たとえこの命かけてでも3

「お前には色々聞きたいことがある。ボスがお怒りなんでな!」


「んなもん知るかよ!」


 レオが拳を振りかぶり、グレーシオも同じく拳を振るう。

 同時に拳がそれぞれの顔に当たる。


 レオとグレーシオの体が衝撃で後ろに下がる。


「うおおっ!」


 先に持ち直して殴りかかったのはレオ。

 一瞬遅れてグレーシオも拳を出したけれどレオの方が早かった。


「なんだと……!」


 ダメージもあるのだが驚きも強かった。

 正直言ってレオは弱い。


 グレーシオの攻撃に全く対応できていなかったし、体つきも特に鍛えているようには見えない。

 余裕な相手だと思っていたのにいきなりレオが強くなった。


 一撃目の拳においてグレーシオは大きな驚きがあって動き出すのが遅れてしまった。

 レオにはもちろんケンカの経験もない。


 がむしゃらに拳を振るい、グレーシオの反撃をかわすこともしない。

 それでも最初に有利を取ったレオの手数の方が多く、立て直せなくなったグレーシオも足を止めて殴り合いに応じる。


「俺は! ケモッ娘を! 守るんだ!」


 レオの全力の拳がグレーシオの顔面に直撃した。


「ハァッ……ハァッ……」


「グ、グレーシオ様がやられた……」


 グレーシオが大の字になって地面に倒れて周りで見ていた男たちに動揺が走る。


「次は……誰だ!」


 肩で息をしながらレオが男たちを睨みつけると目を逸らしながら一歩下がる。

 男たちの中でグレーシオは頭1つ以上抜きんでた実力者だった。


 そんなグレーシオが倒されたのだから男たちにも迷いが生じていた。

 けれどレオの方も限界だった。


 気を張って保っていなければ倒れてしまう手前の状態で、もう拳を振り上げることすらできそうになかった。

 男たちの顔もボヤけたように見えていてレオの鬼気迫る表情は必死に倒れそうなのを耐えている顔なのだ。


「……何をしている。相手も限界のはずだ! 全員でかかれ!」


 どうやってここから抜け出すか。

 レオが知恵を絞り出そうとしているとグレーシオが体を起こした。


 すぐに戦えるような状態ではないが完全にやられてもなかった。

 グレーシオに叱責されて男たちが武器を構える。


 絶体絶命のピンチ。

 どうにかミカオとフーニャだけでもとレオは力を振り絞って拳を持ち上げた。


「ぐわっ!」


 その時悲鳴が上がった。

 レオたちではない。


 男たちの方からで、その場にいた全員が悲鳴の方を見た。


「獣人……?」


 剣を振り下ろした獣人と後ろから切られて倒れた人間の男。

 他にも武器を持った獣人が何人もいた。


「お兄ちゃん!」


「ようミカオ! 家出娘が元気そうだな!」


 男を切り倒していたのはミカオと同じ黒い毛のオオカミの獣人の男性であった。


「やれ! 仲間を助けるんだ!」


「じゅ、獣人の反乱だ!」


 獣人たちが一斉に男たちに襲いかかる。

 ミカオの兄は男たちを切り裂きながら走り抜けてミカオの前までやってきた。


「掲示板読んだぜ。いないから何事かと思ったら結局何事だ?」


「お兄ちゃん……ごめんなさい!」


 少し潤んだような瞳でミカオは兄を見上げる。


「ふっ、お前が無事ならいいってことよ。話は周りを片付けてからだ」


 ミカオの兄は優しい目をしてニッと笑うと男たちに襲いかかり始めた。

 本来なら奴隷の首輪がつけられていて暴れるはずのない獣人が襲いかかってくるという状況に男たちは混乱していた。


「おらぁ! そこ、後ろ気をつけろ!」


 ミカオの兄は強くて男たちをバッタバッタと切り倒しながら周りに気を配り指示を出している。

 グレーシオというリーダーを失っている男たちはまとまることもなく数的にも不利なはずの獣人たちに倒されていく。

 

「ご主人様!」


「……レオ!?」


 なんだか分からないけど状況が変わった。

 獣人ならきっとミカオとフーニャの味方に違いない。


 安心したら一気に体の力が抜けた。

 支えもなく地面にドサリとレオが倒れてフーニャとミカオが慌てて駆け寄る。


「ご主人様、ご主人様!」


「レ、レオ! あとちょっとだから!」


 レオには遠くで2人の声が聞こえた気がしていた。

 2人が無事ならそれでいい。


 レオはそのまま気を失ったのであった。

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