揺れる尻尾と乙女心

「つんつん」


「んん……」


「交代」


 夜遅く、フーニャはミカオの頬を肉球のついた指先でつついた。

 寝ていたミカオは眠そうに目をこすりながら起き上がる。


 夜の番は交代交代で行う。

 2人だと大変だったけど3人で順番に回すと少し楽になった。


「なに? もう起きてるよ?」


 いつもならすぐに寝てしまうフーニャがじっとミカオを見つめていた。


「ご主人様のこと」


「……異世界人だってね」


「うん、驚いた」


「それだけ? 怖いとか変だとか思わなかった?」


 ミカオは少し小さくなった焚き火に枯れ枝を投げ入れる。


「変……だとはいつも思う。でも怖いとは思わない。ミカオは?」


「私も……怖いとは思わないかな。変態だと思うけど」


 レオが異世界人だと聞いて驚きはした。

 けれどあんまりそんな実感もなかった。


 これまで一緒に旅をしてきた時間は決して長くないけれどレオは普通の人と変わらない。

 獣人が好きっていう性格的なところは他の人と異なっているがそれ以外においてレオはただの人なのだ。


「正直別に異世界人でもなんでもいいかな」


 ミカオのことを認めてくれて、仲間といって、綺麗可愛いと褒めてくれて、撫でてくれる。

 異世界人でもなんでもいい。


 レオがレオならそれでいい。


「私も。なんだか不思議」


 同じ獣人だって一緒にいなくてもいいと思っていたのに今は人間のレオと一緒にいたいと思う。


「ミカオは解放軍と一緒に行くの?」


「え、えっと、それは……」


 最初はそうするつもりだった。

 助けてくれたしその恩を返して、また解放軍に戻る。


 今の関係は一時的な協力関係。

 そう思っていたのにフーニャに聞かれてミカオは答えに困ってしまった。


 お別れだと言えない。


「……まだ、分かんない、かな」


 最近自分がおかしいとミカオは思う。

 もっとレオにモフモフしてもらいたいと思ったり、モフられるフーニャを見て胸がちくりと痛くなる。


 すごい変態で人間なのにどこかで一緒にいたいと思ってしまうのだ。


「オオカミは群れるから……」


 きっと本能で仲間と一緒にいたいからレオと一緒にいたいと思っているのだとミカオは自分に言い聞かせる。

 レオじゃなくても仲間の獣人に会えばきっとこの気持ちは薄れていくだろうと思う。


「フーニャこそ、レオなんかでいいの?」


「うん。私はご主人様のこと好きだよ。まだまだ知らないことたくさんあるからこれから知っていきたい」


「むー……悪い男に騙されてない?」


「レオが悪い男ならそれでもいいかな」


「私は知らないよ?」


「いいの。ご主人様は私を必要としてくれるから。私もご主人様を信じる」


「そう……もう寝たら? 明日も移動だから」


「うん、そうする」


 フーニャが丸くなって目を閉じる。


「……おじいちゃん、私どうしたらいいかな?」


 ミカオも膝を顔に寄せてポツリとつぶやいた。

 お転婆娘だったミカオはやりたいことも見つからず兄についていくように解放軍に入った。


 解放軍に戻れば仲間はいるけれど本当にいたい場所なのかわからなくなってきた。


「一緒にいたいって言ったら……」


 こんな風に旅したりする。

 レオと一緒に。


 なぜかそれだけで尻尾がパタパタと動いてしまう。


「まあ、とりあえずレオと安全なところに行こう。それから決めても遅くない……よね?」

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