もう、ちょっとだけ大切な人2

 グイッと上半身を起こされて全身に痛みが走るけれど肉球のフニッと感を味わえるなら悪くない。

 そのまま少し支えてもらって自分でポーションを飲もうと思っていたのだけれど、何を思ったのかフーニャがベッドに乗ってレオの後ろに座り込んだ。


 足を広げて挟み込み、レオの上半身をフーニャの上半身にもたれかからせてしっかりと支えてくれたのだ。


『ケモッ娘フーニャをモフりました。

 同意のあるモフです。

 接触の多いモフりです。

 フーニャは嬉しそうにしています。

 得られるモフポイントが増加します。

 モフポイントが14回復しました』


 まるで後ろから抱きかかえるような体勢にレオの思考は完全に停止した。

 お風呂入ったのかな、いい匂いがするなんてことを思っていた。


 後頭部が非常に柔らかい。

 フーニャはレオよりも背が高い。


 もたれかかることになるとレオの頭はフーニャの胸に抱かれることになるのだ。

 毛的なもふもふ柔らかさもあるのだけど毛の中にはしっかりと女性的な柔らかさもある。


 至高。

 ケモッ娘に包まれて。


 ありがとう神様。

 生きていると思ったけどこんなことになるなんてもしかしたら死んでいるのかもしれないとまで思う。


「飲ませてあげて」


 レオの頭に顎を乗せるフーニャの声の振動が心地いい。

 少し手を下ろせばフーニャの太ももに触れてしまいそうで、レオは最後に残った変態紳士の精神力で手をわずかに上げて耐える。


「触っても……いいよ」


 死んだ。

 耳元で蠱惑的に囁かれてレオの中の紳士が死んだ。


「んっ……」


 上げていた手を下ろした。

 そのささやかな吐息を耳に聞きながらゆっくりとフーニャの太ももを撫でる。


 柔らかな毛。

 その奥にしなやかな筋肉を感じる。


 けれど固くもなくレオの手を優しく受け止めてくれる。

 やはりここは天国である。


『ケモッ娘フーニャの太ももをモフりました。

 同意のあるモフです。

 接触の少ないモフりです。

 フーニャは嬉しそうにしています。

 得られるモフポイントが増加します。

 モフポイントが10回復しました』


 この短時間で既に22モフポイントを回復した。


「ごろごろ……」


 フーニャが喉を鳴らしている。

 この音を聴いているだけでヒーリング効果を得られそうな気さえしてくる。


「ミ、ミファオ?」


 デレデレとしているレオの顎が掴まれた。


『ケモッ娘ミカオをモフりました。

 同意のあるモフです。

 接触の少ないモフりです。

 ミカオは怒っています。

 得られるモフポイントが減少します。

 モフポイントが1回復しました』


 柔らかな肉球の感触に顎が挟まれて結構幸せであるけれどミカオが怒っているらしい。


「私だって心配したんだからね!」


 ポーションの瓶の蓋を取ったミカオは歯をムキッとしてレオの口にポーションを突っ込んだ。

 何2人でイチャイチャしてるのだとお怒りなのである。


 ミカオだってレオのことは心配していた。

 フーニャに支えてもらって、ミカオが優しくポーションを飲ませてお礼を言われるなんてことちょっとだけ期待していた。


「グボっ……苦ぁ!」


 レオの口にポーションが流れ込んでくる。

 そのお味は苦かった。


 ポーションそのものの見た目も緑色で植物を感じさせる見た目をしているのだが味も色んな草をすり潰したような青臭さと苦味がある。


「フーニャァ!?」


 フーニャがレオの頭を押さえてポーションを喉の奥に流し込む。

 なんでこんな体勢を取ったのかようやく分かった。


「お母さん、昔お薬飲む時こうしてた」


 薬草そのままのお味の薬もこの世界には多い。

 子供は青臭さと苦味を嫌がることも珍しくはないので飲ませようとすると親は意外と苦労する。


 フーニャの母親のやり方は力技であった。

 優しくフーニャを呼んで膝の上に乗せて可愛がる。


 そして油断したところでガッチリと押さえ込んで薬を飲ませるのだ。

 別に子供でもないのだからそんなこそしなくてもいいのにとは思うけどフーニャのモフモフを堪能することができたから収支プラスである。


「ぷはぁ……」


 なんとかポーションを喉奥に流し込む。

 するとお腹が温かくなってくるような感覚がある。


 回復ポーションというのもちゃんと効果がありそうだと感心する。


「れ、レオ?」


 ポーションをこぼさないようにと口を押さえていたレオの手をミカオが取った。


「どうした?」


 ミカオの肉球の柔らかさにまたモフポイントが2回復する。


「助けてくれて…………ありがとう」


 きっと人間だったなら顔が真っ赤になっていたことだろう。

 ちょっと控えめに揺れる尻尾が代わりに感情を表している。


「多分レオが来てくれなかったら、レオが助けてくれなかったら私……ずっとあのままで、いつか殺されてたと思う。レオが来てくれたから……だから…………私も撫でていいよ」


 レオの手を自分の頬に持ってくるミカオ。


「ミカオ、おいで」


「う、うん」


 レオが優しく撫でながらミカオの顔を少し自分の方に寄せる。


「俺もミカオには感謝してるよ」


 ミカオはレオに助けられたけどレオもミカオに助けられた。

 スキンヘッドの男のところから逃げ出すのにミカオの協力は欠かせなかった。

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