第14話 マロンの復帰3
「でもあたしには飛び抜けた身体能力なんて無いですし体格がいいわけでもありませんし。希少な魔術師としても成功しなかったあたしがありふれた前衛になっても成功する未来なんて見えないんですけど。まだ、弓使いとかやってみた方が可能性あるんじゃないですか。」
前衛のポジションは魔法が使えない人の大半が挑むポジションなため人口も死亡率も高い。だから、前衛として活躍したければ一芸身につけろと言われるくらいには前衛としての成功率は低い。
「いや、逆に弓は向いてないからやめた方がいいよ。君は魔法も正確に狙い撃つというより大雑把でも当たればいいで撃つタイプでしょ。」
マロンはレインの指摘が当たっていたので驚く。どちらかと言えばリンは前衛よりも弓などで後ろから攻撃する方が合ってるタイプなのだが、トラウマによりいざ実戦になると集中しきれず正確な狙いが定まらないことがわかったのですぐに諦めた過去がある。
「あとさ、俺も飛び抜けた身体能力も恵まれた体格も持ってないよ。」
確かにパッと見た感じからしてレインの体格はそれほど恵まれている方では無いし身体能力が飛び抜けてるようにも見えないとマロンは思った。
「まあ、いろいろ見せたいからちょっと下の層まで潜ろうか。ここだと敵が弱すぎて見せるまでもなく終わっちゃう。」
本当のところは1層にはそれなりの数の新人冒険者が潜っているのでレインが可能性を示すには敵の数が少なすぎるのだが1体1体が弱すぎて見せるまでもないというのも本当なのでレインは下層への移動を促す。途中の敵はレインが難なく切り伏せレインたちは3層に着いた。
「まあこの辺でいいかな。」
レインが立ち止って構えると目の前にタックルボアが表れる。さらにその後ろからパラマウスとスライムも姿を見せレインは1対3の状況になる。
「君はあくまで魔術師だ。だから、その強みを最大に活かせばいい。」
前衛で魔術師であることの強みを活かすとはどういうことだろうかとマロンが首をかしげているとタックルボアはレイン目掛けて突進してくる。あっという間にタックルボアはトップスピードに到達する。あれに吹き飛ばせばいくらレインでも無事では済まないだろうしレインにそれがわからないはずがないとマロンは考える。
「『アイシクルナイフ』」
レインは一瞬で氷の刃を作り上げタックルボアに投げつける。タックルボアの脳天に直撃したナイフはそのままタックルボアの命を刈り取りタックルボアはレインの足元に転がってくる。レインはそれと同時に前に走り出しタックルボアの死体を飛び越える。レインが着地した先にはタックルボアに隠れて突っ込んできたパラマウスが目前に迫ってきていた。
「『テイルウィンド』」
レインは今度は自身のスピードを上げパラマウスの攻撃を躱し剣で一閃。一撃でこちらも仕留める。
「『パラライズショック』」
そして2体をあっという間に倒したレインは少し遅れて突っ込んできたスライムを雷魔法で落ち着いて処理して戦闘終了。
「すごい。」
マロンからすれば衝撃的な光景だった。マロンの認識では魔法は味方に詠唱の時間を稼いでもらってその代わりに敵に大ダメージを与えるものだと思っていた。それをレインは敵に向かっていきながら剣も使いながら倒していった。
「相変わらずレインさんの戦い方はすごいですね。」
以前からレインの戦い方を知っているリンからしても間近で見るとやはり衝撃を受けるようだ。そもそもタックルボアはトップスピードに乗せないように倒すのがセオリーだ。それをレインが知らないはずはないのでデモンストレーションとしてわざとやったのだろうとマロンは考える。
「あれってもしかして移動しながら詠唱してるんですか?」
マロンは横にいるリンに聞いてみるとリンは横に首を振った。本来、魔法は止まって詠唱するのが基本だ。ただ、一部の魔術師は途中で舌を噛んで魔法を失敗するリスクを冒してでも移動しながら魔法を使うことをマロンは知っていた。レインの魔法の発動速度はそうでないと説明がつかないほど止まっている時間が短かった。
「あれは俗に言う無詠唱魔法ってやつだよ。正確には生成魔法なんだけども。」
答えは戻ってきたレインの方から返ってきた。
「どういうことですか?」
「簡単に説明すると詠唱魔法の詠唱で補ってる部分をすべて手動で行う魔法かな。」
レインの説明はどう考えても便利なものようには聞こえなかったが使いこなせるようになればレインが見せてくれたように前衛としても十分戦えるようになるようにマロンは感じた。
「君のトラウマは自分に向かってくる敵に対してのものだ。それなら君に意識が向く前に攻撃してやればいい。そして、君に向かってくる敵に対しては剣で戦えば君の弱点はカバーできる。」
レインの経験上、詠唱中の魔法を中断してしまう原因は詠唱中は無防備になるという自覚があるからだ。それならば魔法を使わなくても戦える手段を用意してしまえばいいというのがレインの考えだ。
「レインさん、あたしもそれを使いこなせるようになれば前衛としてやっていけますか?」
「たぶん君ならエース級の前衛になれるんじゃないかな。君の努力次第だけどね。」
レインはマロンをそう評価した。
「あたし、やってみます。レインさんが時間がある時でいいのでいろいろ教えてください。」
マロンはこの戦い方はレインからじゃないと教われないことを理解していた。だから、どうにかしてレインに時間を作ってもらわないといけないことも分かっていた。
「それなら、俺はこれからギルド作るんだけどそこに入らない?」
マロンにとってレインからこの提案をもらったのはかなり嬉しかった。ギルドに入ることにまた裏切られるのではないかという不安と抵抗もあったが命の恩人であるレインのところなら話は別だった。
「ぜひお願いします。」
こうしてレインは初めてのギルドメンバーを仲間に迎え入れた。
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