第11話 ギルド拠点に求めるもの3

 リンの説明には説得力があるとレインは感じていた。あくまでも可能性の話ではあるがもしもそれが当たっていればレインにとってこれ以上の拠点は無いだろう。


「それとわたしがレインさんに高級住宅街を勧めたい理由が他にもあるんですけどこれは見た方が早そうですね。」


 リンがそう言うのでレインとリンは高級住宅街に向かうことになった。メインストリートを抜け高級住宅街に入るとそれまでの喧騒が嘘のように急に静かになる。


「こんなに雰囲気が変わるんですね。」


 川一つ隔てて隣のエリアに移動しただけなのに街を歩いている人の数が一気に減り、身なりの整った人ばかりになる。


「高級住宅街の特徴としては家の敷地が広い事、治安が良い事が挙げられますね。」


 高級住宅街の建物はレインが大きめの一軒家として想像するサイズから一回り大きくそこにさらに庭が付いているのだから驚きだ。


「この辺はまだメインストリートに近く人気のあるエリアなので敷地としては狭いほうなんですけどね。」


 リン曰く奥の方にいけばさらに敷地が広い豪邸が存在するのだという。


「この辺でもメインストリートの拠点になるような建物がもう1個入って余りあるくらいのサイズなのにこれより広いところがあるんですね。」


 レインからすれば辺りを統治する貴族の豪邸が広いのは知っていたがそれ以外が買える敷地でこのサイズのものがあるのは驚きだった。そしてどこの敷地も敷地の中が外から見えづらいように敷地を塀で囲っている。


「そして、敷地の中を見えないようにすることで覗きこもうとすれば目立つから抑止力にもなって治安が良いか。」


 そもそも冒険者などローブを羽織っているような人が珍しいエリアだ。挙動不審なやつがいれば目立つし、犯罪を犯すようなやつらは目立つことを嫌うためこのエリアの治安が良いのも納得だ。


「見ての通りこのエリアの敷地は建物がところ狭しと立ち並ぶ商業エリアと比べるとかなり広いです。商業エリアの狭い建物に大金をつぎ込むくらいならこっちにお金を費やした方が有意義なのでは、というのが一つ。」


 リンはそう言って一度言葉を区切る。


「もう一つはこれからレインさんが人を育てていくなら体を動かせる場所は必要だと思いまして、こういう高級住宅街では人の目につきづらい建物の裏側にプールとかのくつろげるスペースを作ることが多いんですけど、そういう場所を訓練場にしてみてはどうかなと思いまして。」


 リンのレインのことをよく理解しているからこその提案。リンの知る限り、ステラやクレアと一緒に魔法練習していることが多かった。レインはお互いにいろいろ言い合いながら技術を磨いてきていた。だからこそリンはレインがギルドを作るのならこういう場所が必要だと思ったのだ。


「確かにこれだけ広ければ素材用に大きめの倉庫も置けますしこのエリアは俺にとって最適かもしれません。」


 レインが自宅で保管している魔物の素材はすでにスペースがいっぱいになっており、本当にレアなものを厳選してそれ以外はお金に換金せざるを得なくなっていた。そのおかげでギルド設立の資金がたんまりあったりするわけだができることならば保管しておいた方が必要になったときに安く済んだだろう。


「リンさん、このエリアなら依頼云々の話は抜きにしても良い拠点が見つかりそうな気がします。」


 レインはすっかりこのエリアの魅力に惹かれていた。レインは高級住宅街に拠点を構えることに前向きであり、いいところがあれば速攻で購入するつもりだった。


「すいません。わたしが思っていたより売りに出てる土地が無くて。」


 レインたちが拠点を探しに来たのは高級住宅街の中でも商業エリアへのアクセスが良い富裕層に人気のエリアだ。そもそも売りに出てる建物が無ければ拠点にすることもできないためレインたちは拠点にできそうな場所を捜し歩いていた。


「俺もまさかこんなにどこも売ってないとは思いませんでした。」


 この街にそれだけ高級住宅を買える人がいるということが今日の成果と言ってもいいかもしれない。


「一応こっちも見てみませんか?」


 レインたちは住民たちの目に入りやすい高級住宅街の人通りの多い道沿いでずっと売りに出てる土地を探していたのだが成果なく商業エリアに近いところまで戻ってきた。レインが示したのは先が行き止まりになっている道。この先でたとえ見つかっても広告効果は期待できないと行くときはスルーした道をレインたちは行ってみることにした。


「地図上では割とすぐに行き止まりって感じでしたけど思ったより先がありますね。」


 ちょっと先まで見に行くかくらいの軽い気持ちで提案したレインだったが少し上りになっている道は地図に示されていない曲がり角がありレインたちはその先を確認しに行っていた。


「あっ。」


 曲がり角までたどり着いたレインはその先を見て声を上げた。


「あんなところに空いてる土地があったんですね。」


 遅れてレインのところまでたどり着いたリンもレインが見つけたのと同じ土地が売りに出ていることを示す看板を見つけた。


「どうしましょうか。ここに拠点を構えてもあまりギルドの知名度は上がらないですよね。」


 見つけたはいいもののお世辞にも立地がいいとは言えない場所にある土地。ここに拠点を構えるくらいなら商業エリアのメインストリートから少し外れたところに拠点を構えた方が効果はあるだろうとリンは考えた。引き返そうとしたリンとは反対にレインは見つけた土地に吸い寄せられるように近づいていく。


「ここ、他の土地より少し広いですね。」


 道の一番奥にある土地はレインの言うように他の土地より少し広くなっていた。よく見ると裏は高台になっており、見晴らしは良さそうだ。


「リンさん、俺たちのギルドはたぶん少数精鋭になります。立地が良いところを選んでもきっと舞い込んでくる依頼をすべてこなすことは出来ないでしょう。俺はそれよりもみんなが成長できるギルドにしたいです。」


 正直、お金が足りないのであれば下層に潜って素材を取ってきて依頼とは関係なく売ればいいのだ。依頼の素材よりは得られる金額は少なくなるが下層まで安定して潜れるパーティを育て上げれば何とかなるだろう。問題はそこまで成長できる環境をどうやって作るかだ。


「俺はここに拠点を構えた方がメンバーの成長につながると思います。」


 レインやステラはレインの魔眼のおかげでダンジョン内で他に魔物が来ないことを確信したイレギュラーの発生しない状況でひたすら戦闘の練習をすることができた。その経験はレインにとってかなり大きなことだった。ただ、みんながそういう経験を積めるわけではない。


「俺は俺のギルドのメンバーには練習できる環境を提供できるようにしたいです。これを最優先にするのならここに拠点を構えるのが最善だと思うんです。」


 レインは口に出すことで覚悟を決める。


「レインさん、あなたがそう思うなら思ったことを全力でやればいい。わたしはあなたのやりたいことをするためのサポートをするためにギルドに入るのだから。」


 こうして【栄光の銀翼】は拠点も決まりようやく動き出すことになる。

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