第七話「おバカすぎる勘違い」

「ヒバリやめてよねっ。いきなりお客さんを相手にケンカ売るとかバカじゃない?

あんたがあたしらを素直に認めらんない。認めたくないのはわかんなくないけど」


 いきなり声を張り上げ割りこんだスズメの見つめる先は彼女と瓜二つの顔だよ。

確かにスズメとヒバリなら双子っぽいし……ストップひばりくん関係ないよねぇ。


「お爺ちゃんが同じ……三つ子の孫に生まれ幼少期の初恋なんだから認めてよね。

大河くんマージャン連盟プロ試験に合格。それこそ飛ぶ鳥落とす勢いなんだから」

「もちろん同時に生まれた瞬間から見てきた。それでも近親婚ってヤバいじゃん」


 あぁ何となくだけど状況を理解できた。スズメとヒバリが双子で一郎さんの孫。

強面イケメン大河さんは喫茶店マスター二郎さんの孫で生まれながら幼なじみか。


 なるほど二人の結婚なら生前贈与……まとまった金銭が必要になるんだろうし。

同じ顔をした双子の妹を守りたい……JKの兄としてこじらせシスコンわかるよ。



「落ちついて……日本で禁止される近親婚。その定義は三親等内の直系親族だよ。

祖父が三つ子でも親同士は四親等のイトコ。四親等の子ども同士は他人じゃね?」


「「「…………」」」無言で凝視するのはお爺さんたちとスズメ。「それってホント?」

 いきなり傍まで駆け寄り両肩に手のひらを強く押しつけるヒバリくん……痛い。


「もちろん。法律の専門家が傍にいれば誰でも同じ回答くれるんとちゃうかなぁ」

「はっはっはっ彼が例のお客さんかい? 二人もそんなに悩むなら先に聴いてよ」


 入口の自動ドアがスライドしながら現れた人物は同じ顔……もちろんお爺さん。

なるほど先刻ちらっと三つ子なんて話がでた仕立て良いスーツの襟元は金バッチ。


 あれヒマワリの真ん中に天秤だからホンモノ……弁護士さんの金バッチじゃん。

「えっと初めましてだね。近所で弁護士事務所をやってる桧垣三郎だ。よろしく」



 すぐ傍らまで近寄ると同時に優しい笑みを浮かべ右手のひらを差しだしてくる。

「こんちわっ。大阪からこっちについたばかりの速水来太。お世話になりますっ」


「それでこのまんま麻雀やりますの?」こちらも笑いながら彼と手のひら合わせ。

「席決め終えて準備まで整えた段階で今更やめても……お遊びで半チャンやるぞ」


「いきなり初対面から突っかかって悪かった。桧垣ヒバリ二十歳のバイト学生だ」

「とんでもない。こっちにツレなんかおらんし仲良うしてや。速水来太二十一歳」

 互いの誤解みたいな敵対状態からがっしり右手をつかまれてブンブン振られる。


「じゃあ改めまして」台付属の自動サイコロを振ると三連続の九にビックリだよ。


 機械が自動に積み上げた百三十六枚で目前の十七列を上下九列分右に移動する。

そのまま左から三列目の上段をめくるとトリさん登場で索子一はイソコちゃんだ。



 続けて移動した配牌左二列分四枚を自分の元まで引き寄せて手前向けに並べる。

同じく八枚を手元に入れてから対面の左上配。三列目上配を指先でちょんちょん。


 十四枚並べ一度強く両端を押しながら前に伏せてからこちら向きで表示させる。

おぉ配牌めっちゃええ感じやない。ざっくり見て無駄配は西と中に一萬だけやで。


 もちろん感情を表すこともなく淡々とした動きで並べ替えるとまずは西切りだ。

最初の配牌十四枚は一三四四五萬。ドラ二枚の二二五六索。五六七筒で一メンツ。


 いわゆる配牌リャンシャンテンなら萬子の上一枚と四七索を引いて即テンパイ。

めっちゃいいやん……羽ばたくマリアをチラ見するとにんまりした表情で微笑む。


 二巡目を開いてビックリだ……メンツ完成の二萬に笑いをこらえて一萬切りだ。

残念ながら三色同刻は無理でもイシャテンで三巡目は七索を引いて速攻テンパイ。



 迷彩なんて考える暇もなく西から一萬。横向き中に千点棒を投げ「リーチ」だ。

「ちゃんとした打ち筋で素人どころじゃねぇなぁ。いきなりリーチに恐れ入った」


 ちょびっと顔を引きつらせ語るのは二郎さん。スズメさんと大河さんは無表情。

三巡目リーチでツモ切するだけの俺に現物安全配を切り逃げながら回すメンツだ。


 このままツモれずに流局を意識した頃合いでちょっと思案顔に変わる大河さん。

「まぁ初打ちなんて様子見だ。嫌な予感ひしひしするが通らばリーチの三萬で!」


「大河さんそれ当たりっすわ。さすがにあきまへん」ニヤリ笑いで手配を開ける。


 そのまま裏ドラを確認すると五筒……おぉメンタンピンドラ三のハネマンだよ。

「王道ですけどリーチタンヤオピンフのドラ三ですわ。東一局から親っパネっす」



「「「「「「「強ぇじゃん!」」」」」」」面子三人と喫茶店チーム不動産屋に弁護士さんだ。

 箱の点棒を数えると平凡な二万五千スタートでトップ賞の三万返しなんだろう。


 初っ端ビハインド……新進気鋭のプロらしい強敵大河さんに勝てる大チャンス。

このまま運任せでの逃げ切りは絶妙に厳しい状況だけど直撃を避けて凌ぎたいな。


 勝っても負けても関係ない遊びでも契約の向こうで見え隠れするコネに繋がる。

マリアが助けたいあまりに好牌を寄せた指先チチンプイプイかもしんないけどね。


 とりあえず何も用意せず東京で住所不定無職は避けられたからそれで十分やわ。

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