変態とは才能かもしれない1
皆守レオは刺されて死んだ。
腹をナイフで一突き。
人生でも最高の日になる予定だったのに、どうしてこんなことになったのか。
レオはイベントに来ていた。
同人誌の即売会イベントでレオの目的はもちろん同人誌だった。
とあるサークルが描いている同人誌をどうしても書いたかったのである。
もちろんレオはその同人誌を手にした。
表紙に描かれているのは人のような姿をしているがケモノのような特徴を持った姿をしている女の子。
いわゆるケモッ娘、獣人、人外というやつである。
レオはケモッ娘が好きだった。
できることならいつかケモッ娘をモフモフとしてみたいと夢を見るほどに。
憧れのサークルの本を手に取って幸せの絶頂だった。
そこに奴がやってきた。
反人外過激派である。
「こんなに素晴らしい絵を描けるんだ、人間を描けばもっと素晴らしいはずだ! 人外など描くべきではない!」
いつもならうるさく喚き散らしたところでも警備員に連れて行かれれば終わりなのだが、今回過激派は片手にナイフを持っていた。
過激派が狙ったのはレオが同人誌を買ったサークル。
こんな素晴らしい同人誌を生み出すサークルの人たちを傷つけさせてはいけない。
レオは咄嗟に過激派の前に立ちはだかり、そのまま突き出されたナイフがレオの腹に突き刺さったのである。
鈍い熱さのような痛みが腹部に広がり、流れ出る血が服をあっという間に赤く染め上げた。
戦果だけは地に濡らしてはいけないとレオは同人誌を入れた袋を自分から離れたところに置きながら床に膝をついた。
「ケモノなんか書いて何が楽しい! このような才能を無駄にするな!」
レオを刺した過激派が駆けつけた警備員に取り押さえられる。
「くそっ……」
血が止まらない。
熱くて、痛くて、意識がもうろうとし始める。
周りの人が駆け寄ってきてレオの腹部を見るけれどナイフは根元まで深々と刺さっていて手の施しようがない。
「まだ……新刊読んでないのに……」
心残りは大いにある。
「ケモ……一度…………会ってみたかった……」
体から力抜けて、レオは死んだのであった。
ーーーーー
「あれ? ここはどこ……?」
まるでモフに抱かれたかのような暖かさ。
目を開けるとそこはテレビCMで見るなんとかハウスみたいな綺麗でオシャレな家だった。
「おお、起きたか」
「あなたは……」
「はははっ、こんな格好ですまないな」
野太い声が聞こえてレオは振り向いた。
そして思わず嫌な顔をしてしまった。
中年ほどの年齢の男性が両手にお皿を持って立っていた。
それだけならなんてことはないけれどなぜか上半身が裸エプロンなのである。
男性は毛深く、見ていて気分がいいものではなかった。
これがケモッ娘なら毛深いのも上等なのに。
「床に座るより椅子に座らないかい?」
レオは温かみのあるフローリングの上に座っていた。
男の横にはテーブルと椅子が置いてあり、床に座って暮らすような家ではなかった。
とりあえず勧められるままに椅子に座る。
「これは君の分だ」
男がレオの前にお皿を置いた。
「……ビーフシチュー?」
お皿に入っていたのはビーフシチューであった。
輝くような茶色が美しく、大きな具材がごろっと入っている。
香りも良くて非常に美味しそうであるがなんでビーフシチューなのかという疑問にレオは男の方に視線を向ける。
「最近料理が趣味なんだ。誰かに食べてもらう機会もなくてね……ちょうどいいと思ったんだ」
誰かに食べて欲しいなら裸エプロンで料理するのはやめろよとレオは思ったがビーフシチューのクオリティは高そうである。
「あなたは誰で……ここはどこなんですか?」
ビーフシチューはいいから一体どういう状況なのか知りたい。
何が起きたら他人に家にいてビーフシチューを提供されるのか理解ができない。
「ビーフシチューの感想をくれたら教えよう」
こいつの腕の毛むしってやろうか。
美味そうでも知らない他人が急に出してきた料理を食べることには抵抗がある。
レオは怪訝そうな表情を浮かべるが相手の体格を見るに力でも敵いそうにないので大人しくビーフシチューを食べる選択肢を選んだ。
男が用意したピカピカのスプーンを手に取ってビーフシチューをすくう。
そしてパクリと一口。
「んまっ」
感想なんてなんでもいい。
適当に言っておけばいいと思ったのに一口食べて出てきたのは素直な言葉だった。
普通にすごく美味しいビーフシチュー。
「そうかそうか」
男は嬉しそうな笑顔を浮かべて自分もビーフシチューを食べ始めた。
「かなりいい出来だ。ビーフも食べてくれ。良いものが手に入ったんだ」
先に話を、と言いたいところだけどビーフシチューは美味い。
冷めてはもったいないしと思ってレオは勧められたビーフを食べた。
「美味いな……」
口に入れるとほどけてとろけていく。
人生で食べたビーフシチューの中で一番。
それどころか料理全体でも1、2を争うレベルのクオリティのビーフシチューだった。
「よければそのまま食べてくれ。ちゃんと話はするから」
事情を話してくれるのなら文句はない。
こんな美味しいビーフシチューを残してしまうことの方が罪深いとレオはビーフシチューを食べ進めた。
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