第十二話「いずれ起こる案件で」

 名門私大で苦学生割合は定かじゃないが負荷の少ない無資格高時給アルバイトだ。

これから起こる災害時の事前対策にも活用できるため多少増えようとも問題はない。


 バブル景気の頂点である平成元年は国内外を問わずいろんなことが起こる転換期。

政財界を揺るがすリクルート事件で江添被告の逮捕から竹下内閣は総辞職になった。


 ふと未来の記憶が浮かぶ……竹下総理の孫で有名なロックバンドのヴォーカルだ。

当時人気だった女優さんとの電撃入籍は見た目以外に出自が関係したかもしれない。


 結局のところ令和でも終わらない経済停滞のきっかけは四月の消費税導入になる。

参議院選挙で与党大敗の非常事態を迎えると宇野内閣は二月の短命で役目を終えた。


 真夏を迎える八月リクルート事件の関与がなかった海部内閣で新政権は誕生する。

脂汗を流す落ちつきがない総理大臣の記憶だけで再来年末まで政権は続いたはずだ。


 そういえば令和から昭和まで巻き戻り「おかしな」記憶を突如として思いだした。



 工業校卒で就職した昭和のゴム加工製品工場は月一参加の全体朝礼が義務だった。

もちろん五月一日メーデーに半強制で参加させられた組合員が集合する全体行進だ。


 あそこで流れる組合曲「がんばろう」は七十年安保闘争や共産党が下敷きにある。

それでも経営陣とつうつうで執行役員を経由する裏ルートの出世コースは存在した。



 国内平均を建前に企業の給与上昇率をコントロールする組織だったかもしれない。

早稲田大学は学生運動と対極位置にあるが地元名門の大阪市大や京大はヤバかった。


 関西の三大都市圏である京都や大阪に令和まで残された中核派の一大拠点なんだ。

表面的な理想や夢を追う組織である共産や社会民主は美しい響きでも実態がえぐい。


 組織票から繋がるかもしれない戦後の長期政権になった与党が腐敗しても当然だ。

時代劇あるあるの菓子に小判と……ハニートラップを企てる国家や組織は実際ある。


 だからこそ「ひも付きじゃない」金銭をばら撒けば国家を裏で支えることになる。

マリアの見つけたあぶく銭が世界を変えられるなら海に沈んだ遭難者も本望だろう。



 清掃活動の影響が現れたようで中野周辺から人波は絶えず好景気が循環している。

乙女ロードは平成の中旬に生まれるが現時点ではアニメショップが点在するぐらい。


 この時代オタクが集まる場所は中野ブロードウェイで秋葉原は一部のマニア向け。

いずれアニメ好き女性客が殺到する池袋に発展させようと考え店舗を数件確保した。


 未来で調べた範囲はサンシャイン60ビルの西で限られた範囲内と記憶している。

池袋東口のサンシャインから三丁目交差点の春日通りまで片面およそ二百メートル。



 いずれ酒類は提供したいし風営法が絡むから目立ちすぎないような位置で決めた。

とりあえず二郎さんから紹介された業者に依頼して改装工事を進めるような段階だ。


 これから起きる歴史的事件なら11月9日の東ドイツでベルリンの壁が崩壊する。

死者が大量を生む事件……争いは来年8月2日イラクによるクウェート侵攻だよな。


 この後合衆国のブッシュ大統領がドイツ統一を支援したことで世界は再起動する。

ソ連のゴルバチョフ書記長とマルタ会談が実現すると「東西冷戦」終結に繋がった。


「とりあえず国内の状況は何となく落ちついたっぽい……ねぇマリアどうしよう?」

『首都に拠点ができてお国の偉い人に顔つなぎ上々で……今後の事件次第だよねぇ』


「あぁ再来年? GWに信楽高原鉄道で車両同士がぶつかり死亡事故が起こるんだ。

別会社相互乗り入れ直通運転のヤバさとイベントの報連相ミスが連動した過失事故」



 第三セクター経営陣が滋賀県や町役場出身者で鉄道知識に乏しかったんだよなぁ。

機械的な検知器トラブルと両社間の連絡ミスが絡み合い車両が衝突した人身事故だ。


「それからすぐ長崎の島原半島で……雲仙普賢岳が活動を始めて火砕流が発生する。

ちょうど勤務先の先輩に地元民がいて単独ツーリングで宿泊させてもらった場所だ」


 未来で起きた単車事故の直前……高校時代から二度目の正面衝突は佐賀県の駅前。

あれはヤマハSRXー4に乗り換えた直後のお盆休みに訪れた九州一周ツーリング。


 南港から大分の別府まで大型観光フェリーさんふらわあに初乗船できた感動の旅。

別府から宮崎に南下しながら鹿児島入り……桜島経由で北上して長崎に至る往路だ。


 うろ覚えでも島原にある先輩宅でご馳走になり満天の夜空を見上げた記憶はある。

転職先で父にまた聞きした情報は長男の先輩が地元の復興を考えて退職した事実だ。


 島原の実情まで記憶にないが死者行方不明43名が発生する情報の提供はできる。

ニュースで見た普賢岳麓にある上木場地区と地元小学校の被害映像は忘れられない。



「信楽鉄道事故と雲仙普賢岳火砕流の情報発信をどこかでやるとしても余裕はある。

すぐにやらなくちゃいけないことは合衆国のお偉いさんに繋ぎをとることかもなぁ」


 ジョージ・ハーバード・ウォーク・ブッシュは太平洋戦争から生還した大統領だ。

日本とは絶妙すぎる距離感を持ち匿名の情報提供から始めるのが理想かもしれない。


 裕福な共和党議員の次男で海軍パイロットでCIAの協力者だった過去まである。

対日赤字を解消させようと米牛肉の自由化を認可させるジャパンパッシングは有名。


 日本国憲法の解釈で湾岸戦争に自衛隊の派遣は国会で承認されず資金協力だけだ。

この事実が後日さまざまな意味の弊害を招き日本の国際的立場まで揺らぐんだよな。 

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