第十一話「清掃で世界を変える」

「自分たちの活動を取材にこられたと聴きました。わざわざありがとうございます。

ボク筆頭に大半が現役の早稲田生でボランティアじゃないですから。もちろん……」


 駅前でトレンディドラマを撮影中のスタッフに声かけされたのがきっかけっぽい。

民放報道番組に興味を持たれたみたいとリンちゃんに報告されて了承した取材中だ。


 リンちゃんはおバカでも報連相を忘れず管轄外の即応しないだけ安心感あるよね。

年下でも助言できる立場のヒバリくんが傍らにいるんで安心して現場を任せている。


 カジによる個人活動の「忙しいマンガ家をフォローする」先がイマイチ読めない。

こっちはお爺さんらの紹介で顔を売るための資金集めパーティーに参加する日々だ。


 野党と連立政権を組むことで国政を揺るがす事態を招くから可能なら阻止したい。



 そうそう四月末おバカの来襲から時はすぎて……梅雨明けを迎える季節が訪れた。

はるか昔すぎて記憶になかった都内の平均温度がビックリするぐらい低いんだよね。


 地球の温暖化現象が噓か誠か置いて七十年代末ごろから大気汚染は問題視された。

実際に小学生時代の朝礼で度々光化学スモッグ注意報が発令された記憶はあるんだ。


 令和と昭和で体感的な温度差を認識できた時期は梅雨入りした直後かもしれない。

ちょっと調べた気象庁の発表値が先月は最高気温二十四度で令和はもっと暑かった。


 もちろん一般道のアスファルト化は進んでないしエアコン室外機の総数も少ない。

なるほど東京二十三区内でも昭和と令和でこれほどの差があるんだと驚かされたよ。


 GW明け中野駅から清掃活動を始めようと現役早稲田学生を募集してビックリだ。

正式なアルバイト募集でも学生課に伝わると問題視されそうで人伝の紹介に留めた。



 池袋で開業するコンセプトカフェのイメージがヒバリくんに巧く伝わったようだ。

どちらかといえば穏やかな性格をした瘦身の青年が意外だけど三十人ほど集まった。


 純喫茶の二郎さんとスズメさんに当日バイト出退勤管理をお願いしてスタートだ。

現場責任者リンちゃんと時給二千円に釣られたヒバリくんで中野駅周辺の美化運動。


「皆さんこんにちは中野駅周辺の清掃活動中です。ゴミはくず箱にお願いしますね!

この近辺で犯罪行為を見かけたりお困りの際にはいつ何時であれご相談くださいっ」

 そんな感じに大きすぎない声を上げ三人チームによる巡回を始めて話題を呼んだ。


 ちゃんとした筋からのメーカーに頼み明るいポロシャツと瘦身パンツで統一する。

集団行動を怪しむ官憲にそれぞれ早稲田の学生証を提示するだけで問題はなかった。



 基本的に昼夜を問わず不作為での二十四時間三人体制が犯罪行為まで予防できた。

いつしか中野サンプラザに集う男女を問わないファンが生まれるほどの人気になる。


 大学構内でも密かな話題になって追加メンバーを募集すると驚きの五十人集合だ。

リンちゃんヒバリくんに余裕が生まれるといよいよ本命となる池袋駅前に進出した。


 サンプラザの活動が改めて話題性を生んだのか開始早々いきなり冒頭のTV取材。

外見に気づかったリンちゃんがさっぱりしてイケメン度合いでヒバリくんに並んだ。


 ヘラヘラ笑うリンちゃんと真面目なヒバリくんが好対照で腐女子たちを刺激する。

もちろん聖飢魔Ⅱじゃなくて二十世紀末は遠い先で腐女子が生まれる前のやおい系。



「えっと時期未定なんですがサンシャイン60ビル……西側で店を開店しますんで。

若い女性向けコンセプトカフェ……コスプレ姿でボクたちがフロア対応の予定です」

「歌舞伎町で人気のホストクラブよりお安く気軽に女性が楽しめるようにしますよ」


 インタビューされるヒバリくんの肩からこっそりと抱きつくリンちゃんがエモい。

おバカすぎる天然かやおい系腐女子に直撃する狙いすぎた特効か意図まで読めない。


「ぅわぁそれってホントなんですか。そっそんなの素晴らしすぎるかもしれません。

あたしみたいな年上オバサンでよければお店の常連に立候補したいんですけどねっ」

 ヒバリくんの背中で笑みを浮かべるリンちゃんにインタビュワーの両頬は真っ赤。


 カメラの画角から外れた場所で見守りながら三十路手前っぽい女子アナに苦笑い。

「いやいやいや本気でうれしいなぁ。ボクの名刺でよろしければお持ちくださいね」



 弁舌のインチキ宗教家……うさん臭さ満点の上友史浩と違いジゴロは一撃必殺だ。

携帯が生まれる前だけど固定電話と住所に本名林葉リンだけが書かれる名刺だった。


 生娘みたいに頬を染めていねいに名刺を扱うキレイ系な女子アナの姿に驚愕する。

『見かけと中身ぜんぜん違うのにホントにライタくんの同類だよね。笑っちゃうよ』

 小ばかにした風でもなく本気で感心するようなマリアに笑顔でふふんと自慢する。


「夜間短大で後ろの席に座るといきなり読み始めた新書が確か『闇狩り師』でねぇ。

ソノラマ文庫キマイラと同一世界観で仙道極めた『ミスター仙人』主人公のヤツだ」


「オレもその新書持ってんで」声かけしてすぐ仲良くなったおバカすぎる同類項だ。



 違法じゃないがパチンコと喫煙は常習化して夜学の帰り道は飲み屋で管をまいた。

ニコ上と一つ下のクラスメートが四人揃えば雀荘直行で頭からサボった記憶もある。


 女たらしでも一夜限りの火遊びやらないし二股かけないからマトモかもしんない。

なんば花月の周辺で遊び倒し令和時代に訴えられるお笑い芸人より真っ当だよねぇ。

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