どうも異世界人です2

『モフポイントを2使い、ウィンド尻尾カッターを発動します』


 使える属性だけでなく使える魔法も増やしておく。

 肉球が爆発系だとすると尻尾カッターは斬撃系。


 剣で倒すのに苦労したゴブリンも尻尾カッターならスパッと両断できてしまう。

 魔法の形もなんだかちょっと犬の尻尾のようである。


 やはり他の魔法も強力なのでレオの適性を考えると魔法を重視した方が賢いやり方かもしれない。


「にしてもレオって不思議だよね?」


「まあ多少ミステリアスな雰囲気があることは否めない……」


「そういうことじゃなくて。なんていうか……何も知らないのに魔法は使える。けど、魔法も使えるのに知らない、みたいな変な感じ」


 そもそも獣人に対して偏見がないところからちょっとおかしい。

 いい年齢で良識はあるのだけど変なところで常識がない。


 奴隷の首輪を破壊してしまうほどの魔法が使えるのに今も魔法について手探りで覚えていっている。

 しかも魔法使いなら剣なんて使わないのにレオは剣も使おうとしている。


 行動がチグハグなのだ。

 一部の常識だけ丸っと忘れてしまったかのような奇妙さをミカオは感じていたのである。


「そういえば……俺のことは説明してなかったな。俺は異世界から来たんだ」


 別に隠していたわけじゃない。

 言うタイミングがなかったし聞かれなかったから言わなかったぐらいのもの。


 ミカオとフーニャがレオのことを言って回るとは思えないし伝えてもいいかとサラリと異世界人なことを伝えた。


「……どうした、2人とも?」


「い、異世界人!?」


「サラッと言った」


「2人には隠し事しないよ」


「そーいうことじゃなくてぇ! もっとなんか雰囲気のある時に雰囲気出して言うことでしょう!」


 レオが異世界人であるということは驚きだった。

 それをサラッと言っちゃうことにもミカオとフーニャは驚いた。


「……異世界から来たってなんも変わらないからな」


「そんなこと……」


「異世界人だと何か変わるか?」


 レオは立ち止まった2人の方を振り返る。


「俺は俺。ミカオはミカオ。フーニャはフーニャ。獣人だろうと異世界人だろうと関係ないだろ?」


「……そんなもんかな?」


「ただもうちょっと詳しい話はちゃんとするよ。日も暮れてきたし夜の準備してからね」


 獣人だろうと異世界人だろうと時間は平等に流れる。

 周りは薄暗くなってきたので野営の準備をすることにした。


 近くに森があったので枯れ枝を拾ってきて夜に焚いておけるように備えておく。


「……じゃあレオは獣人の神様がこの世界に送ってくれたの?」


「ああ、そうなんだ」


 信頼を得るには自分についても話さねばならない。

 レオはレイラによってこの世界に転生させてもらったことや獣人たちを守ってほしいとお願いされたことを説明した。


「じゃあ神様にお願いされたから助けてくれるの?」


「お願いされたからってこともあるけど……俺は獣人に救われたことがあるんだ」


 レオも最初からケモッ娘が好きだったわけではない。

 ひどく気分が沈んでどうしようもなかった時にたまたまケモッ娘の薄い本を見つけた。


 不思議な生き物を描くものだと思ったのだけど動物と人間の特徴を併せ持ち、そのモフモフで包み込むような姿を見て妙な興奮を覚えた。

 そこからケモッ娘というものについて調べたり、色々と本なんかを買い漁った。


 熱中できるものがレオの心を支えてくれた。

 ケモッ娘と出会ったことでレオは救われたのだ。

 

 イラストではあったけれどケモッ娘に救われたことは間違いないのである。


「だから俺はけも……獣人が好きで、獣人を助けたいと思ったんだ。だから多分神様に言われなくても今の獣人たちの状況を知ったら俺は助けようとしたと思う」


 ケモッ娘に救われた恩がある。

 だからレオはケモッ娘が好きなのだしケモッ娘を助けたいと思う。


 変態的で歪んでると思う人もいるかもしれない。

 けれどそれでもいいのだとレオは真っ直ぐにミカオとフーニャに視線を向けた。


「なんでもいいと思うよ」


 フーニャは笑顔を浮かべた。

 レオはレオ。


 フーニャはフーニャ。

 レオが獣人を助けたいと思っていることが本当だとフーニャは本能的に感じていた。


 ならそれでいいのだ。

 きっかけやレオが異世界人であることなんか関係ない。


 今レオがどうしているか、これからどうしようとしているかが大事なのである。


「うん、まあ私もレオだしいいと思うよ」


 異世界人だから変に常識がないのかと納得できた。

 レオが異世界人だからと別に他の人と変わったところがあるわけではないので複雑なことはどうでもいい。


 むしろ本当に偏見がなく獣人を好意的に見てくれる人なのだと分かってミカオは嬉しく思ったぐらいだった。


「……2人ともありがとう」


 内心不安なところはあった。

 異世界人だと話した時にどんなリアクションをされるのか分からないからだ。


 でも2人は案外あっさりとレオの話を受け入れてくれた。


「……ご主人様は獣人を助けたら元の世界に帰ったりするの?」


「へっ?」


 髪の隙間から少し不安げなフーニャの瞳が見えた。


「いや、俺は帰らないよ? この世界で獣人と一緒に生きてくんだ」


 仮に帰そうとしたって帰ってやるもんかとレオは思う。


「じゃあずっと一緒?」


「フーニャが望むならそれでもいいかもな」


「ふふ、ならよかった……」


 フーニャが望むのならレオは一緒にいるつもりだ。

 むしろレオの望むところである。


「異世界かぁ……それってどんなところ?」


「俺の世界の話か? 俺の世界はな……」


 レオは少しだけ自分の元いた世界の話を2人にして、夜はふけていったのだった。

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