第15話 始動

「初めからマロンさんを勧誘するつもりだったんですか?」


 レインたちはもう一度1層まで戻ってマロンに前衛の基本的な知識を教えてダンジョンから戻った。疲れたマロンと先に別れたところでリンはそう話しかけた。


「本人が前衛をやる気になったら誘おうとは思ってました。」


 それは本人がトラウマなく魔法が使えて後衛としてやっていけるのなら誘わなかったと言っているようにリンには聞こえた。


「後衛としては魅力が無かったってことですか?」

「彼女には初級魔法くらいの適性しかないと事前に聞いていたので。」


 レインは前にマロンの魔法適性について聞いたことがあった。マロンの魔法適性は炎、風、雷、土の4種類でどれも初級レベルとは聞いていた。それではいずれレインと同じ壁にぶち当たることは目に見えていたので後衛としてはレインが求める人材ではなかった。


「いつから前衛として目をつけていたんですか?」


 レインがマロンをエース級になれると評価したのならどこかでレインがそう考える出来事があったはずだとリンは考える。しかし、レインがマロンのことを知ったのはダンジョンで救出した時のはずであり、その後出会ったのは協会での一度きりのはずだった。レインは今日の冒険の前にリンにマロンが使えそうな前衛用の武器と防具を用意しといてほしいと言っていたので事前に彼女を評価する出来事があったはずだがそのタイミングがリンにはわからなかった。


「彼女を救出した時、すでに彼女はかなりの距離を移動してました。そしてそれだけ動いてなお彼女はフロストバットの魔法とシャドウバットの猛攻を搔い潜ってるのを俺の目はとらえてましたから。それで助けて彼女は魔術師の格好をしていたのであれだけの動きと魔法が組み合わせれば強くなるだろうなと思ったんです。」


 つまり初めて会った時にはすでに彼女のポテンシャルを高く評価していたということになる。


「あの非常事態にそんなことまで考えてたんですか。相変わらず人のことをよく見てらっしゃる。」


 そもそもレインはそれだけの能力があるから助けに行けば間に合うと判断したのだ。実際、マロンのポテンシャルがあってギリギリ間に合ったようなものだった。それだけの能力が無ければレインが見つける前に力尽きていた可能性が高いし絶対に安全とは言えない場所にリンを置いて危険に晒すリスクを冒してまで助かるかわからない命を救助に行く選択をレインは取らなかっただろう。


「結局、欲しい能力を持った即戦力をパーティに加えられることなんてほぼ無いですからね。」


 そもそもダンジョン攻略の最前線の冒険者たちはみんな名の知れた存在だ。キャンプ2の先に行けるような即戦力はだいたいどこかに所属しておりフリーになるのは大抵そこが壊滅した時だ。だから、それ以前のレベルの冒険者で成長できそうな人材をスカウトして育てることが必要になってくる。そういう人材を探す仕事をよくやっていたのでレインは人を観察する癖が染みついていた。


「まあ彼女はじっくり育てていきますよ。」


 マロンはレインが求めていたダンジョンを攻略するための人材だ。トラウマを持つ彼女は特に大切に育てていかないといけないだろう。


「それなら明日からギルドとして活動できるように【栄光の銀翼】を正式にギルドとして承認しておきますね。」


 今までは実質的に稼働するメンバーがレイン一人だったのでギルドとしての登録は申請と各種承認の根回しだけリンが進めて最終承認が済めばいつでも活動開始できる状態にしていた。個人で活動するならば定期的に会費を払わないといけない状態にする必要は無いからだ。


「そうですね。とりあえず受けるクエストはマロンでも行ける上層のものに限定して少しずつギルドとしても実績を作っていければと思います。」


 現状レインとマロンは実力が違いすぎる。レインが色々教えることはできるがレインが1人でキャンプ1に行ったりしたらマロンは1人でお留守番ということになってしまうだろう。ギルドとして活動開始すれば広く仲間を募集することもできるようになる。レインは自分がいなくてもマロンがダンジョンに潜れる環境をなるべく早く作ってあげたいと考えていた。




「これが協会公認のギルドであることの証明書ですね。」


 リンからいくつかの説明を受けて最後に証明書をもらったことでレインは正式にギルドの立ち上げを完了した。証明書にはブロンズギルドであることが明記されていた。


「それじゃ書類を持って拠点に行きましょうか。」


 協会職員としての書類を渡したリンはそのまま仕事を切り上げてギルド拠点についてくる。結局、ギルドの机仕事はリンがやってくれることになっているので協会からもらった書類をしまう場所もリンが使いやすいようにした方がいいということになり一緒に来ることになったのだ。


「ただいま。」


 拠点に戻ると庭でマロンが無詠唱魔法の基礎の特訓をしていた。朝、マロンと合流したレインは無詠唱で魔法を使うための基礎の練習だけ教えて協会に出向いていた。


「レインさん、これすごい難しいです。」


 どうやらマロンは順調に苦戦しているようだ。


「これレインさんもコツをつかむためにかなり時間がかかったらしいので頑張ってくださいね。」


 リンがマロンにそう言って励ます。


「ちょっとマロンも集まってくれ。」


 書類をしまい終わり、落ち着いたタイミングでレインは集合をかける。


「今日からギルド【栄光の銀翼】は正式に活動開始する。2人ともこれからよろしく。」


 こうして【栄光の銀翼】は正式に動き出した。

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