ゆでダコ、激オコ

「クソッ、クソッ、クソッ、クソッ!」


 スキンヘッドの男が部下の男を激しく蹴りつけている。

 止める者はいない。


 止めたら次は自分が殴られるから。


「ミカオとあのクソ男はどこ行った! なんで見つけられない!」


 なぜ部下の男が蹴り飛ばされているのかというとレオとミカオを見つけられないから。

 レオたちが逃げてからスキンヘッドの男は部下たちを動員してミカオたちを探させていた。


 しかしレオたちも目立った行動をしなかったために全く見つけられないでいたのだ。

 そもそもスキンヘッドの男たちが帰ってきたのが少し遅かったことも原因である。


 今回はたまたま一番初めに報告した部下の男がなんの手がかりも得られなかったと言ったことでスキンヘッドの男の逆鱗に触れたのだ。

 一番初めに報告させられることになった不幸である。


「クソみたいな獣人1人なんで見つけられない!」


 スキンヘッドの男はテーブルの上に置いてあった酒瓶を投げつけた。


「どこ行きやがった……見つけたら切り刻んで魔物に食わせてやる!」


 壁際に並んでいる他の部下たちもスキンヘッドの男に報告できるような話は持っていない。

 飛び散った酒がかかっても嵐が過ぎ去ることをひたすらに耐えるしかないのである。


 誰も何も言わないことに結果を察したスキンヘッドの男が充血した目で部下たちを睨みつける。


「ボス! 失礼します!」


「なんだ! 俺は機嫌が悪いんだ! くだらない話だったらぶっ殺すぞ!」


 ただただ重たい空気の中で別の部下の男が部屋の中に入ってきた。


「シュテルトの町で獣人が暴れたそうです」


「あぁ?」


「奴隷獣人とその飼い主のようで黒い犬のような獣人だそうです」


「なんだと! それは本当か!」


「ほ、本当です!」


 血走った目を向けられて部下の男はたじろぐ。


「早く人を向かわせろ! お前らもボサっとしてないで行ってこい!」


「は、はい!」


 スキンヘッドの男に怒鳴られて部下たちが部屋を慌てて出ていく。


「グレーシオ」


「はい」


「お前も行ってこい。あいつらだけじゃ不安だ」


「分かりました」


 スキンヘッドの男の後ろに控えていたグレーシオも命令を受けて、ついでに床に倒れる部下の男を引っ掴んで出ていった。


「……荒れているな」


「いつの間に入ってきやがった、メルビ」


 いつの間にか部屋の隅に男が立っていた。

 無精髭にボサボサとした髪の中年の男性は部下の男たちのようにスキンヘッドの男に怯えた様子はない。


「お前が荒れていると聞いてな。計画に支障はないか確かめにきた」


「……なんの問題もない」


「だといいがな」


「計画に問題はないと言っているだろ!」


「ふっ、そうか」


 スキンヘッドの男が顔を真っ赤にして怒り顔を向けるけれどメルビは軽く鼻で笑う。


「あまり派手に動いて勘付かれるなよ。動き出す時は近いのだからな」


「分かっている……」


「汚らわしい獣人をこの国から消し去るんだ」


 メルビは感情のない冷たい目で腰に差した剣の柄を触る。


「そっちこそしくじるなよ」


「誰にものを言っている? たかが奴隷商人風情が」


「くっ……」


 メルビに殺気を向けられてスキンヘッドの男は視線を逸らした。


「……まあいい。計画に支障がないのなら何をしていても構わない」


 メルビは酒瓶を一つ掴むと深いため息をついて部屋を出て行った。


「チッ……クソ野郎。誰が金出してやってると思ってんだ」


 スキンヘッドの男はドカリと椅子に座った。

 怒って頭に血が上りすぎて少し気分が悪い。


「あいつ良いやつ持っていきやがった……」


 気分を落ち着けよう。

 そう思ってスキンヘッドの男は新しい酒を開けて一気にあおったのだった。

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