ああ、ケモッ娘3

 ただレオは解放軍なんて知らない。

 だから知らない以外の回答もしようがない。


「ふっ!」


 グレーシオに殴られて口の中が切れて血が飛ぶ。

 このまま殴られ続ければ知らなくても知っていると答えてしまいそうだ。


 ケモッ娘がいたら。

 モフらせてくれるケモッ娘さえいたらと思わずにはいられない。


 もしくはゴツい男ではなく大きなケモッ娘の肉球で殴られたのならいくらでも受けて立つというのに。


「あんなところで何をしていた? 解放軍は何を企んでいる? どこまで計画のことを知っているんだ?」


 スキンヘッドの男から矢継ぎ早に質問が飛んでくる。

 何をしていたもなにも、転生して気づいたらあそこにいたのだ。


 それ以外のことを答えることはできない。


「もっとお話しが必要なようだな」


 答えないレオを見てスキンヘッドの男は冷たく吐き捨てる。


「グレーシオ、後は頼んだ。お話ししたくなるまでお話ししてあげろ」


「分かりました」


「アニキ!」


 ケモッ娘を堪能する前に死んでしまう。

 ないことでも何かでっちあげてしまおうかと考えていると部屋の中に男が飛び込んできた。


「ティレンシで解放軍が動きました!」


「なんだと?」


「トブルもいるようです」


「トブルが? チッ……グレーシオ行くぞ」


「はい」


 何が起きているのか知らないけれどグレーシオとのお話しからは解放されそうだ。


「ミカオを呼べ。牢屋にこいつぶち込んでおけ。また後で尋問する」


 ひとまず助かった。

 スキンヘッドの男たちが部屋を出ていき、レオは口の中が血の味で不快だなんて考えていた。


「君は……」


 部屋に誰かが入ってきてレオは顔を上げた。

 その姿を見て驚いたように目を見開いた。


 部屋に入ってきたのはケモッ娘だった。

 全体的に黒っぽい色をしているがユーファンよりも明るく、口周りは白っぽい。


 マズルの形もややシュッとしていて瞳は金色に近い美しさがあった。

 髪はフワッとしていて思わず触りたいという思いがレオの胸を占める。

 

 ケモッ娘だ! と痛みも忘れてその子に見入った。

 ただ全体的な美しさを損なうように着ているものはぼろぼろで金属の首輪をつけている。


「大人しくしていてください」


 声も凛としていて可愛らしい。

 オオカミのケモッ娘はレオの拘束を一度解くと手を後ろでキツく縛り直した。


「立ってください。牢屋に行きますよ」


「は、はい……」


 逃げるならチャンスかもしれないけどオオカミのケモッ娘のことが気になったレオはそのまま従うことにした。

 階段を降りて下の階に行くと鉄格子の牢屋があった。


 レオはその中に入れられると足首に鎖を繋がれた。

 手の拘束は解いてもらったけど今度は移動を制限されてしまった。


 どの道牢屋からは出られないので足首の鎖があろうとなかろうとあまり関係はないのだけども。


「君の名前は?」


「私はミカオ」


「俺はレオ」


「そ」


 レオが自己紹介してもミカオは興味なさそうにしている。


「君はどうしてあんな奴らに従ってるんだ?」


 首に物々しい鉄の首輪までつけられ、服装はぼろぼろでどう見ても大事にはしてもらっていない。


「見て分からない?」


「……分からない」


 貧相な格好をさせることで人前に出ていけないようにでもしているのかと考えるがもっと深い事情がありそうに見えた。


「失礼するわ」


「なっ!」


 ミカオは急に手を伸ばすとレオの服をまくった。

 ベロっとまくられてレオの上半身があらわになる。


 何をするんだと思うけど敵意のようなものは感じないしケモッ娘に脱がされるならとレオはされるがままに受け入れる。

 オオカミのケモッ娘は険しい目をしてレオの体を見回す。


 前から後ろまでじろじろと見回して深いため息をついて服を放した。


「あなた解放軍じゃないのね」


「だから俺は解放軍なんて知らないって」


「じゃあどうして獣人を助けたのよ?」


「ケモッ娘を助けるのに理由なんていらない」


「ケ、ケモ?」


 ミカオはケモッ娘という言葉が分からなくて首を傾げる。

 可愛い。


「君たち獣人の女の子のことだよ。困ってたら助けるのは常識だ」


「だとしたらここら辺の常識じゃないね」


 ミカオはレオの発言を鼻で笑う。


「そんなおかしな常識語るぐらいなら知らなくても不思議じゃないわね。これは奴隷の拘束よ」


 ミカオは忌々しそうに首輪を触る。


「これがあると奴らには逆らえないの」


「それが……?」


『ケモアイを発動します。

 奴隷拘束の首輪は相手を従属させる魔法がかけられています。モフポイント30で魔法を破壊することができます』


「30?」


「はっ?」


 レイラから与えられたケモッ娘のことを見抜く目を使ってみたら首輪のことが分かった。

 どうやら奴隷にする効果のある魔法が首輪にはかけられているようで、レオの力なら魔法を破壊することができるらしい。


 しかしそのために必要なモフポイントは意外大きかった。

 思わず必要なポイント数を口にしてミカオは訝しむような表情を浮かべた。


「……まあいいわ。解放軍でもないおかしな人。私にはどうすることもできないしそのまま大人しくしてなさい」


「待って!」


「何?」


「……自由になりたくないのか?」


「なりたいわよ。でもどうしろっていうの? これがある以上どうしようもないの」


「もし俺がそれを壊せるとしたら?」


 このままここにはいられない。

 ミカオを奴隷から解放してあげたいと同時に、ここから出るためにはミカオの協力が必要だとレオは考えた。

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