第10話 ギルド拠点に求めるもの2

「街の皆さんからの依頼はギルドにとって生命線です。じゃあその街の皆さんはどうやって依頼するギルドを決めていると思いますか?」


 ギルドは引き受けた依頼料などから会費やテナント料を捻出することになるわけなので依頼がたくさん来ない事にはやっていけない。


「基本的には付き合いがある人やギルドに出すのが多いイメージですね。」


 例えば武器屋の人間ならばその店の常連の冒険者の実力はある程度知っている。だから、武器の素材に困ったときにその冒険者のギルドや個人を名指しで依頼を出すのはよくある話だ。ポーションを大量生産しているような店はとにかくいろんなところに依頼して在庫をかき集めていたりするがそれは今回の話では例外だろう。


「そうですね。知り合いがいる人はそうやって依頼を出したりします。では、あまり冒険者に詳しくない方たちが依頼を出す場合はどうでしょうか?」


 例えば家族が病気にかかったとしてその治療にダンジョン内でしか取れない素材が必要になったりする。しかし、冒険者にあまり関わりのない一般人にはギルドの良し悪しはわからないだろう。


「わかりやすいところではギルドランクですよね。」


 当然のことだが実績を上げている大手ギルドほどギルドランクは高い傾向にある。それが一つの基準になるのは事実だがギルドランクが高いギルドほど依頼料も高くなるので出費を抑えるならば依頼するギルドのランクを下げざるを得なくなる。そして、ギルドランクが同じギルド同士を比較する場合は他の物差しが必要になる。


「ギルドの前にそのギルドの実績が張られているのはそのためですか。」


 いろいろ考えているうちにレインはギルド前に張られている大量のギルド実績の謎が解けた。


「あれもギルドが実績をアピールするための手段の一つではありますね。でも、この街の識字率はそれほど高くないので張られていても分からない人も多いそうですよ。」


 だから、とにかく数を張るギルドもあるとリンは話す。ここまでいろいろ考えてきたレインだったがどうやっても最初のメインストリートの話とギルド依頼の話が結びつかない。


「そろそろ答えをお伝えしますね。理由は主に2つあるんですけど1つは知名度の問題ですね。まず知られてないと依頼を出す候補にもならないので大通りに拠点があることは大事なんですよ。」


 レインが考えて黙り込んでしまったのを見てリンが答えを発表する。リンの答えにレインは納得する一方でそれがメインストリートでなきゃいけない理由にはなってないように思えた。


「それでもう1つの理由なんですけどダンジョンに関わってない人でもメインストリートのテナント料が高いことは知ってるんです。だから、メインストリートに拠点が置けるほどお金を持ってるギルドなら実績もあるに違いないって考えるそうですよ。だから、ギルドの前に実績を張るよりも効果があるらしいです。」


 文字が読めなかったり、張られている実績がどれほどのものかわからなくてもお金があるということそれだけクエストをこなしているということはわかるという事らしい。だから、メインストリートに拠点を構えるということはそれだけで良いアピールになるということらしい。


「リンさんはそれと同じ効果が高級住宅街でも可能だと考えてるってことですか?」

「そういうことになりますね。」


 確かにリンが言うように高級住宅街もお金が無いと手に入らないというのは周知の事実だ。しかし、そもそもメインストリートから外れるということはそれだけ人の通りが少なくなるということだ。そういう意味では商業街で得られるような知名度は得られない。レインからすればそこが懸念点になる。リンがそこを理解してないとはレインには思えなかった。


「それでおそらくレインさんが気にしてるのはギルドの知名度の問題だと思うのでそこも少し説明しますね。大前提ですけど簡単なクエストをいくつか受けるより難易度が高いクエストを1つ受けた方が短期間で稼ぎやすいですよね。」


 例えばキャンプ1より下層の魔物の素材が要求される場合、そこまで潜れない初級冒険者はそのクエストを受けることすらできない。当然のようにそのような難易度の高いクエストはそれなりの報酬が無ければギルドが受けることは無い。だから、難易度が高くなればなるほど報酬が高くなるのは当たり前だ。


「もちろん大所帯の大手ギルドなら初級冒険者を大量に受け入れて初級レベルの依頼をいくつも受けることも可能なんでしょうけど、レインさんはダンジョンを攻略できる冒険者を育てるって言ってましたし依頼を大量に捌けるほどの冒険者をギルドに入れるつもりは無いですよね?」


 リンの問いにレインは縦に首を振る。


「そうなるとメインストリートに拠点を構えても依頼が捌けずに評価を落とすだけになっちゃいます。なので今わたしたちが立ち上げようとしてるギルドに必要なのはある程度の難易度の依頼が定期的に入ってくるくらいの拠点です。」


 依頼の量は立地によって変わるが難易度の高い依頼はメインストリートにあるギルドに偏りやすい。これは大金を払ってまで手に入れたい素材なら確実に手に入れてくれそうなギルドに依頼したいという心理が働くからだ。だから、リンが言うような都合のいい拠点は理想でしかないとレインは考えていた。


「これはわたしがギルドの活動履歴を調べた結果なんですけど同じメインストリートにあるギルドでもダンジョンに近いギルドよりも高級住宅街側のギルドの方が中級以上の依頼の数が多いんですよ。」


 ギルドには協会に活動記録として達成依頼報告をしなければいけないという決まりがある。


「それでクエストの依頼主を調べたんですけどある程度お金を持ってる富裕層の依頼って高級住宅街側がほとんどでダンジョン近くのギルドにはほとんど無いんですよ。」


 その分ダンジョン近くに拠点を構えることの多い大手ギルドには武器屋などの冒険者となじみの深い依頼主が多いらしいがこちらはそれほど極端な偏りでは無いらしい。そもそも難易度の高い依頼はある程度お金を払わないと受けてもらえないため依頼主が限られる。


「つまりですね、高級住宅街に拠点を構えれば商業エリアに拠点を構えるより報酬のいい依頼を受けれる確率が高いんじゃないかと思うんですよ。」

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