第8話 マロンとの再会
翌日、ギルドの拠点探しに街を歩いて回ったあとにレインは協会に顔を出した。協会はまだ冒険者がダンジョンから帰ってくる時間より早いため閑散としていた。
「レインさん、ちょうどいいところに。拠点探しは順調ですか?」
レインが協会に入るとすぐにリンが見つけて話しかけてきた。
「それがすでに条件のいいところはだいたい他のところに取られてしまっていてなかなか見つけるのに苦労してます。」
レインも初日から良さそうな候補が見つかるとは思っていなかった。レインはそもそも初日は人気エリアで見落としが無いかを確認していたし、みんな同じような思考で場所を探すので初日から見つかる可能性なんて限りなく0に近かったのだが。
「そうですか。そしたら明日はわたしも同行してよろしいですか?ちょうど仕事が非番なので。」
いずれリンがギルドに常駐するようになれば拠点はどちらかと言えばレインよりリンの方が過ごす時間のほうが長くなるだろう。だからリンが拠点に興味を示すのは当然ではあった。
「そうしてくれると助かります。」
レインの本職は冒険者であり、街に詳しいわけではない。だから、レインからしても街についていろいろな情報を持っているリンが一緒に探してくれることは心強かった。
「それとですね、この後って時間ありますか?ちょうど今マロンさんが協会に来ているので時間があれば昨日話していたお話の機会をいただきたいなと思うんですけど。」
マロンはこないだの一件のショックからまだ立ち直れてないらしく今はカウンセリングを受けている最中らしい。どうやらレインが昨日渡したものをリンが連絡を取って今日取りに来たもののあまり顔色が良くなかったのもあり、リンがカウンセリングを勧めたらしい。
「いいですよ。こないだの事件からまだ3日しか経ってないから気持ちを切り替えるのは難しいでしょうし何か理由でもないともう復帰できないかもしれませんね。」
ただでさえ、仲間を失い死にかけたのにその翌日にはそれが所属していたギルドに捨てられたことが原因だったとなればマロンのショックは相当なものだろう。ダンジョンに潜ること自体がトラウマになっていてもおかしくない。
「ありがとうございます。あっ、ちょうどカウンセリングが終わったみたいなのでマロンさんと話してきますね。」
奥の部屋から人が出てきたのを見てリンは人が出てきた部屋の方に歩いていく。部屋から出てきたのはマロンではなかったのでおそらくカウンセラーの人なのだろうとレインは予想する。そんなことを考えているとリンが入っていった部屋から顔だけ出して手招きしてきたのでレインも部屋に向かっていく。
「久しぶりだね。」
部屋に入るとマロンは杖を両手で抱きかかえるようにして椅子に座っていた。
「先日はありがとうございました。」
部屋に入ったレインが声をかけるとすぐに立ち上がって勢いよく頭を下げる。
「思ったより元気そうでよかったよ。」
マロンに勢いよく立ち上がって頭を下げれるくらいの元気があることにレインはひとまず安心した。とはいえ、よく見ると頭はぼさぼさで頭を上げたマロンの顔にはクマができているところから精神状態が良くなかったことは簡単に把握できる状態ではあったが。
「カウンセラーの方といろいろ話をしてだいぶ気が楽になったところです。たぶん、あともう数日くらいでダンジョンにも潜れるようになると思います。」
マロンのように仲間を失ったショックでしばらくダンジョンから離れる人は少なくない。そして、足が遠のく期間が長くなれば長くなるほど冒険者として復帰できなくなる。そして、一度復帰することを諦めれば二度と冒険者としてはやっていけなくなる。
「それじゃ、君が復帰の準備が整ったと思ったら呼んでくれ。その時は俺が一緒に潜るよ。事情を知らない初級冒険者と潜るよりは俺と潜った方が何かあっても対処できるから。」
冒険者に復帰しようとした人がいざダンジョンに潜ってからやっぱり戦えないとなってパーティメンバーに迷惑をかけることは珍しくない。そうでなくても復帰後すぐは自分のペースで進めた方がいいだろう。
「いいんですか。ありがとうございます。」
マロンはもう一度勢いよく頭を下げた。マロンのような新人冒険者は例え上層でも1人ではダンジョンに潜らない。これは冒険者になって1か月以内の新人冒険者のソロ生存率が極めて低いことを冒険者になる時に協会から教えられるからだ。だから、たいていはギルドに入るか協会の掲示板で仲間を募るかのどちらかだ。
余談だが協会で受ける魔術適性で魔法の才能があると初めて知った新人魔術師はマロンのようにギルドに所属することが多い。それは魔法の才能があるとわかっても魔法のスペルが分からなければ魔法が使えないからだ。だから、ギルドに入って魔法を教わることから始めることが多い。
「それじゃ、次会う時を楽しみに待ってるよ。」
レインはそう言って部屋を出る。
「レインさん、待ってくださいよ。」
そのまま協会を出ようとしたレインをリンが追いかけてきた。
「マロンさんの件、ありがとうございます。」
「別に大したことはしてないですよ。復帰の時に立ち会おうと思ったのも時間があるからですし。」
お礼を言ってくるリンにマロンのお礼を受け取っただけだとレインは言う。
「そんなこと言ったって復帰に立ち会うって提案したのはマロンさんが復帰する勇気を出せるようにするためですよね?」
どうやらレインの考えはリンにお見通しらしい。
「まあ、彼女は被害者ですからね。あれで冒険者が続けられなくなるんだとしたら可哀そうすぎます。」
冒険者という職業は命を懸ける職業である以上それなりの理由が無ければなる職業では無い。だからマロンにもマロンなりの冒険者になった理由があるはずだ。それをあんなギルドのせいで潰されるのはレインとしては許せなかった。だから、マロンには頑張って冒険者として復帰してほしいとレインは考えていた。
「それと彼女が復帰する時、サポーターとしてリンさんにも同行してもらえないですか?」
レインの思わぬ提案にリンは少し考える。
「何か理由があるんですよね。潜り始めが協会が落ち着いてからの時間になっちゃうと思いますけどそれでよろしければ。」
「ありがとうございます。それじゃまた明日会いましょう。」
こうしてマロンの復帰にリンの同行が決まった。
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