たとえこの命かけてでも1

 朝はフーニャ、夜はミカオ。

 レオの魔法が強い武器になることも分かったし、そのためにモフらなきゃいけないことも分かった。


 レオが戦うためにはミカオとフーニャの助けが必要。

 ということでミカオとフーニャで話し合って朝はフーニャをモフり、夜はミカオをモフってもいいという取り決めがなされた。


 嬉しくて嬉しくてレオは泣きそうだった。

 軽く撫でると一回で大体3モフポイントが回復する。


 多少増減したりして振り幅はあるみたいだけど1日当たり6モフポイントを確保することができるようになった。

 時々フーニャが顎もいいよとか言ってくれるのでそうするともっとモフポイントが増えた。


 だが頭を撫でていいということがスタンダードになると余計な欲が出てきてしまう。

 レオは日々悶々と己の邪念モフと戦っていたのであった。


 そうこうしてモフを堪能しながら旅を続けてドーケの町までたどり着いた。


「意外と大きな町だな。それに……」


「獣人の奴隷、多いでしょ?」


 ミカオは少し複雑そうな表情を浮かべて肩をすくめた。

 ここまでの町ではあまり獣人の奴隷というものを見なかった。


 時々人が引き連れていることはあったけれど何回か目撃した程度ぐらいである。

 それに対してドーケでは首輪をつけた獣人の奴隷が町中を歩いている。


 人が連れている獣人の奴隷もいれば1人で歩いている人もいた。

 場所が変われば環境も違う。


 ドーケにおいては獣人の奴隷を連れていることに関してあまり冷たい視線を送る人はいない。

 だから解放軍の支部もある。


「私たちみたいに奴隷に偽装して解放軍の人も活動できるんだ」


 人の町で首輪をつけて奴隷だと偽装するのはミカオがゼロから考えたものではない。

 このように奴隷に扮する方法があると知っていたからレオにそうした方がいいと提案したのであった。


「むむむ……」


 ケモッ娘らしき奴隷もいる。

 できるなら全員助けていきたいところであるがレオにそんな力はない。


 心の中でゴメンと謝りながら奴隷にされているケモッ娘の横を通り過ぎる。


「早く行くよ!」


 奴隷に扮しているとはいってもバレないとは限らない。

 ミカオの案内で解放軍の支部となっている建物に向かう。


『売り家

 連絡はシュダム不動産まで!』


「えっ……うそ……」


 解放軍の支部のはずだった建物は売りに出されていた。

 玄関のドアには売り家の看板がかけられていて、窓は侵入防止だろうか板が打ち付けてある。


 どう見ても人が使っている建物には見えない。


「ミカオ?」


「うぅ……多分場所変えたんだと思う……」


 解放軍は定期的に支部の場所を変える。

 長く同じ場所に留まればバレるリスクは高まるし周りに顔が覚えられてもやりにくくなるからだ。


 ミカオが捕われてから多少の時間も経っている。

 疑われたなどの外的要因から場所を変えることもあるのでどこか別の場所に拠点を移してしまったようだ。


「何か連絡方法はないのか?」


「……あ、あるよ!」


 支部が移っていたからといって諦めるにはまだ早い。

 こうした時のために解放軍と連絡を取る手段もあった。


 この世界に携帯電話なんて便利なものはない。

 直接会って話すか、手紙を送ったりメモでも残しておくぐらいしか意思疎通の方法がない。


 ただどうしても時間的に会えない場合や互いに外に出ていて待ち合わせしたいなんて時もある。

 そんな時に使われるのが広場にある掲示板であった。


 いわゆる黒板のようなものが町の広場にはあってそこにメッセージを書き込むことができる。

 ミカオが掲示板近くに置いてある箱の中から白い石を取り出して空いているところに解放軍に向けたメッセージを書く。


 解放軍なんてことを書けばモロバレなのでバレないように自由を愛する遠吠えが上手なあなたへとまるで恋人にでも送るようにごまかして書いている。


「これでよしと!」


 同じような広場は三つあるのでそれぞれにメッセージを残した。

 最初に掲示板にメッセージを残した広場で待っているということを書いたのでメッセージを見たら来てくれるはずである。


 ひとまずその日は宿を探し、少しだけ掲示板から離れて広場の様子を見て終わりにした。


 ーーーーー


 日課のフーニャモフモフを終えて掲示板のある広場に向かった。

 ケモッ娘を撫でた後はもう一生手を洗わないぞぐらいに思うのだけど汚い手でケモッ娘を触るわけにはいかないので結局洗うことになる。


「なかなか忙しいのかな……」


 焦っちゃいけない。

 それは分かっていてもどうしても早く解放軍と接触したいと思う。


 掲示板も大きいしメッセージを見つけるのも楽なことじゃないかもしれない。


「そろそろお昼でも……」


「あいつだ!」


 日が高く昇ってきた。

 お腹も空いてきたのでお昼ご飯を食べるお店でも探しに行こうと思ったらレオを指差して叫ぶ男がいた。


「……あいつは!」


 レオを指差す男の隣に忌々しい顔がいた。

 スキンヘッドの男に捕われた時にレオと無理矢理拳での会話を試みてきたグレーシオであった。


「レオ!」


「逃げるぞ!」


 町中で戦って通報されたことがある。

 ここは逃げるしかない。

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