第12話 マロンの復帰1

 それから数日、拠点に必要なものを揃えギルド設立の準備を順調に進めていたレインにリンからマロンが復帰の準備を整えたと連絡をもらった。レインはリンにいくつか頼みごとをして翌日マロンとダンジョンに潜ることにした。


「レインさん、今日はありがとうございます。」


 マロンはダンジョン前でレインと会うと勢いよく頭を下げる。


「今日はよろしく。」


 レインも軽く返事を返す。


「お待たせしました。」


 そこにサポーターとしてリュックを背負ったリンも合流する。


「リンさんも今日はよろしくお願いします。」


 マロンはまたも勢いよく頭を下げる。そして、頭を上げるとリンのリュックに目が行ったようだ。


「あの、そのリュックには何が入ってるんですか?」


 今回のダンジョン探索はマロンの復帰の様子見が目的なので1~2層の上層にしか潜る予定が無く時間もそれほど潜る予定では無いのでリュックを背負うほどの準備は本来は必要ない。


「一応の保険ですよ。何かあると大変ですから。」


 リンはそう言いながらレインの方を見る。このリュックはリンがレインに言われて準備したものだった。


「それじゃ早速潜りましょうか。」


 レインが言うと2人はうなずきダンジョンに潜ることになった。


「レインさんって魔術師の方だと思ってたんですけど前衛もできたんですね。」


 ヘアル草を採取しながらマロンがレインに話しかける。今日のレインの装備はマロンを助けたときと異なり小さめの盾に剣を持つ完全に前衛の装備だった。


「いろいろあって新人のころにある程度やってたから一応できるくらいかな。本職の前衛に比べたら物足りないくらいの実力しかない。」


 レインがステラとパーティを組み始めたことで2人でダンジョンに潜る過程でレインが前衛をこなす必要が出てきたためレインは一時期前衛として過ごした。そのため前衛としての基礎的な技術と知識は持っていた。


「へぇ~、そうなんですね。」


 マロンが相槌を打つがよくわかっていない感じだ。そもそも、魔術師であるレインだが魔法を使わなくてもマロンよりは強いのだ。だから、レインが自分をどう評価しようとマロンからしたら雲の上の存在なのは間違いない。実際、マロンが今までにパーティを組んだ誰よりもレインは落ち着いて見えており、余裕があるように感じた。


「わたしが知っている情報だとレインさんは前衛としてキャンプ2までたどり着いていたはずですよ。」

「えっ?」


 リンからレインの情報を聞いてマロンはギョッとする。キャンプ2までたどり着ける冒険者は全体の5%ほどと言われている狭き門だ。それを本職じゃない役割でそこまで行く人をマロンは聞いたことが無かった。


「もしかして前衛の方が得意で魔術師としては練習中とかだったりします?」


 だから、魔術師が本職じゃないという発想が出てきてもおかしいことではなかった。そもそも魔法適性がある人間は全体の2割、回復魔法に適性がある人は魔法適性がある人の中で1割とレインはかなり希少な部類の人間だ。その希少性から回復魔法が使えれば回復術師に攻撃魔法が使えれば魔術師になることを協会は推奨しているし、それがこの世界の一般常識だ。とはいえ、ごく稀に魔法適性があるのに前衛を目指す人がいることはマロンも知っていた。実際、そういう人は自分の身体能力に絶対の自信があったりと前衛適性が高い人が多い。マロンからすれば本職じゃないポジションでキャンプ2に行くことより前衛が本職だと考える方が可能性があるように思えた。


「いやいや、俺のメインは魔術師だよ。一応一番得意なポジションはヒーラーだけど今まで俺がいたパーティは俺より優秀なヒーラーがいたからいろんなポジションのバックアップも兼ねてたんだよ。前衛としてキャンプ2まで行けたのも周りのメンバーが強かったからだし俺の実力じゃない。」


 普通の人は全てのポジションのバックアップなんてできないとマロンは思ったのだがレインが当たり前のように言うのでもしかしたら最前線で戦う冒険者は複数ポジションできるのかもしれないとマロンはリンの方を見る。


「マロンさん、この人が特殊なだけで普通の人は複数ポジションなんてこなせません。」


 首を横に振るリンを見てマロンは自分の価値観が間違ってなかったと安心する。マロンはようやく目の前の人物がとんでもない人物であることを理解した。


「わたしの知り合いいわく、レインさんは最前線から最後衛までどこのポジションを任せても戦線を維持できるそうですよ。」


 レインからすれば戦線が維持できたところで敵を突破する力が無ければ何の解決にもならないのだが。


「レインさん本当に強い人なんですね。そんな人がわたしなんかに付き合ってくれるなんてすごい光栄です。」


 マロンからすればレインがかなりの実力者であるのは分かっていたが思っていた以上にとんでもない人物だった。それと同時にどうしてそんな人が自分に付き合ってくれるのか疑問に感じレインの方を見る。そうすると歩いていたレインは急にピタッと止まり武器を構える。


「魔物だ。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る