狼も猫もつおいです2

 奴隷を2人も連れ、ろくに値引きもしないで物を買っていく。

 お金持ちだろうと目をつけられてしまったのである。


「無事にここを通りたきゃ金払いな」


 なんとも無理矢理な脅迫。

 別に肩が当たるとかそんな安っぽい理由づけを求めはしないけれど、いきなり道を塞いでいきなり金寄越せというのもどうなのか。


「金払わないって言うのなら分かるよなぁ?」


 柄の悪い男たちが脅すように武器をちらつかせる。


「ミカオ、フーニャ、いけそうか?」


 人の金だしいくらか払ってしまってもいい。

 しかし急にこんな風に脅されてお金を払うのはレオも納得できない。


 相手の数は10人。


「いけるよ」


「まあ、倒せる……かな?」


 2人はレオが戦うつもりなら戦う気がある。


「……どっちか少し吸わせてくれないか?」


「えっ? それは……」


「いいよ。お腹?」


「いや、首元とかでいいよ」


 さも当然のように変態的な要求をしたレオであるがちゃんと意味はある。

 少し前の鯖折り未遂事件のおかげでレオのモフポイントはすっからかんだった。


 回復しておかねばレオは戦えないのである。

 緊急事態だから吸わせてくれるだろうという打算的な考えだけで要求したのではないのだ!


 欲望に忠実になればフーニャのお腹を吸いたい。

 しかし紳士たるレオはこんなところでお腹を吸いはしない。


 他のやつにフーニャの可愛いお腹を見せてやる必要もないのだ。


「スゥーーーーッ!」


『ケモッ娘フーニャの首をモフりました。

 モフポイントが6回復しました』


 フーニャが少し屈んでレオが首元に顔をうずめる。

 柔らかなフーニャの毛に顔面が包まれて幸せが脳天をつく。


 そして胸いっぱいにフーニャの匂いを吸い込む。

 しばらく奴隷だったためかややワイルドな香りのするフーニャだがそれもまたレオは好きである。


 モフポイントがいくらか回復して体が少し軽くなったように感じる。


「な、なんなんだあいつ……」


 柄の悪い男たちはいきなり始まったレオのモフりにドン引きしていた。


「それじゃあ……2人の力見せてくれよ」


「うん」


「……分かった」


 なぜかやや拗ねたような態度でミカオは返事する。

 もっとお願いされれば自分だって吸わせてあげたのにっていう思いだった。


「レオにいいとこ見せる」


「なっ……ぎゃっ!」


 なんの前触れもなかった。

 フーニャはメイスを手に取っていきなり走り出すと一番近いところにいた男の頭を横殴りにした。


 なんの躊躇いもなく振られた一撃は人を軽いものかのようにぶっ飛ばした。


「わ、私も負けない!」


 柄の悪い男たちがハッとして動き出すまでにフーニャはさらに2人を殴り倒していた。

 ミカオも少し遅れて柄の悪い男たちにかかっていく。


「このクソ獣人が!」


「ふっ、やあっ!」


「グッ!」


 ミカオは突き出された剣を盾で防ぐと逆に男の胸を突いた。

 2人ともかなり動きがいい。


 かなり人数差があるので心配していたけれど全く問題がなさそうである。


「奴隷の主人を殺してしまえ!」


 男の1人がレオの方に走ってきた。


『モフポイントを3使い、身体能力を強化します』


 魔法というものもなんとなくだけど理解ができてきた。

 発動させるのにモフポイントを使い、魔法ごとに必要最低限のモフポイントがある。


 そこからレオが意識することによってモフポイントを追加して魔法を強化することができるのだ。

 まだ比較が足りなくてどれぐらいの威力があれば通常なのかは分からないけれど肉球ファイヤーの威力を考えた時レオの力は強い方なのかもしれない。


 振り下ろされた剣をレオが防ぐ。

 ケモッ娘をモフることによってモフポイントを得られ、それによって魔法を使うことができるという力を与えられはしたけれど、レオは転生する前もただの一般人であった。


 剣で戦ったことも当然ないのである。

 身体能力の強化でなんとか対応する。


 相手の男もそれほど熟練者というわけでもなさそうで助かった。


「ゴミみたいな獣人の奴隷を連れているクソ野郎がよ!」


「なんだと!」


 レオは自分のことを言われても特に何も思わない。

 けれどケモッ娘のことを、ミカオとフーニャのことを馬鹿にされるのは許せない。


『モフポイントを2使い、肉球ファイヤーを発動します』


「なっ!?」


「ケモッ娘を馬鹿にするな!」


 レオが魔法である肉球ファイヤーを発動させる。

 試したところ抑えてみると身体強化は1から、肉球ファイヤーは2から使える。


 レオから赤い魔力が発せられて炎に代わって肉球の形を成す。

 投げつけるように肉球ファイヤーを勢いよく男に向かって飛ばす。


「うわぁっ!」


 男に肉球ファイヤーが当たってぶっ飛んでいく。


「くっ、逃げるぞ! 獣人の奴隷が暴れてるって通報してやれ!」


 残り2人になった柄の悪い男たちは仲間を見捨てて逃げ出した。


「通報!? それまずい!」


「ふんっ!」


 フーニャがメイスを投げ飛ばして1人を倒したけれど残る1人には逃げられてしまった。


「ど、どうする!?」


 悪いのは柄の悪い男たちである。

 しかしこの歪んだ世界で通報なんてされてしまえばレオはともかくミカオやフーニャは言い訳なんか聞いてもらえない。


「……逃げるぞ。宿に戻って荷物をまとめてこの町を出る」


 聞いてもらえないなら逃げるしかない。

 レオたちは慌てて宿まで戻っていったのであった。

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