


「これからどうするかな……」


 ひとまず今後のことを考える余裕ができた。

 レイラに言われていた通りケモッ娘の状況はかなり悪い。


 助け出してあげねばならない。

 奴隷からの解放が真っ先に浮かぶけれど解放した先にちゃんとした暮らしがあって初めてケモッ娘の為になる。


 解放して終わりとはいかないのだ。

 他にも能力のこともいくつかわかった。


 ケモッ娘をモフることによってモフポイントを回復しなければいけない。

 その代わりにレオの力は結構強力なようだ。


 しかしグレーシオと戦う時には多くのポイントを使ったのにそれでようやく互角だった。

 この世界にはもっと強い人もいるだろう。


 そんな人と戦うことになった時にはもっとモフポイントが必要となる。


「……考えることいっぱいだな」


 やらなきゃいけないことは多い。


「まずは体を休めよう」


 その前に体が痛い。

 レオは目をつぶった。


 フーニャに抱かれた感触を思い出しつつ幸せに浸るようにして眠りに落ちたのだった。

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