第十話「池袋中野の新名物に」

「オレの背中真っ黒に煤けた……竜の物まね哭きまくり麻雀ぼろ負けしてもうたわ」

 早朝からヘラヘラと笑うリンちゃんの顔が殴りたくなるウザさで言葉を失くした。


 夜明け前のベルに飛び起きのぞき窓からリンちゃんとヒバリくんを見て驚愕する。

寝ぼけまなこを見開いてダイニングに移動し流れを聴いた途端にアホらしくなった。


 宙を舞いながら視界でニヤニヤした顔のマリアが考えていることまでわからない。

不利益な状況でも起こらない限り傍ら見守るだけで声すら滅多にかけてこない彼女。


「ゴメン。ライタくん程度の麻雀打てるから入れてよって雀荘に特効したらしくて」


 苦笑しながら謝罪するヒバリくんがここにいる理由は不明でもわからなくはない。

眠れない夜をすごしただろう二人は上から下までヨレヨレに感じるほどしわだらけ。



「リンちゃんギャンブルはヘタの横好きで負けまくってんのよ。マジに向いてへん。

ベタ締めのセブン機でも一日中ぶちこむぐらいにおバカさんやからホンマ困んねん」


 六階にリンちゃんと忠士を放りこみ一蓮托生みたいな関西人チームが結成された。

苗字カジマでカジと呼ぶ忠士はマンガ原作者の師匠を筆頭に手土産持参で挨拶回り。


 ボケ役のリンちゃんは「何しよかぁ」と独り言をほざいてフラフラと遊んでいる。

これからの動きで何を優先して始めるか目的を模索する以前の段階になり仕方ない。


「オーナーでも君らは内子みたいな関係。爺ちゃん控えメンツにお願いしたいって。

金銭感覚マヒしてるから店内で飲み食いした分と場代は末締めに請求するっぽいよ」

 ヒバリくんが苦笑して伝えるツケ払い……金銭を担保する程度の信頼は生まれた。



「うん。金銭的に当面は遊んで問題ないしなぁ。このあと人集めやら始めたいけど」

「入口閉めて生ジョッキで乾杯。乾きものつまんでおしゃべりしながら教えられた。

セカイを良くするために活動したいから人材集める最中ってバカみたいなヨタ話を」


 アルコールで酔ったように見えないヒバリくんは……一つ下の大学生やったっけ。

「それ目的に上京したんやで。カジはPC方面とマンガ関係? リンちゃんは未定。

お爺さんたち三人に紹介されて地元有力者と政治家の繋ぎに時間かかってるけどね」


「ふぅん結構マジメ。ボクも店でバイトしながら早稲田法学部の二年生なんだよね。

なんだろう……それこそ見た目全然イケてないオタク系の学生なら紹介しようか?」


 いきなり提案にビックリ。頭良さげでイケメンのヒバリくんは現役早稲田生かよ。

それも法学部めちゃ優秀やから毎年それなりの人数……司法試験合格者でるぐらい。



「そら将来的には国を担うような一流大学やから願ってもない提案やけどホンキ?」

「ボク自身は余暇の範囲内かなぁ。それでも学部問わずなら閑な貧乏人が多いし?」


 天下の早稲田大学……地理的にJR高田馬場駅だろう。地下鉄の東西線が最寄駅。

高田馬場は必勝ガイドの編集部もありライターさんを駅前店でよく見かける場所だ。


 人生巻き戻りして酒たばこギャンブルを回避しようと思えば逆に追いかけてきた。

金銭面は問題ないし時間的な制約もないから人脈づくりの意味合いならおもしろい。


「じゃあ金銭に余裕ない学生中心で集めたい。参加者に時給二千円でいけるかな?」

リンちゃんをリーダーに中野周辺……池袋の環境整備。ゴミ拾いから始めたいんよ」


 IWGP……池袋ウエストゲートパークみたいなカラーギャングは創作ネタやし。

腐女子が集まるサンシャインビル西側の乙女ロードはこれから十年以上未来のお話。



「時給二千円は高すぎるよ。うちの喫茶店が平均の千円ちょい。夜のお店以上……」

 ストップひばり君みたいに端正な顔が歪んで開かれたどんぐり眼はギャグっぽい。


「そそ。いずれ西池袋で店やりたいん。歌舞伎町みたいな風俗嬢向けじゃないお店。

これから中野周辺廃れていくから……男オタクは電気屋街から衰退した秋葉原やわ」

 おニャン子クラブのJKブームが終わると2000年代から始まる集団アイドル。


「ほんで女オタ……サブとかガチホモを可愛らしくしたボーイズラブが流行るんよ。

たしか女性作家の新書で……ヴィジュアル系ロックバンドの線細いイケメン同士?」

 まだ先やけど茅田砂胡先生のファンタジー小説とか同系列で新書サイズ小説やわ。


「いやボク自身こんな外見でも女好き。ひばり君そっくりと女子に迫られたけどね」

 確かにひばり君はジャンプでも人気マンガやったけど平成元年時点の腐女子かぁ。



「それって腐女子の原型かもしれんね。そんな感じに一見すると普通な女の子相手。

未成年者対象のコンセプトカフェ始めたら……リンちゃんとヒバリくん人気者やわ」


 冗談半分……いや逆の意味でヤバすぎるし。執事スタイルとか大正ロマンの接客。

これ実現したら会話して酒で接待するホストクラブより質……めちゃ人気でるやん。


「ちなみにホストみたいなスーツちゃう……英国執事や大正ロマンのコスプレ姿?」

 コスプレの概念は80年代末期でうる星やつらから誕生してるけど女の子よなぁ。


「「まぁ……男として女の子相手にアニメぽい格好の接客ぐらいならギリやれる?」」


 結構長時間マジ飲みしてビックリするぐらいに仲良くなったっぽい二人がハモる。

身長体重ほぼ同じ……ぼさぼさ頭の優男に黒髪ロング女顔で対照的なイケメンやし。


 この二人筆頭にして現役早稲田生の接待アリならメチャクチャ流行るんちゃうの?

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