たとえこの命かけてでも2

 レオたちは一目散に逃げ出した。


「追いかけて捕まえろ!」


 ここで捕まるのはマズイ。

 スキンヘッドの男のお金も盗んで散々使ってきた。


 返せるわけもないので多分許してもらえないだろうなとレオは思う。


「げっ!? 増えてる!」


 追いかけてくる男たちがグレーシオを筆頭に最初よりも多くなっていた。

 男たちはどいつも必死の形相で追いかけてきていて、引き離すことができない。


「くっ!」


『モフポイントを1使い、身体能力を強化します』


 足が疲れてきた。

 モフポイントを使って体を強化してなんとか持ち直す。


 けれどこのままではいつか捕まってしまう。


「ミカオ、フーニャ」


「なに?」


「どうしたの?」


「逃げろ。逃げて、解放軍と合流するんだ」


「何を……レオ!?」


「行け! ここは俺に任せろ!」


 たとえ相手に悪い理由があろうとも獣人が通報されたらただでは済まない。

 対してレオは人間だ。


 なんとかこの場を乗り切って逮捕されてもなんとかなるかもしれない。

 そもそもこの状況をなんとかできるかは分からないけれどなんとかできた場合にレオの方が無事でいられる可能性がある。


 ミカオとフーニャはここまで一緒に旅をしてきた仲間である。


「絶対に守る……何があっても!」


 今あるモフポイントは22。

 2人の協力のおかげで使いながらも少しずつ溜めてきた。


 ここで使う。


『モフポイントを6使い、肉球ファイヤーを発動します』


「な、なんだあれ!?」


「俺はケモッ娘以外には容赦しない!」


 レオの赤い魔力が集まって大きな炎の肉球が生み出される。

 追いかけてくる男たちが急ブレーキをかけるがもう遅い。


 投げつけるようにして肉球ファイヤーを飛ばす。


「避けろー!」


 大爆発。

 レオの頬を熱波が撫でていくほどに肉球ファイヤーは盛大に爆発して男たちを吹き飛ばした。


「2人とも今のうちに逃げ……」


「お話が足りなかったようだな」


 意外と倒せるかもしれない。

 そんな風に思っていたレオの目の前にグレーシオが迫っていた。


「ご主人様!」


 グレーシオの拳がレオの顔面に突き刺さり、レオが体が意思とは関係なく後ろに転がっていく。


「新しく獣人の奴隷を買ったのか? ……訳が分からない行動をする。だから見つけられなかったのかもしれないな」


 グレーシオはレオの痕跡を追った。

 獣人が暴れたという町で話を聞いた結果レオとミカオが犯人だろうと半ば確信していた。


 その町を中心としてレオの足取りを探し始め、ドーケの町まで追いかけてきたのである。

 獣人の奴隷を2人も連れて旅をしていれば嫌でも目立つ。


 人を多く使って情報を集めてみればこれまで見つからなかったことが嘘のように追いかけることができた。


「ダメ」


「なんだ……人間を守るのか? 珍しい獣人だな」


 地面に倒れるレオに近づくグレーシオの前にフーニャが立ちはだかった。

 まさかレオを守ろうとするだなんて予想外で驚いたけれど逃げないのなら都合がいいだけである。


「レオ! 起きて!」


 ミカオがレオの体を揺する。

 身体強化もしていない状態でモロに一発くらってしまったレオの意識は混濁していた。


 レオの魔法から逃れた男たちがレオたちのことを取り囲む。

 もう逃げることすら難しくなった。


「くっ……!」


 ミカオは剣を抜いて男たちを睨みつける。


「おー、健気だな」


「だがこの人数を相手にするつもりか?」


「うるさい! 近づかないで!」


 ミカオの剣を持つ手は震えていた。

 怖い。


 ミカオはそんなに戦いの経験が豊富な方ではなかった。

 きっと痛めつけられてしまうということも分かっているので怖くてたまらないのである。


「うっ!」


「フーニャ!」


 それでもレオを守るようにしているミカオの横にフーニャが転がってきた。


「大丈夫!?」


「……強い」


「チッ……アホみたいな力してやがるな、このクソ猫」


 グレーシオの左腕が赤黒くなっている。

 フーニャの攻撃を不用意に左腕で受けて手痛いダメージを負っていた。


 しかしフーニャよりもグレーシオの方が強くてフーニャは殴り飛ばされて転がったのだった。


「ぶっ殺してやる。いや、生きたまま魔物の餌にしてやるよ」


「レオ……! お願い、目を覚まして!」


 ケモッ娘が 助けを呼んでる 声がする。


『パッシブスキル:ケモッ娘ヒーローが発動

 身体能力が向上します』


『パッシブスキル:不屈のケモッ娘魂が発動

 ケモッ娘のために立ち上がる意思と力が宿ります』


 なんかスキルは適当につけておくね。

 そうレイラには言われた。


 どんなスキルが欲しいと聞かれてもレオが困るだろうからとレイラの方で色々とスキルなるものを付与してくれた。

 どんなものがあるのかは時間切れで聞けなかった。


『モフポイントを15使い、身体能力を強化します』


「ミカオとフーニャを傷つけるな……」


 殴られたところが腫れ、流れる鼻血が呼吸を妨げる。

 頭がクラクラするし、グレーシオに勝てるような気はしない。


 でも立たなきゃいけない。

 男たちは2人を傷つけようとしている。


 それは許せない。


「レオ……」


「ご主人様……」


「俺が相手だ……ミカオとフーニャに手を出させない。手を出すなら俺を倒してからにしろ!」


 レオはグレーシオを睨みつける。

 まだ戦える。

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