変態が故に1

 実際に通報されたのかは定かではない。

 しかし何かを探しているような人たちが町中を走り回っていた。


 レオたちは上手くそうした人たちをかわして町を脱出した。


「ふう……なかなか難しいな」


 町を抜け出したレオたちは町を離れるまで移動した。

 完全に日が暮れて暗くなっていたので寝るために火を焚いて簡単な食事を摂っていた。


 この世界で生きる上での常識は難しいとレオは焚き火を見つめながらため息をつく。

 お金持ちと見られてしまう行動によってトラブルに巻き込まれてしまった。


 よそ者に対してある程度物の値段をふっかけてくるということはありがちで多少交渉して少なくとも適正な価格まで持っていって購入すべきだった。

 それをしないで普通に買ってしまうなんてことをしていたから世間知らずのお金持ちだと見られてお金を強盗されかけたのである。


 奴隷という文化もあるしこれまでレオが暮らしてきた世界とは常識が違う。

 今いる世界の常識に合った行動をしなければ問題が起こってしまうこともあるとレオは学んだ。


「慌ただしくてすまないな」


「ん、だいじょぶ」


「元々のんびりした旅でもないしね」


 フーニャを仲間としてから急ぎ足でここまで色々と動いてきたけれどようやく一息つける。


「フーニャ」


「なぁに?」


「本当に俺と一緒に来るのか?」


 改めてフーニャに聞く。

 一緒に来ると言われた最初は嬉しくてそのまま話を流してしまったけれど、まだまだフーニャとの間に知らないことは多く、ついていくと言えるほどの関係性もない。


 解放軍に接触してから決めてもよかっただろう。

 なぜそんなことをもうすでに決めたのか気になっていた。


「……私行くところがない」


「行くところが?」


「私の村は人間に滅ぼされた」


「あっ……」


「それで捕まって……逃げようとしたけどダメだった」


「……ごめん、辛いこと思い出させて」


「いいの」


 フーニャは膝を抱えて小さくなるようにして焚き火の前に座っている。

 声も淡々としていて前髪で目が覆われているのでなかなか感情が分かりにくい。


「でも別に村がなくなったことはどうでもいい」


 フーニャは目をつぶって村にいた時のことを思い出す。

 体が大きくて力も強いからとフーニャは村の中で浮いた存在だった。


 友達はいなくて、疎まれるような存在だった。

 同じ猫系の村だったけれどフーニャの母親は別からきた個体でその娘であるフーニャも周りと少し違う猫種だったのだ。


 母親が生きていればよかったのだけどフーニャが小さい頃に亡くなってしまっていた。

 すでに生まれて村に連れられたフーニャには父親もいない。


 ある時人間たちが獣人を滅ぼそうと攻めてきた。

 フーニャも一応戦ったのだけどなんだか村を守る気も起きなくて大人しく捕まることにした。


 それでも一度は奴隷が嫌で逃げ出そうとして商人を1人殺したが逃げられなかった。


「でも誰も私を買わない……」


 言葉少なにフーニャは説明を続ける。

 結局奴隷として売られることになったフーニャだったけれど人気がなかった。


 そもそも獣人の奴隷は人気が低い。

 レオの目ではフーニャは魅力たっぷりであるが一般的なこの世界の人から見るとフーニャはただデカくて可愛げもないように見えるのである。


 実際のところズクウロヤもフーニャしか奴隷がいないのではなく売れない奴隷を押し付けるつもりでフーニャを連れてきたのだった。


「ご主人様は私を買ってくれた。そして奴隷から解放してくれて……可愛いって言ってくれた」


 売れ残る奴隷がどうなるか。

 フーニャは考えたくもないと思う。


 そんなフーニャをレオはサラッと買ってくれただけじゃなく色々と褒めてまでくれた。

 その上撫でたい、匂いを嗅ぎたいなんでことまで言われて、最初は嫌だったけど今は悪くないと思う。


 レオが戦うために必要だからという側面はある。

 でもちゃんと心から求めてくれているというのが伝わっていた。


「あと……撫でられると…………嬉しい」


 フーニャは顔を膝にうずめて小さく呟いた。

 レオに撫でられるとなぜか気持ちよくて、心地よくて、心が嬉しくなる。


 小さかった頃に母親に頭を撫でられたことを思い出す。

 もっとレオと一緒にいたいと思ってしまうのだ。


 だからレオについていくと決めた。

 レオも自由にしろと言ったので一緒に行くと言ってもいいはずだと思った。


 ご主人様と呼んでいるのはお世話になるのだし、レオが喜びそうだったから。


「こんな私だけど……一緒に行ってもいい?」


「こんな、じゃないさ」


「えっ?」


「フーニャは可愛いし強いし、すごいモフモフだし俺は好きだよ」


「ご主人様……」


「むしろ俺が思うぐらいさ、俺と一緒に来てくれていいのかなって…………フーニャ?」


 フーニャはすすすっとレオの横に寄ってきた。

 そしてレオにしなだれかかる。


 大きいフーニャ。

 同じく座るレオに寄りかかるようにするとフーニャの頭がレオの上に乗っかるようになる。


「一緒に行ってもいい。撫でてもいいよ」


 モッフリとしたフーニャの毛がレオの右側に当たる


『ケモッ娘フーニャをモフりました。

 モフポイントが3回復しました』


 モフと接触するだけでもモフポイントが回復する。

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