もう、ちょっとだけ大切な人1

 夢を見た。

 モフモフのケモッ娘に囲まれてのんびりと暮らす夢。


 ケモッ娘たちは皆笑顔で、平穏に暮らしている。

 レオはその中心にいる。


 幸せで、守っていきたいと思った。


「うぅ……ここは……いてっ!」


 口を動かすと顔全体に痛みが走る。

 痛みで顔を歪めるとまた痛い。


 頭がぼんやりとしていてうまく頭が働かない。

 どうやら自分がベッドに寝かされているということは少しずつ理解できてきた。


「よう人間さん」


「ミカオ……?」


 レオは声が聞こえてきた方に頭を傾ける。

 今更気がついたけれど目もうまく開かない。


 黒い姿が見えてレオはミカオがいるのだと思ったけれどなんだか声が違うような気がする。


「残念。俺はミカオじゃない。俺の名前はクロウルだ」


「クロウル……?」


 よく見るとミカオとは違う。

 ミカオのマズルはやや太めでもっちりとして可愛らしさがあるのに対してクロウルと名乗るオオカミの獣人のマズルは細めでシュッとしている。


 レオは一瞬でもミカオと間違えた自分を恥じる。


「ミカオとフーニャは?」


「何よりもまずアイツらの心配か。ご立派なことだ」


 部屋の出入り口に寄りかかるようにして立っていたクロウルはレオが寝ているベッド横にある椅子に腰掛けた。


「2人は無事だ。フーニャとかいう獣人の方は多少殴られてはいるが少し休めば治る。丈夫な体してる。ミカオの方も怪我はない」


「よかった……」


「よかねぇさ。うちの妹あんなことに巻き込んどいていいことなんかないだろ?」


 クロウルは睨みつけるようにレオに顔を寄せる。

 凄んでいるつもりだったのだがレオはミミの毛柔らかそうだなってぼんやりと眺めている。


「妹? ということは……」


「そ、俺はミカオの兄だ」


「よろしくお願いします、義兄さん」


「誰が義兄さんだ!」


 そういえば解放軍の話を聞いた時にミカオがそんなことを話していたような、していなかったような気がするとレオは思った。


「本当に獣人に偏見がないんだな……」


 平然と受け答えをするレオを見てクロウルは目を細める。

 顔を寄せられても睨まれても雑な言葉遣いでもレオは嫌な顔一つしない。


「ミカオやフーニャを巻き込んで、守れなかったのは俺の責任だ……悪かった」


 レオはきっと町中で騒動を起こしたことでグレーシオに見つかったのだと考えた。

 もっと慎重に行動していれば追いかけられるようなこともなかったし、町中で顔を隠すとかすればよかったと反省している。


 それに戦いの時にもミカオやフーニャを守りきれなかった。

 グレーシオをなんとか倒したはいいけれどクロウルたちが駆けつけてくれなきゃ危ないところであった。


「チッ!」


 謝罪するレオにクロウルは舌打ちした。


「はぁ〜あ、聞いてた通りの馬鹿だな」


「な、なに?」


「お前のせいじゃない」


 すでにミカオとフーニャから話は聞いている。

 最初こそレオが巻き込んでしまったかのように言ったけれど話を聞けばそんなことないのは分かる。


 逆にミカオはレオに助けてもらったのである。

 この会話をミカオが聞いていたらなんてことを言うのかと怒るだろうなとクロウルは思う。


「人間だから信用できなくて……少し試すようなことを言った。悪かったよ」


「獣人が置かれて状況は知ってる。当然のことだから気にしないよ」


「んな風に言われるとこっちが悪いみたいじゃねえか。……これ飲めよ」


 クロウルは懐から小瓶を取り出すとレオの枕元に置いた。


「これは?」


「変なもんじゃねえよ。回復ポーションだ。飲めばそのボコボコの顔も少しはマシになるかもな」


 レオの顔は腫れてひどいことになっていた。

 散々グレーシオの拳を受けたのだから当然である。


 目が開きにくいのも口を動かすたびに顔が痛いのも全部顔面が腫れているせいであった。


「ミカオとフーニャを呼んでくる。あの2人お前のこと心配してたんだぜ」


 クロウルが立ち上がって部屋を出ていく。

 するとほとんど入れ替わりでミカオとフーニャが入ってくる。


「レオ!」


「ご主人様!」


「2人とも」


「心配したんだから!」


「うん、生きててよかった」


「……悪かったな。2人も無事でよかったよ」


 無事だと聞いていても実際に元気そうな姿を見ると安心する。


『パッシブスキル:ケモッ娘は元気の源が発動

 回復力が向上します』


 なんだから知らないけど2人の顔を見たら少し元気が出てきた気がする。


「これ、飲みたいんだけど少し手伝ってくれる?」


 いざ体を動かそうとすると顔とそんなに状態が変わらないことに気がついた。

 動かそうとすると鈍い痛みが走ってかなりキツかった。


 体を起こし、手を動かしてポーションを飲むだけでも簡単なことじゃない。

 体を起こしたりポーションを取ってもらったりということを手伝ってもらえればと思った。


「うん、いいよ」


「じゃあフーニャ、体起こしたげて」


「分かった。よいしょ」


「!!! フ、フーニャ!?」


 ミカオがポーションを手に取ってフーニャがレオの体を起こそうとしてくれた。

 フーニャの手がレオの体の下に差し込まれてフニュッとした肉球が背中に触れる。

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