第十五話「ヒトとモノどちら?」

「妙な流れですが……本日お招きいただき感謝します。代表取締役の速水来太です。

アベノ出身で中二から同クラのカジ……いきなりケンカして仲良くなるパターン?」


 それなりの距離を置くキッチンからカジに睨まれゆっくりした標準語のトーンだ。

昭和なら青春ドラマ的……ほっこり系エピソードに先生とアシさんがニンマリする。


 もちろん社会的な意味は置き趣味嗜好の多様性からBL批判したいわけじゃない。

あくまでストレート……小さな天使と祝言を挙げたことも成り行きだったし先の話。


「代表速水と夜間短大クラスメイト林葉リンです。入学式で獏先生の新書つながり? 

単位がギリで高級酒を教授に贈って卒業認定……清掃チームじゃ引っ張りけん引役」

 ヘラヘラ自虐する態度は変わらないのに服装と髪型を整えてからイケメンっぽい。



「早稲田法学部二年桧垣ヒバリです。爺さんが中野駅前ビル共同地主の喫茶バイト。

オーナーが速水社長に代わったツテで空き時間清掃活動お手伝いさんをやってます」

 黒長髪をポニテ結びしたスズメさん寄りの女顔に華奢な身体は男を感じさせない。


 近頃セット取材が増えて女子中高生たちに追っかけが生まれたと聴いてビックリ。

それも恋愛したいわけじゃなくコンビ推しの会いに行けるアイドルみたいなアレだ。


 夕方アイドル終焉から集団系は先で……ダンスブームの火付け役が来年デビュー。

男性アイドルは無理でも高学歴ボランティアからファン層を拡げる展開で悪くない。


 阪神淡路大震災が発生する前に学生のボランティア団体を形成できるなら理想だ。


 アシさん補助の三人組はそれぞれ簡潔に名前年齢特技を説明しながら感心される。

ルービ先生は「よろしく」で「チーフアシです」と「「「「アシです」」」」たった一言。



「こほん」と咳払いしながらソファから立ち上がると室内すべての視線が集まった。


「先ずプレゼントが大きく分けると二つあります……ここならカジより役立つ人材。

こっちでもカジが必要で……マンガ補助と家事の巧みな学生を三人連れてきました」


 もちろん揃ってルービ先生の大ファンで金銭負担はこちらが支払うつもりである。

いわゆる有償ボランティアにして派遣社員の扱いで本職は学生さんのアルバイトだ。


 それに彼らが持参したコミケ用の同人原稿を見つめるチーフアシさんの目は真剣。

「悪くない絵柄にセンス……ここで技術を磨きながらデビューできる可能性が高い」


「ちょっと待ってよ。あんたの眼鏡に叶うならアシスタント補助は勿体なくない?」

 パイプ椅子から全身傾けてチーフアシさんの持つ原稿をのぞきこんだ俵谷さんだ。



「ふーん。後でいいからこっちにもそれぞれ生原稿持ってきて。ちょっと興味ある」

 ぐでっとした体勢でテーブルに伏せるルービ先生の信じられない言葉に驚く三人。


「まぁ……その辺はご自由に。それでもう一つが98ノートにお絵かきソフトです。

こちらで業務用に使うデスクトップ型と互換性がありペンタブレットを使えますよ」


 ラップトップ型の改良版として昨秋発売された新製品ノートPCはおよそ三キロ。

もちろんバックライト白黒液晶で3.5インチFDD一枚に搭載RAMはしょぼい。


 マッキントッシュPCがマニアックすぎるしクラリスのソフトは相応に癖がある。

とりあえず数年間は98でお絵かきしてもらいマンガ原稿に特化したソフト待ちだ。


 令和の標準スペックになるWindowsPCは先の話で平成元年なら仕方ない。

カジに案内されて秋葉原全域を散策しながら昭和平成のオタ界隈は味わい尽くした。



 メイドカフェなんて影も形もない時代だから女性向けブームを池袋で演出したい。

若い女を売り物にする世論とばっちもんポリコレが形成される前に時代を動かそう。


 ジェンダー平等から少子高齢化社会につながると言葉遊びで性差別が優先される。

マイノリティの権利を擁護することで「表現の自由を抑制した」風潮ができるんだ。


 芸能界のセクハラやパワハラ……ハリウッド日本の犯罪が公にされることはいい。

それでもレディースアンドジェントルマンをハローエブリワンにすればいいのかな?


 もちろん肌の色と外見が直接的な意味で「人間の優劣」につながるわけじゃない。

ただ人が生まれる国地域と親を選べるはずはなく競争を優先する社会は必然になる。


 この時期日本が落ちぶれるのは欧米型一極集中社会が正しいからと導入した結果。

東京を別にして国内ほぼ中小企業で令和まで給料が上がらずに物価だけは上昇する。



 差別をなくそうと行動することは正しいが上下の幅が拡がるなら衰退するだけだ。

その結果として昭和の中流階級が消えた令和じゃ金持ちと貧乏人しかいなくなった。


 始まりの違う自由社会で競争を無理強いされたことから徐々に環境だけ歪むんだ。

正しさの反語は間違いじゃない。不正になるわけでもなく価値観から差が生まれる。


「マンガって原稿用紙に手描きですよね。その方が圧倒的に効率良く仕上がります。

縮小拡大コピー背景処理と効果線トーン。そんな作業は圧倒的に機械が速いですよ」


 もちろんマンガとしてのおもしろさじゃなくて先に内容があるから効率的問題だ。


 カイジとかアカギの福本伸行先生はバイトしながら月刊チャンピオンでデビュー。

ヒットしなくてもマンガ一本で暮らそうと退路を断ちギャンブル漫画が人気になる。


「巧みじゃない平面絵柄で少ない女性キャラ」だけど令和まで大人気のマンガ家だ。

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