第9話 ギルド拠点に求めるもの1

 翌日、レインは協会前でリンと合流した。


「昨日は商業エリアのメインのところを中心に探したので今日はそこから少し外れたところを探そうと思うんですけど。」


 レインは今日の方針をリンに説明する。


「向かう前に少し確認してもよろしいですか?まずはレインさんが絶対必要だと思ってる条件とあった方がいいと思っている条件をお伺いしたいです。」


 リンは先に条件を整理してから探しに行こうと提案する。


「条件ですか。深くは考えてないですけど便利な場所でそれなりの広さがある場所くらいで考えてました。」


 冒険者は冒険に必要なものを揃えたりダンジョンから取ってきたものを売ったりとで街で売り買いをする機会が多い。だから、それらを売り買いする商業エリアに近いことはギルドの必須条件だとされている。そして、ギルドのメンバーが自分の荷物を置いとけるロッカーはギルドに所属する魅力の一つとされているためこちらも必須レベルだとされている。そのため、メンバー枠分のロッカーが置けるくらいのスペースは確保しないといけないとレインは考えていた。


「予算はどれくらいを考えてますか?」

「一応お金には困ってないのでいい場所が見つかればお金は気にしないつもりです。とはいえ限度はありますが。」


 レインはそれに釣り合うだけの物件ならお金を支払うつもりでいた。その点は他の新生ギルドとは差別化できるとレインは考えていた。だから、昨日レインは新生ギルドが手の届かない一等地を見て回ったのだが大手のギルドが立地のいい場所に拠点移動してることに気が付いたので今日はもうちょい安い場所を目指そうと考えていた。


「それならここら辺を見て回りませんか?」


 リンが地図を取り出して指し示したのはレインが思っていたエリアと全く違うエリアだった。


「高級住宅街ですか。理由を聞いてもいいですか?」


 リンが提案したのは商業エリアの隣にある高級住宅街の商業エリアに一番近いエリア。とはいえ、ダンジョンに向かうには商業エリアのメインストリートを端から端まで縦断しないといけない距離にあり便利とは言えない場所にある。


「レインさん以外だったらまずこのエリアは勧めません。そもそもこのエリアは値段が高くてよほどの余裕が無いと買えないので選択肢にもなりえないエリアだからです。」


 一般人が容易に手が出せないからこその高級住宅街だ。ギルドの拠点を建てる場所としてよほど大金が出せるギルドでもない限り選べない場所であり、それだけのお金があれば商業エリアのメインストリートに空きができるタイミングを待つ方が賢明と考える人が多いだろう。しかし、リンの考えは違った。


「まず商業エリアにギルドを建てるのと違うところは高級住宅街の建物は一括購入なところです。毎回テナント料を払い続ける商業エリアと比べるとどこかで必ずこちらの方が出費が少なくなります。」


商業エリアはテナント契約をして建物を借りるのがほとんどだ。そもそも商業エリアのメインストリートは土地そのものの値段は高級住宅街に劣らないとされるくらい高く資産家たちの間では人気なため、冒険者がギルド拠点を買うよりはオーナーから貸してもらう方がよほど現実的なのだ。


「今の相場ですとメインストリートに約2年拠点を構えられるお金があれば高級住宅街が買える計算ですね。」


 本来なら2年続くかもわからない新生ギルドが拠点を構えるエリアではない。少なくともリンは2年以上余裕で続くと考えているからここを提案していた。


「レインさん、そもそもですけどなんで多くのギルドがお金のかかるメインストリートに拠点を構えようとするんだと思いますか?」


 リン曰く少し無理をしてまでメインストリートに拠点を構えようとするギルドは多いらしい。それこそ元の立地がダンジョンに近くそれほど悪い場所にあるわけでもないのにメインストリートに拠点を移すギルドがあるくらいらしい。ちなみにメインストリートからちょっと外れただけでテナント料は半額以下になるほどメインストリートは人気のエリアだ。


「メインストリートにそれだけの価値がある理由ですか?わからないですね。」


 考えてみればギルド以外はメインストリート以外でも人気があるらしく一本隣の通りも店がたくさん出ているがギルドの数は少ないことをレインは思い出す。おそらく、ギルド特有の理由があるはずなのだがその理由がレインにはわからなかった。


「それじゃあレインさん、ギルドに依頼する方ってどんな方たちですか?」


 リンが質問を変える。


「協会からの依頼か街の人たちからの素材の納品依頼がほとんどですね。」


 こないだリンが出していたようなダンジョンの調査依頼や大量発生した魔物を間引くための討伐依頼など協会からの依頼もあるがギルドが受ける多くの依頼は街の人からの納品依頼になる。人気なところで言えば冒険者に必須級のアイテムであるポーションの素材である『スライムの体液』と『ヘアル草』は1層で入手できる素材であるがその需要から常に納品依頼が出ている。特にヘアル草はダンジョン内に広く生えている植物であり魔物との戦闘無しで採取できることから新人冒険者の生命線でもある。リンはレインの答えに満足したようにうなずく。そして、次の質問に移っていく。

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