変態か、あるいはケモッ娘の王か2

 これはマズイとレオは思った。

 いくら体の調子が良くとも火を直接体に受ければ無事では済まない。


「いや……俺もできるはず……」


 レオは意識を手に集中させる。

 すると手に自分の体の中にあるエネルギーが集まってくるのが分かる。


 燃え盛る炎をイメージする。

 熱くて不規則にゆらめく赤い火炎。


「喰らえ、ファイヤーボール!」


 男が手を突き出すと炎が丸い形を作り上げながらレオに向かって飛び出した。


『モフポイントを3使い、肉球ファイヤーを発動します』


 なんとなく形は肉球がいいなとレオは思った。

 赤い魔力がうごめいて炎に変わりながら形を成していく。


 男が打ち出した魔法はせいぜい頭程度の大きさだった。

 しかしレオが作り出した火の玉は人の胴体ほども大きなものである。


「なっ……! デカい!」


 さらに形も特殊だった。

 犬の肉球のような形を炎は作った。


「行け!」


 レオが手を突き出すと肉球のような炎は真っ直ぐ男に向かった。

 男の魔法はレオの炎の肉球に当たるとパンと弾け飛んで消えてしまう。


「うわああああっ!」


 直当てすると死んでしまうかもしれない。

 そう思ったレオはサッと手を動かして魔法の軌道を変えた。


 変えられるのか知らなかったけど変えられるような気がしたのだ。

 男の足元に落ちた炎の肉球は大爆発を起こした。


「ブゲラッ!」


 あー、死んだかな? と思うような爆発であったが爆発で飛んでいった男が地面に激突してカエルみたいな悲鳴を上げたので生きていることは分かった。


「うっ……」


 レオが残る一人を睨みつける。


「そいつらを連れて行け。今なら見逃してやる」


「……こ、後悔するなよ!」


「…………後悔なんてしない、うっ!」


 男が倒れた二人を引きずるように連れて行った。

 見届けたレオは急速に体から力が抜けていって膝をついた。


「なんだ……?」


『モフポイントが0になりました。モフポイントを回復してください』


 モフポイントが0だから体に力が入らない。


「だ、大丈夫ですか?」


 黒い犬のケモッ娘がレオの顔を心配そうに覗き込んだ。

 吸われてキモっと思ったけれど助けてくれた人ではある。


「怪我は……ないかい?」


「え、ええ……私は大丈夫ですけれどあなたが……」


 顔色が悪く、絶好調とはいかないように見える。


「一つ……お願いしたいことが」


「なんですか?」


「あなたのことを……モフらせてくれませんか?」


 モフポイントを回復させねばならない。

 そのためにはケモッ娘をモフらねばならない


「モ、モフ?」


 黒い犬のケモッ娘は意味が分からないといった感じで首を傾げた。

 モフるという全人類共通言語が通じなくてレオは少し驚いたが、ここは異世界なのだからある程度言葉が通じなくても仕方がないと自分を納得させる。


「モフ……るとはどうしたらいいのですか?」


 全身撫で回させてください。

 そんな言葉がレオの喉元まで出てかかった。


 しかしいくらケモッ娘の前だとしても、いや、ケモッ娘の前だからこそ紳士たらねばならない。

 残り少ない理性のかけらを集めてレオはあくまでも普通のことのように言った。


「あなたの……匂いを嗅がせてください……!」


 これぐらいならば……!

 とレオはと思った。


 1モフポイントでもいい。

 先ほど嗅がせてもらっただけでも5モフポイントをもらえた。


 一吸いでいい。

 できるなら顔を埋めて堪能したいところであるけれど理性のブレーキによってちょっと嗅がせてもらうだけにとどめようと思った。


「へ、変態だ!」


 黒い犬のケモッ娘はドン引きしていた。

 仲間同士だってそんなに匂いの嗅ぎ合いはしない。


 何が悲しくて人間のオスに匂いを嗅がせないといけないのだと思っていた。


「必要なことなんです」


 紳士モードのレオは真剣な目で黒い犬のケモッ娘を見つめた。

 趣味ではある。


 多分にレオの趣味嗜好を満たす行為であることは否めない。

 しかし今はケモッ娘成分が必要なのだ。


『ケモポイントが不足しています! 早急にケモを補給してください!』


 頭の中で警鐘が鳴り響いているような気分だった。

 このままではケモッ娘に襲いかかってモフってしまいそうだ。


「……す、少しだけ……ですよ?」


 迷いに迷った黒い犬のケモッ娘であるが命の恩人には変わりない。

 ウソをついているような目には見えず、本当に匂いを嗅ぐ必要があるのだと信じた。


 匂いを嗅がれるなんて乙女として非常に恥ずかしい行為。

 黒い犬のケモッ娘は顔が熱くなるのを感じた。


「ど、どこを……」


 お腹。

 レオは再び強靭な精神力を持って言葉を止めた。


 脇か首。

 しかしそれも女の子には恥ずかしいだろうと踏みとどまった。


「う……腕を」


 見ると黒い犬のケモッ娘の腕も柔らかそうな黒い毛でみっちりと覆われている。

 本当はマズルをお願いしたいところであったが無難なところをチョイスするところは誰かに褒めてもらいたい。


「腕で大丈夫なんですか?」


 黒い犬のケモッ娘はホッとしていた。

 もっと過激な場所を要求されると思っていた。


 紳士モードであるとレオは疑って信じないが黒い犬のケモッ娘から見た時レオはそこそこギンギンの目をしていた。


「ど……どうぞ……」


 黒い犬のケモッ娘は袖をまくってレオの前に差し出した。


「ありがとう……」


 レオはそっと腕に手を添えるとゆっくりと顔を近づけた。

 そして、いただきますと心の中であいさつ申し上げるとケモッ娘の匂いを思い切り肺に吸い込んだ。

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