2章 新生ギルド編
第16話 ステラとケビン
「は?レインをパーティから切った。アンタ何やってんの?」
協会からの依頼で行っていたキャンプ2から帰ってきたステラはケビンから受けた報告に耳を疑った。
「別にそこまで驚くことじゃないだろ。俺たちのパーティはもうちょっとで仕留めきれなくて手痛い反撃を食らうことが増えて苦戦してた。一番火力のないレインのポジションをグレードアップするのは自然な流れだろ?」
当然のように話すケビンにステラは溜息を吐く。
「レインのポジションのグレードアップ?アタシたちのパーティでアイツ以上に替えが効かない人なんていないわよ。」
レインの上位互換がいるのならクレアがとっくに見つけてるわよ、とステラは心の中で愚痴る。
「確かにレインは無詠唱で魔法が使えたりで珍しいヤツだったけど使える魔法は初級魔法だけだったし魔術師としてもっと使えるヤツは探せばいくらでもいるぜ?」
ケビンはステラがなぜそこまでレインのことを評価してるのかわからないと言いたげだ。
「それなら見つけてみなさいよ、レインの代わりってやつを。見つかるまでアタシはこのパーティを抜けるわ。」
話にならないとステラは割り切って条件を突きつける。このパーティがレインの穴を埋めれずに失速していくのならステラにはこのパーティに留まり続ける理由は無い。
「それがすでに見つかってるんだよ。しかも、アイリと相性のいい雷属性が得意な中級魔術師が。やっぱ『聖天使』と『黒剣』のブランドは伊達じゃないな。」
『聖天使』とはステラの二つ名だ。ステラはこの街でトップと言われるヒーラーでありながら攻撃魔法も使いこなし近接に持ち込まれても苦にしない戦天使ぶりからその二つ名がついた有名人だ。そして『黒剣』はケビンの二つ名だ。魔力の波長が合わないと使いこなせないとされる魔剣の適応者であり、トレードマークである黒い魔剣をいつも背負ってることからその名がついたこちらも上位冒険者の中では知らない人はいない有名人である。
「そう、それはよかったわね。それならアタシを抜いたメンバーでキャンプ2まで到達しなさい。それができないようでは話にならないわ。」
ちなみにキャンプ2の最小到達パーティ人数はレインとステラの2人である。これはレインの魔眼に無詠唱ヒーラー2人が攻撃魔法と回復魔法をうまく使い分けて敵の薄いところを突撃した結果であり、最速到達記録もこの2人で持っている。そんな背景もあり、ステラからしてみればレインの代わりを探してるのに自分含めてキャンプ2到達では論外、自分無しでキャンプ2も行けて当然の条件だった。
「おいおい、ちょっと待ってくれよ。新入りのやつの最高到達階層はまだ17だぜ。ヒーラーも無しにいきなりキャンプ2はちょっと厳しいだろ。」
キャンプ2到達というのはそう簡単に達成できるものではない。熟練の冒険者パーティでも数回に1回アクシデントで撤退するレベルのものだ。たった2人で到達したレインたちが異常なのであって本来は念入りに準備した上で時間をかけて到達するものだ。ある程度のアクシデントをリカバリーできるヒーラー抜きでの攻略というのはリスクをそれだけ上げる行為になるというのがケビンの主張だ。
「もっと下を目指すためにレインを切ったのでしょう?それならこれくらい到達できないと話にならないわ。それと期限を決めましょう。そうね、これから1か月以内にキャンプ2に到達できないようならアタシは正式にこのパーティを抜けるわ。」
最高到達階層の更新を目指すためにレインを諦めたのならばこれくらいはできないと困るとステラは考えていた。そもそも、ヒーラー抜きでキャンプ2に到達できないようなパーティではステラとしても後衛として安心して命を預けられない。今までその心配がなかったのはステラがそれだけレインを信用していたからだ。要するにステラの中では他のパーティメンバーよりレイン1人の方が評価が高いのだ。
「おい、期限って。」
まるで抜ける前提のようなステラの言い回しにケビンが焦る。1か月という期間では準備も含めてチャレンジは2回ほどしかない。ケビンとしても難しい条件だとは思っていなかったが両方ともアクシデントに見舞われるとそれだけでパーティの核であるステラが抜けるというのはかなり手痛い。
「アタシだっていつまでだって待てるわけじゃないの。結果が出せないのなら次を考えなきゃいけないのは当たり前でしょ。それこそアンタがレインを切ったように。」
2回もチャンスをあげているのだから十分じゃない、とステラは言い残して去っていった。ケビンからすればレインを切っただけでここまでステラが言うのは想定外だった。
「ステラ、おまえはいったいレインの何をそこまで評価する?」
ケビンは1人つぶやいた。
それから2週間、ケビンが15層で重傷を負ったという情報が街に広がった。ケビンは戦意喪失し、ステラは1か月待つまでもなく新天地を求めることになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます