第二話「始まりは小さな願い」

 脳内アラカンの二十一歳でも名探偵じゃないから謎をすべて解くなんて不可能だ。

いやいやいや金田一少年ちゃうし昭和のコナンくんは宮崎駿監督で未来少年やねん。


「えっとさぁマリア……令和から昭和まで人生巻き戻したんだ……何となくわかる。

ネタじゃなく『これが必要なんだ』等価交換で俺にやらせたいことあったりして?」


 本来は経済用語『等しい価値を有するものを相互交換すること』が正式な意味だ。

流行の【ハガレン】なら錬金術師が唱えた錬成される前後で質量は変わらないこと。


 実際のところ「質量保存の法則」や「エネルギー保存法則」みたいな現象になる。

錬金術が実在した時代に別種の組み合わせから純金を錬成する行為は等価じゃない。


 中世ヨーロッパの錬金術が講じて化学が生まれることは不可逆的意味なら正解だ。

『無理くりやらせたいわけじゃない。お師匠のティアさまは過度に期待しないんだ』



「ふぅん。六枚羽の熾天使がマリア……それならお師匠は女神のティアマトさま?」

『なんでなんでなんでわかんのよぉ……物知り博士なんて言葉じゃ片づけらんない』


「ふっふっふっ……てか想像力を働かせただけの偶然で還暦の近くまで生きたんだ。

それより巻き戻したから体調なんか超ご機嫌。天使のお願い何でも聴いちゃうよ?」


『お願い……あたしに対するお師匠の課題「より良き理想の社会を迎える」ことね。

それに協力してくれるはずの宿りビト……あなたと永遠に対等の契約を結びたいな』


 一瞬きらめく碧眼を閉じて祈るようにうつむいた実体ない天使から目が離せない。

なるほどと感じる部分があるのは三十五年後発展できない社会を見たからだろうか。


 つまりは自覚した瞬間から並行世界が形成されて……ここで分岐して変わるんだ。



 お師匠に指示されたマリアと共により良き社会を構築できれば人は幸せになれる。

ティアマトはメソポタミア文明の女神にして諸神を生み落とせる母と呼ぶべき存在。


「宿りビトの概念は絶妙にわかんないけど……永遠とか対等の契約ってアレじゃん。

この社会でいうところの結婚みたいに感じるようなニュアンスが浮かぶんだけれど」


 もちろん天使との契約について何か不満がある訳じゃないしむしろ歓迎なんだよ。


『うん。この社会に於ける夫婦間の結婚制度……そう変わらないかもしんないよね。

キリスト教のチャペルで行われる人前式になるかなぁ? 牧師が唱える誓いの言葉』


 ごくごく一般的な形式を俺たちの名前に置き換えるならこんな感じになるのかな。



『新郎のライト。あなたは天使マリアを妻とし健やかなる時も病める時も喜びの時も

悲しみの時も富める時も貧しい時も。この女を愛し敬い慰め合い共に助け合いその命

ある限り真心を尽くすことを誓いますか?』もちろんこれはマリアが発したものだ。



「はい。誓います」もちろん天使と永遠の契約を結ぶことに是非があるはずもない。


「新婦のマリア。あなたは伴侶ライトを夫とし健やかなる時も病める時も喜びの時も

悲しみの時も富める時も貧しい時も。この男を愛し敬い慰め合い共に助け合いその命

ある限り真心を尽くすことを誓いますか?」もちろん返しの言葉として俺が唱えた。


『はい。お師匠に噓偽りないこと誓いましょう』頬を染めたマリアが何故か戸惑う。



【なるほど指輪交換を経て宣誓のキス……今後のお導きと結末によるが悪くはない。

神の僕としてハヤミ・ライタ……そなたのご活躍を心よりお祈り申し上げましょう】


 いきなり脳内染み渡る威圧感ある姿ない言葉に【絶対神の降臨】意識させられた。

驚くべきことに脳まで浸透するような神々しい宣誓には迷わずひれ伏したくなった。


 これが御霊にして正しい意味での「御力」あるいは「神力」だったかもしれない。

熾天使マリアとの狭間で【契約】は結ばれる。見えない何かに縛られた感覚がある。


 途中まで冗談半分で宙を舞うマリアと見つめ合うお遊び行為の延長線上にあった。


「親愛なるティアマトさまの敬虔な信徒に生まれ変われたこの喜びを捧げましょう」

 人生を三十五年巻き戻して事故入院する直前からやり直せることに感謝しかない。



 神の求める社会……何となく想像できるのは事故や地震の犠牲者を減らすことだ。

もしくは地球誕生から途切れることのない理不尽な民族紛争を一掃することだろう。


 どちらにしても一朝一夕にできることではなく地震や界隈の事件しか記憶にない。


【うおぃハヤミ・ライトそちの想いは誠かぇの。大変に喜ばしいことではあるのぅ。

無理せずともよいのじゃぞ。世に埋もれた遺産を遣い未来をより良く変えてみせよ】


 ため息交じりの御霊による宣誓が終了するのと同時に周囲の雰囲気が弛緩したよ。



 やけに重々しく感じられた【天孫降臨】空気まで瞬時に緩んだようで安心できた。

「マリアしってるの。世に埋もれた遺産って何のこと?」まずは天使を質問責めだ。


『元々……お師匠さまに指示されたの。チキュウの未来を切り開く行動指針と目標』

 ティアマト神の支配下にある熾天使マリアと進める世直し旅って響きは悪くない。


『いろんな場所を訪れて悪しき風習や考えを正してもらうための資金が必要だよね。

理不尽な死に目を迎える人を減らすために争いが生まれるきっかけを潰しちゃうの』


 これも何となく想像したとおり諸悪の根源は地球にある限られた資源の奪い合い。

まず令和六年と呼ばれた2024年までの記憶を総ざらいしながら見つめ直したい。


 ウェブ小説で使おうとググった平成で起きる地震と事件のあらまし役に立つよな。

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